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迷宮伯嫡子はカネがない  作者: 神奈いです
第三章 カネがないので無料で内政

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迷宮攻略(地下1階)

「よぉ、登録終わったか。そこの看板に迷宮の地下1階と地下2階の地図があるから覚えてから行くんだぞ」


迷宮の門番はオウドとドルミーナに親切に助言してから中に入れた。


ぶおんという低く小さな音の響きと共に涼やかな風が中から噴き出している。

地下1階は多くの小部屋を有しているが、地下2階までの道は基本的には一本道である。

門番さんに聞くと、これは下の階の攻略に行きやすくするため、ギルドでそういう風にわざと作り替えたんだそうだ。



「さて、プチスライム掃除だ」

二人は担いできた木桶と箒を下した。支給品である。


いろいろ考えたが、妹を連れて危険な仕事をするのはどうかと思う。

人気の仕事を他の冒険者たちから奪って生活を脅かすのもまずいかもしれない。


よって、オウドは初級未満の見習い級用で、一番報酬が安く、人気のない仕事を選んだ。結構まだまだ空きがあるので他の冒険者に迷惑をかけたりしないだろうと思っている。


支給された松明に火をつけ、小部屋を一部屋一部屋回っていく。

地下1階の各小部屋には石材や木材、ガラクタなどが乱雑に置かれている。

倉庫に使われているようだ。


その周りをじっくり見ていくと、拳ぐらいの小さなゼリー状の魔物がのそのそとうごめいていた。スライムだ。

床に生えたカビを食べて回っている。


「じゃあ木桶を押さえておいて」

「はい、お兄様」

箒を使ってスライムを木桶に掃きこむ。


探索と討伐が完了している迷宮の地下1階にはほぼ危険はない。

ただ、スライムを放置すると巨大化していき退治が面倒になる。

だからギルドはこうやって初級未満の見習い冒険者などにスライム掃除を依頼している。


「桶一杯にするにはまだまだかかるね」

「次の部屋も見て回りましょう」


いつもは母さんに連れられて一瞬で飛ばす階層なので、見て回るだけでオウドとドルミーナには割と面白かった。


「そこにいましたわー!」

「はっはっは!ボクの箒を食らえ!」

兄妹二人できゃわきゃわ騒ぎながら、スライムを掃き集めていく。


そうやって順番に進むと、少し大きな広間に出た。

静かな広間に木組みの架台と空樽が多数並んで放置されている。


「あー、これってひょっとしてワインの保管庫かな?」

「樽のシミもそんな色ですわ」


興味深く放置された木組みを見ていく。

たしかに気温も低いし、湿度や温度も一定に感じる。

ワインの保管庫には最適だと思うのだけど、なぜ使われてないのだろう……

とオウドが妹と話しながら歩いていると、樽の裏から声がした。


「おい、さっきからキャワキャワうるせえぞ」

「あ、先輩ですか。ごめんなさい、初心者でして……静かにします」

「……なんだ、新人か。分かればいいんだ」


オウドが見ると樽の裏で中年の冒険者が座り込んで休憩していた。

同じくスライム掃除に参加していると思うのだが、そばに置かれた木桶は1/4も埋まっていない。


「経験豊富で知識の深い先輩にお伺いするのですが、ここはワイン蔵ですか?」

「なんだその言い方、よせやい知識なんてねえよ」

と言いつつ中年冒険者はまんざらでもなさそうだ。


「まぁ、教えてやらんこともないが……」

「どうぞ、ボクらが集めたスライムです」


「気が利くじゃねえか」

木桶の中身を移し替えると先輩はさらに気を良くしたようだ。


「この辺は討伐が終わって空間だけ空いててよ。で冷えててちょうどいいってんでワイン蔵に使われてたんだよ、熟成が進んで味が良くなるってんで、こないだまでビア樽ババアが力を入れててよ」

ビア樽ババアとはギルド長のお婆さんのあだ名だ。ひどいあだ名だとは思うがお婆さんも気に入っているので皆にそう呼ばせている。

コロコロと丸っこい身体で義手義足なのに素早くて強いのであだ名と見た目だけで油断すると大変な目にあうらしい。


しかしそうすると。

「なぜ放棄されたんでしょう?」


オウドの質問に中年冒険者が詰まらなさそうに言い捨てた。

「あ?考えてみろ。ここは行き帰りに冒険者がたくさん通るんだぞ。ワインなんかすぐなくなる」

「えー」


そういうことか。とオウドは思った。


「ほえ?」

妹にはよくわからないようだ。


飲まれちゃうんだよとオウドが言うと、ドルミーナは余計に混乱したようだ。

「おばあ様の大事なお酒なのに?勝手に?」

「そんなこと気にして冒険者なんてできねえだろ」

「うわぁ」


お婆さんの怒りを想像してオウドは冷や汗をかいた。

それでも止められないというのは本当にろくでもない。

あれ?でも小部屋に入れて鍵でもかければ?

とオウドが思い付きを口にすると中年冒険者が呆れたように返事した。


「そんなことしたらスライムが沸くぞ」

「えー」


なかなかうまく行かない。迷宮で熟成された特製ワインを特産物として期待していたオウドはがっかりした。


とその時、広場の隅で悲鳴がした。


「きゃああっ?!」

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― 新着の感想 ―
楽しそうで癒される ワインの挑戦失敗談は興味深いですね
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