公爵殿下はカネがある
ボクは迷宮伯嫡子、オウドリヒト・フォン・グリムホルン。
招待?されたので帝国西部の大貴族。西大公家の結婚式のお祝いに来たんだ。
「やっぱり生活水準が違うなぁ」
割り当てられた宮殿の部屋で独り言を言う。
天井には魔道灯がぼんやりと灯っており、付けたり消したりも自由。
壁には火魔石と水魔石を組み込んだ魔道空調があり、自動的に快適な温度に調整される。
さらに水はすべて浄化されたのが水壺に一杯入っており、香り高い植物油の石鹸もついている。
この一部屋だけでどれだけの魔石と魔道具が使われているのかわからない。
もちろん部屋の家具も内装も高級品だ。
窓には透明なガラスがはまっており、お茶やコーヒーなど世界中からの輸入品が生活を豊かにしている。
グリムホルンではきれいな水と石鹸を手に入れるのも大変だった。
「お出かけするならお兄様を綺麗にしないと!」と妹のドルミーナが張り切ってくれて、
自家製の獣脂石鹸に浄化魔法、髪を洗う井戸水に浄化魔法と手間暇かけて髪の毛を洗ってくれたんだ。
当然城内は薄暗いし空調なんてあるわけない。家具は借金の担保になっている。
窓は取り外せる木の板がはめてあるだけだし、飲み物は基本は水かビールだ。
ボクは帝都で魔法学園に留学していたから驚きはしないが、生活格差は厳然たるものがある。
グリムホルン迷宮伯領をここぐらい豊かにするにはあとどれぐらいかかるだろうか。
普通に考えたら数百年は差があるかもしれない。
それに財産だけ集めて図体が大きくなっても、ちゃんと管理しないと今回みたいになるかも。
ボクは改めて気合を入れなおした。
ちゃんと領地を豊かにするとともに管理しよう。
帰ったらまず行政書類全部読み返してみようかな。
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「……毛皮ですか?」
「ああ、ご覧この毛並み!とてもいい毛皮だろう!」
「そうですなぁ、毛並みはよろしいですな」
「うんうん、ボクの誠実で勇敢なる村人たちがね……」
ご祝儀の担当役人に説明する若君。
若君の後ろには数十枚の毛皮を担いでいる従者たちがいる。
この毛皮はオルク討伐の巻き狩りで手に入れたものになる。
どれも村人たちが心を込めてなめしてくれたので、とても美しい仕上がりだ。
貴族間で領地の産物を贈りあうのは一般的だし、立派なご祝儀になるだろう。
若君はとても誇らしく思って毛皮を担当役人に引き渡した。
「嫡子殿、ちなみにこちらは帝都の魔道技師による自動人形、こちらは帝都一の鍛冶屋の刀剣、こちらは帝都最高級の窯による焼き物でして……」
「どれも素晴らしい出来栄えだね。さすが帝都の品」
次々にご祝儀置き場に並ぶ名品の数々を説明する担当役人。
「ご祝儀の品を交換もしくは追加なさるご予定は?まだ間に合いますが」
「ないよ?」
「はぁ………結構です。ありがとうございました」
「お役目ご苦労!」
なんという田舎者だろう。公爵に贈るのにふさわしい贈り物というものも理解できないのか。
担当役人はわざと聞こえるように大きなため息をつくとオウドを見送った。
そして鼻をつまんで毛皮をつかむと、倉庫の隅に放り投げた。




