闇の思い
暗闇の中。
我は荒野の大魔王。我が領地の東方に広がる人間と呼ばれる家畜どもを支配する大王である。
「支配できてないですけど」
「うるさい、なの」
人間は家畜のくせにすぐ手を噛んでくる。
ようやく復活出来たと思えば我の身体は小さく、魔力も随分と衰えてしまった。
「可愛いですよ」
「黙れ、なの」
いずれにせよ、家畜どもに誰が支配者かきちんと思い出せてやらねばならない。
恐怖が十分に産まれれば我が力も全盛期にすぐ戻るはずである。
そうすればこの秘書の再教育も可能だ。
「どっちにしても今は正面から攻めるのは難しいの。だから魔王教の信者を増やして恐怖を少しずつ広めるの」
「あれは魔王様には珍しくいい考えでしたね。定期的に恐怖もらえますし」
「珍しいとはなんだ、なの」
秘書は無表情だ。
復活してすぐ部下を作ったのはいいが、なかなか忠実で有能な部下にならない。
こいつは有能で、魔王教の組織などいろいろやってくれているが、どうも魔王への敬意がかけている。
「公爵家への侵入は成功しましたが、帝都への侵入はうまくいきません」
「帝都大結界は面倒なの」
家畜の長の長がいる街、帝都と呼ばれる場所は結界が何重にも張られて攻めるどころか工作も難しい。
帝都で存在を誇示できれば恐怖の収穫も多いだろうが、まずはできるところからだ。
で、西の公爵家に信者を潜入させているわけだが。
「ただ、南の公爵の使者を装って独立派を煽るのはなぜか失敗しましたね」
「あれだけバカにされて戦わないとか家畜の風上にもおけないゴミなの」
「公爵の謝罪が思ったより早かったですね」
まぁ、よい。そちらは本命ではない。
「そろそろ我が信者が暗殺を成功させてるはずなの。成功すれば帝国西部に我が名と恐怖が一発で広がるの」
― ― ― ― ―
「はーーーはっはっはっはー!どうだ西の公爵よ!我が刺客の毒刃は苦しかろう!!」
水晶玉を見ている秘書が報告する。
「公爵無事みたいですが」
「なんで4人も送り込んだのに全員失敗してるの!?幻影止めるの!」
「はい」
水晶玉の中の魔王像が停止して黙りこくる。
「えっと、この場合は録画パターンC、再生」
「せめて名乗りはきちんとあげて、魔王だって認識させるの。怖い怖い自画像作ったから皆恐怖するの」
「我は荒野の大魔王。人間どもよ、貴様らに安寧の時は無し。我を恐れよ!我の尖兵に羽虫のごとく狩られる日は近い!」
「……恐怖を感じないの」
「……なんか家畜が言い返してますね」
「なんでちょっと言い返したぐらいで恐怖が消えるの!」
怒りのままに叫ぶが恐怖が来ないことにはしょうがない。
「……どうします?」
「さっさと接続切るの!信者たちも逃がすの!」
「……遅かったですね捕まりました。あ、自殺してます。魔王様ばんざーい!」
秘書が無表情なまま、信者の口真似をする。
「さっき言い返したやつを特定するの!どうせどっかの家畜の長だから殺すの!」
「……今回の作戦で大赤字ですが?」
「……」
「1領主を殺しても黒字にならないので、公爵家に工作してたんですよね?」
「……」
「表立ってどっか攻めたらまた勇者が来るから裏からやってるんですよね?」
「正論は嫌いなの」
不貞腐れて闇に突っ伏すと秘書が無表情でじっとこちらを見てくる。なんだ。
「いま、家畜どもの帝国西部で魔物に魔石食わせて回ってるんで、そのうち恐怖が広まります、そこからなら黒字化も望めるかと」
秘書がなだめるように言ってくる。
まぁよい。我らにはまだまだ時間がある。
今回は表立って攻撃はせず、少しずつ家畜どもの世界を揺るがしてやろう。
この世が恐怖で満ちるまで。




