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狂禍四魂  作者: 発戸あいす
第2章
47/78

46.信頼

「……なるほど」


 おもいは携帯をしまった後、感情を押し殺すように呟いた。そして、息を吸う。


「残念ですが、今回は諦める以外の選択肢がないようですね」


 やけに大きな独り言だった。椿つばきよみの耳にも届くほどに。椿たちにとっては、増援が合流し、反撃が始めるかと思いきや、逆に撤退宣言のようなものが聞こえてきたということになる。どのような連絡を受け取ったかはわからないが、はいたちの方で動きがあったと考えるべきなのだろうか。


「ということで、またお会いしましょう」


 想は十月とおつき神社を離れようとする素振りを見せる。もちろん、なおは逃がすわけにいかない。しかし、それは想にも重々承知のことである。


 次の瞬間、爆発音が轟いた。場所は裏門の方だろうか。本殿付近から裏門は視認できないので、状況はわからないが、音で察することもできるだろう。


「私たちを追跡するのも、また一つの選択。しかし、わざわざ人が集まる期間に襲撃した意味を考えるのも、良いかもしれませんね」


 想の言葉によって、思考に迷いが生じた。その時点で、遅れを取ってしまったとも言うべきだろう。気づいたら、想は仮面の人物を連れて、垣を越えるように逃走していた。かおるも戦場を離脱し、想たちの後に続く。


 また、詠の足は無意識的に裏門の方に動いていた。参拝客や神社の皆の安否を確認せずにはいられなかったのだろう。一方、椿の足は止まっていた。誰を追いかけるべきか迷ってしまったのだ。しかし、冷静な者もいた。


「あの子は私とおんが追いかける。椿は灰音たちの方に戻るべきだ」


 ななが椿に指示を出した。七瀬は敵を追跡するべきではないと考えていた。なぜなら、不自然な撤退だったからである。それが意味するのは、相手を誘き寄せる罠。爆発音で人員を分散させ、追跡者を逆に袋叩きにする作戦などを警戒したのだろう。そして、確実なのは、椿を灰音たちの方に戻すこと。七瀬は皆の安全を優先した判断をしたのだ。


「……了解です」


 返事をした後、椿は参道の方へ駆けていく。七瀬も紫苑を連れて、裏門の方に向かっていった。







 その後、想たちは直霊との物理的な距離を稼ぐため、ひとまず十月神社から遠ざかるように走っていた。


「それにしても、想は息を吐くように噓を言うよね」


 道中、薫が想に話しかけた。


「欺騙こそ、敵と会話する主な理由ではないでしょうか?」

「うーん。言われてみれば、そうかも」


 薫は頷くような仕草を見せる。


「ちなみに、これからの指示は何かある?」

「薫さんは先にしずくさんの方へ向かってください。私たちははくさんを拾いに行きます」

「わかった」


 直後、二手に分かれるように、薫は想たちから離れていった。


「それで、術が解除されたことについて、どうお考えですか?」


 二人になった後、想が仮面の人物に質問をした。


「……最初に言っておくと、私が解除したわけじゃない。というか、そもそも不可能」


 仮面の人物が口を開いた。声からして、若い女性といったところだろう。


「別にそこは疑っていないです」

「……そう。でも、正直なところ、私にも理解不能。無効されることはあっても、解除されたことは皆無」

「なるほど。結局、謎ですか……」


 想は少し溜息を零す。


「後、確認ですが、あなたの術はあの剣士にも通用するのですよね?」

「……それは保証する」


 仮面の人物は、確かな返事をした。


「今回は、私の頑張りが足りなかったと。しかし、あの剣士を術中に嵌めるのは困難を極めると思いますね」

「……無効されないだけでも、良い方」

「操作術などは基本的に全無効でしたっけ? にわかには信じられないですが」


 膨大な記憶の中でも、二つとない話である。


「……私の情報が虚偽と言いたい?」

「疑心も重要です。実際、話と違う部分があるではないですか」

「……どこ?」


 仮面をしているので、表情はわからないが、険しい声色である。


「あなたの話では、二刀流の剣士の他に、鬼火の術者が必ず戦場に姿を見せるということでしたよね? その鬼火とやら、未だに顕現していませんが?」

「……それは私も不思議。直霊の中でも頭一つ抜けた戦闘力があるのが、その二人なのは事実」

「姿を見せない理由があると?」


 例えば、既にこの世を去ったなどの理由が考えられる。


「……推測は無意味。とにかく、鬼火が視界に入ったら、離れるのが良い」

「尻尾を巻いて逃げるしかないとは……」

「……鬼火を物理的にどうにもできない以上、仕方ない」


 そして、想と仮面の人物の会話が続く中で、背後に映る十月神社の建造物も、景色から消えていくのだった。







 時は遡り、参道付近では、屍を破壊してしまった後、ちょうがいる場所まで一度戻るりんの姿があった。


「……伊蝶、すまない」

「別に気にしないで。人形はまた用意できるから。でも、これで負けたら許さないよ?」


 謝る凜に対して、伊蝶は言葉を返した。


「私の敗北が想像できるのか?」

「いや、全然」


 凜の質問に、伊蝶は首を横に振った。


「ならば、伊蝶はここで見ていると良い」

「元から、そのつもりだよ」


 ちなみに、見ているだけであれば、伊蝶はわざわざ敵の前に顔を出す必要はない。しかし、伊蝶が避けたいのは、一人で隠れているところを発見、撃破されること。それよりも、凜の力をいつでも借りることができる位置にいるのが、無難であるだろう。つまり、伊蝶にとって最も安全な区域が凜の周囲。それは、凜の周囲が敵にとって最も危険な区域であることを意味している。


 一方、高火力を誇る凜に対して、灰音たちは策を練っていた。


「千里さん、例のやつはもう見せました?」

「いや、残している」


 灰音の質問に、千里が即座に答えた。


「私と焔が隙を作ります。後はお願いしても良いですか?」

「任せろ。必ず、仕留める」


 確固たる言葉に、灰音の信頼も揺らぐことはなかった。そして、次に灰音は焔の方へ顔を向ける。


「焔、複雑な指示はしない。ただ一つだけ、私を信じて」

「はい!」


 それは、わざわざ言葉にする必要がないものだったかもしれない。

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