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迷宮伯嫡子はカネがない  作者: 神奈いです
第三章 カネがないので無料で内政

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39/61

妹と仲良く報告書は暗い

「お兄様、髪を洗って差し上げます」

「ありがとう!」


むふー、という得意げな音を立ててドルミーナ姫。

手には得意の水魔法で精製した石鹸のビンと、水を張ったタライを持っている。

前向きな意思を感じる紺青の瞳を輝かせて、わしわしと兄の髪を洗っていく。


迷宮伯家の嫡子であるオウドは妹に頭を委ねて、小さな手の丁寧な動きを気持ちよく感じていた。

こんなのメイドに任せればいいのに、と言ったこともあるが妹は自分で作った石鹸だからと他人に譲らない。


なお、帝都の魔法学園や公爵宮殿にあったような湯舟はない。

この田舎領主の城では庶民と同じように、タライいっぱいの水と布巾一つで風呂をこなす。

緩めの服の中に布巾を差し入れ、服を脱がずに器用に身体中を洗うのだ。


母である迷宮伯が城を立てるときに風呂の設置も検討した。

しかし元冒険者である迷宮伯は風呂にカネを使うぐらいなら物見塔を一つ増やしたほうがいいと判断したのだ。

別にタライと浄化魔法でいいじゃんというのが迷宮伯閣下の言である。


「はい、できましたわ!」

ドルミーナ姫は柔らかな手つきで髪の水滴をふき取り、

櫛をいれるときっちり決まった兄の髪を満足そうに見やった。


「ありがとう、ボクの優しく可愛いドルミーナ。じゃあ次はボクが洗ってあげる……違うよ?!髪だよ?!」

「そんな!?」


なぜか服を脱ぎかける妹を押しとどめて、新しい水を張ったタライの前に俯かさせる。

オウドはたまにこういう冗談を言うんだよな、と困った顔をしながら妹の髪に指を伸ばす。

兄の優しく洗い上げる手つきに妹は嬉しそうだ。


「はい、終わり」

「そんな、もっとやっていただいてもよろしいですのに」

「そんなに洗ったら髪が痛んじゃうよ」


にゅう、と言いながら名残惜しそうに兄の手を眺める妹。


「それでは私はお休みいたしますけど、お兄様はまだ続けられますの?」

「うん、今晩中に読んじゃおうと思って」


怒れるドルミーナ姫は、愛する兄を独り占めしている悪の行政書類を憎らしそうに睨みつけた。

ただ、兄が立派な領主になるためには必要なことだと思いなおす。

姫は邪悪な行政書類の討伐命令を篝火に命じるのは取りやめ、撤退を判断した。


迎えに来たメイドと一緒に寝室に向かう姫。

オウドはお休み、と言いつつ窓際の文机に向かった。


ありがたいことに今日は満月だから、ランプの油を節約できる。

カネがないので夜更かしをする経費すらないのだ。

月の光に導かれ、じっくりと行政書類を読み進められた。


うーん。


報告書はどれもざっくりしたものだ。

領内の実際の状況はなかなか分からない。


昨年の不作で領内の景気は悪い。

主力産業である迷宮攻略で得られる魔石や魔物素材の売値も下がってる。

ということはみんなの生活も悪いはずなのだが、報告書にはみんなの生活まで書いてない。

せいぜい魔物を討伐したとか、盗賊を懲らしめたとか、関税がいくら取れたとかでしかない。


「これじゃあ領地を本当に理解したと言えないじゃないか」

やっぱり一度領地をくまなく回ってみないといけないと思う。


「過去の報告書と比べてみると……」

ここ1年ほどの報告書を見ても魔物討伐の件数が増えて、関税が減っている。

魔物討伐には経費がかかるし、関税が減っているということは領外からの商人の来訪が減っているということだ。

ということは母親が討伐で稼いだカネがそちらの穴埋めに使われ、借金の返済計画も狂いかねない。


「あと、流民村の報告がないな???」

借金の原因となった流民受け入れに関する報告がない。

おそらく母親が直接口頭で指示していたと思われるが、大丈夫だろうか……。


領内視察の決意を新たにしつつ、オウドは次の書類を手に取った。


「さてと、裁判の報告書か……えっと、お嫁さんとお婿さんの出身村が違ってて新しい夫婦の家をどっちの村の所属にするかで村長同士が喧嘩……おめでたいことなんだからもっと仲良くして?!」

ケンカの罰として仲直りするまでその夫婦は迷宮伯家直属にします、という神官の判決案を支持してオウドはサインを入れた。

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― 新着の感想 ―
うーん蛍雪 不作の影響は色濃いようで 比較検証してるのえらいですね 当代はハンコ係だったのなら初の試みの可能性も
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