公爵家の圧力
オウドと一緒に結婚式に訪れたグスタフは苛立っていた。
様子を尋ねたオウドにたまらず吐き出す。
「オウド君も文句を言われたのか?」
「いえ?でも「他の贈り物は全部立派だよ」と言われたので、うんうん立派だなぁと」
「こっちもオレの作ったポーションを見て、差し替えろとか言い出したんだぞ!拒否したが!」
「えー、こっちは……言われたかも??」
そういえば「差し替えたり追加は?」とわざわざ聞かれた気がする。
そういう意味だったのかとオウドは思った。
しかし一体、ご祝儀にケチをつけるなんてあるのだろうか。
それぞれの領地の産物だから自己紹介でもあるのだ。
まぁ貧乏なのが貧乏ですと自己紹介してるんだけどそれはもうしょうがない。
そこは理解して招待してもらわないと。
オウドはそこで思い出したように言う。
「そういえば図書館には行けたんですか?ポーション調合の本が読みたいって」
「それもだ!招待客でも許可が必要ですというから申請したのにそれ以来返事も何もない!」
いつも温和なグスタフがめずらしく雄牛のような肩を揺らして文句を言っている。
「まぁまぁ、きっと忙しいんでしょう」
「忙しいのもわかるが、つまりオレたちは忙しく対応する相手じゃないってことだぞ。名簿も間違えるし部屋も間違えるってのはそういうことだ」
「えー」
なだめるオウドに愚痴るグスタフ。
そこにグスタフの家臣が声をかけた。
「殿、西大公の家臣の方が」
「お、さすがに図書館の許可がでたかな?」
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宮殿の応接間の一つは豪奢な装飾で埋め尽くされていた。
壁には大きな風景画が飾られ、壁際には金や銀を施した彫刻が。
大きなガラス窓からは柔らかな陽光が差し込んでいるが、
それにも構わず天井から下がった大型の魔道灯が部屋の隅まで照らしている。
中央には豪華な絨毯の上に重厚な木製のテーブルと椅子が並んでいる。
その椅子に座ったグスタフが低い声で唸った。
「つまり従属しろ……と言われるのですか?」
「いやいや、そのようなことは。ただ、公爵殿下は頼りがいのあるお方ですと申し上げただけで」
テーブルの逆側に腰かけているのは文官服に身を包んだ中年の女性官僚だ。
書記ナントカ長か財務ナントカ長って言ってた気がする。あとで日記に書くために確認しないととオウドは思った。
さっきからいろいろと西大公陣営に参加する利益について語っていて、どう見ても従属のお誘いである。
「昨年の大不作はひどいことでした。ダンザウベル伯閣下も、迷宮伯閣下も大変な借金がおありとか?」
「借金したかどうかはこちらの話だ、楽だったとは言わん」
「公爵殿下にお頼りになるご決心さえあれば、資金援助も検討させていただきます」
「……そんなことはすぐに決められないし、回答するとも言えないが」
「ボクも母上に聞かないとね」
「ではぜひ聞いていただいて、お考えいただき、よいお返事をいただきたいですね」
ナントカ長がにこりと笑う。
それを見てグスタフが不満そうに質問した。
「……なぜこのような大事な話に公爵殿下は来られないのか?」
「何分、盛大な式のためお忙しくてですね」
「そうだなぁ、忙しいだろうな。お察しする。では他にお話がなければそろそろ」
話はおわったとばかりにグスタフとオウドが席を立とうとして、思い出したように問うた。
「ところで、図書館の入館許可をお願いしたのだが、ご存じないか?」
「殿下にお味方いただけると約束いただければすぐにでも」
「……忘れてくれ」
ニコニコするナントカ長を置いて二人は部屋を出た。




