開拓村と仲良くなる
草木がまばらに広がる荒れた小さな丘。
その上に粗末な丸木づくりの小屋が輪になって建てられている。
ボクは迷宮伯の嫡子、オウド。流民の開拓村にやってきた。
外周の小屋と小屋の間は小さな柵で塞がれていて、村の外壁をかねている。
そして輪の中心は広場になっている。
木材を組み合わせた、もしくは木材そのものを敷いただけのテーブルが並び、村人たちがその周りにワイワイ言いながら集まっていた。
テーブルの上にはパンとチーズが並べられ、あちこちの焚火で塩漬け肉が焙られてパンの上に配られている。
エールの樽があけられて、木造りのコップやお椀に注がれては飲まれていた。
「嫡子様ばんざーい」
「若君と姫君ばんざーい」
「はっはっは、気にせず楽しんでくれたまえ!」
「お楽しみくださいね」
大きく手を振るボクの横で控え目に手を振るのは妹のドルミーナ。
村人たちはたぶんエールをこれだけ好きに飲めるのは久しぶりなんだろう。
とても楽しんでくれている。
よしよし、ボクの完璧英雄領主計画の第一歩、新住民たちと仲良くなるは成功だな。
ボクは馬車に満載の食料を見た、半分は配ったけどまだまだある。
これはギルド長お婆さんに相談して、グリムホルン市参事会の大商人たちに西大公からもらった引き出物の食器類を物資と交換してもらったんだ。
市の商人たちはみんな不景気で商品の売れ行きがわるく現金もなかったから、その不良在庫を西大公お墨付きの最高級食器に引き換えられるというのでとても喜んでくれてた。取引はお互い得するのが大事だ。
おかげで馬車数台分の食料と開拓道具が手に入った。
「こんな風にばらまいてしまって、食べつくしたら終わりですよ。どうするのですか」
「あら、皆喜んでお兄様を称えているのだからこれでいいのよ?」
取引や物資の受け取りに使いまわされた書記官のルークがぶつくさ言っているのをたしなめるドルミーナ。
まぁ、当然そこは考えているけど。まずは彼らと仲良くなって、元の住民たちと仕事の取り合いをやめてもらわないとね。
「若君さま、今回は本当にありがとうございます」
「このように多くの食料をいただけるなんて、本当に助かります」
「収穫まで食料に余裕がなく、節約していたところでしたので」
開拓村の顔役なのか、村を代表する形で数名のおじさんとおばさんたち。
この間の流民の少女を連れている。
「それに、この間はイレーネを助けていただきまして。本当に感謝の言葉も」
流民の少女、イレーネさんが喜びの表情を称えながら丁寧にお辞儀をしてくれた。
その笑顔は全力で喜びの歌を奏でるように明るく周囲を染め上げている。
質素で繕った跡だらけの衣服や痩せ気味の身体を気にさせないぐらい印象的な笑顔だ。
「む、お兄様。見つめすぎです」
隣の妹がちょっとむくれた感じで、小声で文句を言ってくる。
あ、確かに年頃の女の子をじろじろみるものじゃないよね。失敬。
でも、いい笑顔だな、こんな女の子が周りに居たらとても気分が明るくなるに違いない。
ずっと眉間にしわを寄せて書類をにらんでお小言ばかりの書記官とは大きな違いだ。
視線のやり場がないのでルークでも見ていると、若い書記官は「なんか言いたいことがあるんですか」とでも言いそうな目でこちらを見てくる。
いえ、なんでもないけど。最近仕事がんばってるから安らぎが欲しいよね。
話が突然とまったので困惑気味の村人たちが恐る恐る問いかけた。
「その、若君様。ここまでしていただいて、我々はどう返せばよろしいのでしょうか」
「うん、じゃあボクのお願いを聞いてくれるかな」
「もちろんでございます!領主さまの嫡子様ですのでお願いなどと言わずご命令ください!」
うん、狙い通りだ。これでボクの言う通り働いてもらって領地を発展させることができる!
なにせうちの領地は封建制で自治が中心。
領主はお願いか契約でしか命令できない。
だからボクの言うことを聞いてくれる人たちが欲しかったんだ。
「いいだろう、では身体で返してもらうけど覚悟はいいかい?」
「身体……」
そういうと村人たちはお互いに顔を見合わせ。
無言でイレーネのほうを振り向くと。
イレーネは笑顔のまま顔を縦に振った。
「わ、わかりました。ではイレーネをお側に……」
「えっ」
え?たしかに側にいたらいいなとは思ったけどなんで。
「お兄様、そんな?!私がいるのに!」
「……若君!言い方っ?!」
妹とルークに裾を引っ張られて考える。えっと言い方が。あ。
急に恥ずかしくなって叫ぶボク。
「違う!仕事をしてほしいんだ!」
「お側においていただく仕事ですね、わかりました」
「君たち全員!」
「そんな、男や中年や老人もお側に?!」
一瞬で村人たちに動揺が広がる。
わかった、わかった、ボクが悪かったからちょっと待って落ち着いて?!
誤解を解くのにちょっと時間がかかった。
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