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狂禍四魂  作者: 発戸あいす
第2章
34/76

33.正解

 時刻が零時を過ぎた深夜、神社近くの森林には、何やら二人の人影がいるようだ。また、遠くの木の上にはその二人を眺めているせんの姿があった。


「うーむ。深夜に出かけていくから何事かと思い、後をつけてみたが、稽古の続きとは……」


 千里は単眼鏡を覗きながら、独り言を呟いた。千里は自身の身軽さを活かして、器用に枝の上に乗っている。その視界の先にいるのは、椿つばきよみである。


「しかし、椿があの子に傾倒している状況、余には良いことに思えんな」


 千里個人としては、椿が人と仲を深めていくのは当然嬉しいことである。だが、なおとしては、話が変わってくる。


「……余はどうするべきなのか、正解がわからない」


 千里は溜息を零した後、木から飛び降りて、覗き見を止めた。


「最悪なのは、椿と衝突する未来か……」


 その後、千里は静かにホテルへと戻り始めるのだった。







 翌日もはいたちは神在大祭の段取り確認や予行演習見学に時間を費やした。一方、椿と詠は森林の中で鍛錬するのが日常になっているようだった。


「よ、よし、一旦休憩にしようか……」


 全身の力を抜いた後、椿が口を開いた。


「……わかりました」


 詠は連日の特訓に疲れているようにも見える。その後、椿は近くの切り株に腰を降ろし、ペットボトルに口をつけた。詠も水分補給をし、体力回復に努める。そして、稽古中の緊張感が解れていく中で、詠は椿のことをまじまじと見つめ始めた。


「ど、どうかした? 私の顔に何か付いている?」

「いえ、慣れないものだなと思いまして」


 非連続的に変化する椿の性格に、詠の頭はまだ追いついていないようだ。


「……やっぱり違和感、凄い?」

「包み隠さず言うと、そうですね」


 椿にも自覚はあるようだ。


「そ、そういえば、あのときの質問の答え、まだ返してなかったね……」

「私、何か質問しましたっけ?」


 詠は顎に手を当てて、少し考えるような素振りを見せる。


「……私の本性はこっちだよ」


 少しの間の後、椿は小声で言った。


「ああ、確かにそんなことを尋ねましたね。しかし、意外です。あっちが素だと思っていました」

「あれは、私の本来の性格とは真逆に作り出された人格みたいな感じ。元々は自己嫌悪によって生まれたものらしい……」


 つまり、弱々しい自分を忌み嫌う感情が、全く異なる性格の自分を創造したと言えるだろう。ちなみに、記憶は共有しているので、別人というわけではない。


「だから、向こうの人格が消えたら、私は何もできない。情けないよね……」

「……」

「ごめんね、突然こんな話して」


 口を閉じてしまった詠を見て、椿は反省しているようにも見える。


「……気にしないでください。なぜ、それを私に話してくれたのか、少し考えていただけです」

「なぜだろうね。詠が直霊の人間じゃないからかな……」


 椿は空を見上げている。


「私、直霊とか警察以外に関わりがある人いなくてさ……」

「……私も似たようなものかもしれません」


 詠も基本的に神社の外に出ないので、神社関係者以外の知人は少ない。


「ちなみに、椿さんはいつから直霊に?」

「う、うーん。生まれたときから?」

「え?」


 椿から飛び出た言葉に、詠は驚いている。それが普通の反応であるだろう。


「私、親が直霊の創設者の一人でね。そのせいか、そのおかげか、幼少期から鍛え上げられたというか何というか……」

「なるほど。椿さんの強さに少し納得できたような気がします」

「ただ、正式な所属歴は十九歳からだったかな……」


 このため、椿の直霊所属歴は五年として、形式上は灰音とせつの同期になっている。


「椿さんに追いつくために必要な努力がどれほどのものなのかも、何となく理解できました。私、まだまだ頑張れそうです」

「……ふふ、私に追いつくのは中々難しいよ。でも、こんな私でも強くなれたから、詠もきっと強くなれると思う」


 椿は珍しく笑みを零した。そして、また二人の特訓が再開されるのだった。







 その日の夜も、椿と詠の稽古は続いていた。一方、ホテルの部屋には、一人取り残されるような千里の姿があった。


 千里は通話するために携帯を耳に当てる。暫しの間、呼び出し音が静かな部屋に反響している。


「もしもし、ななか?」


 電話が繋がった後、千里が口を開いた。その相手はどうやら七瀬であるようだ。


「千里? どうした、何かあったか?」


 携帯の向こう側で七瀬が返事をした。突然の電話だったせいか、七瀬は不安になっているようにも感じられる。


「いや、神器について、今のところ問題ない。ただ、七瀬に頼みたいことがある」

「それは良かった。それで、頼みとは何だ?」


 七瀬は安堵した声に変化した。


「確認だが、七瀬もこっちに合流するのだよな?」

「ああ、溜まっていた警察業務も直に完遂する。神在大祭の開催日には、出雲に到着できるだろう」


 神在大祭の期間中には、境内に一般人も多く入ることになる。つまり、神社の中で戦闘が生じた際には、近くの人々の避難誘導をする必要がある。よって、戦闘役以外にも多少は人手がいた方が良いという判断であるのだろう。


「そのときに、おんも連れてきてほしい」

「わかった、私から声をかけておこう。他にも人手が欲しいのであれば、警察を連れていこうと思うが?」

「いや、人手は十分じゃ」


 千里は単なる人手不足を心配しているわけではないようだ。


「後、一応聞いておきたいのだが……」

「何だ?」


 言い淀むような千里の口調に、七瀬は少し身構える。


「……こまを連れてくることは可能か?」

「狛を?」


 想定外の発言に、七瀬は驚きの声を上げた。


「……流石に狛を出雲まで連れていくのは厳しいと言わざるを得ない。何せ、敵の出現が不確定だからな」

「まあ、だろうな」

「それで、狛を求める理由は何だ? 敵の無力化が不安か?」


 七瀬が不思議そうに、千里に尋ねた。


「いや、無理なら大丈夫じゃ。別に、敵に対する戦力を心配しているわけではない」

「そうか。まあ、詳細は直接聞くことにしよう」

「ああ、急な願いをして、すまなかった。ありがとう、七瀬」


 その後、千里は七瀬との通話を終えて、携帯をポケットにしまう。


「……これで良いと信じよう」


 誰もいない部屋の中で、千里はやけに力強く独り言を呟いた。そして、神在大祭の開催は、二日後まで迫っている。

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