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幽世の花嫁  作者: さざれ
少女の行方
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 何と言っていいか分からない様子だったが、雪斗はその間を埋めるように手ずからお茶を淹れ、沙羅に出してくれた。ここには多鶴がいないが、使用人なら誰かしらいる。呼べば来てくれるはずだが、雪斗はそうせず、生活や日常といったものから離れるかのように自分の手を動かしていた。

「……どうぞ。……お疲れ様でした」

「……ありがとうございます。……雪斗さまも」

 和室の長卓に置かれた煎茶碗から湯気がくゆる。卓を挟んで雪斗の斜め向かいに腰を下ろし、湯気越しにぼんやりと彼の方を見る。

 雪斗はどうやら芙美の残した書きつけを読んでいたようだ。冊子が何冊も畳の上に置かれている。卓から少し離してお茶を零しても届かないように気遣っているところが彼らしい。

 熱いお茶を口に運んでゆっくりと味わいながら、沙羅は葬儀までのことを思い出していた。

 沙羅が川辺で気を失った後、雪斗が色々なことを片付けてくれていた。千和家への状況説明も簡単に行ってくれたらしく、沙羅は急かされることなく目を覚まし、そのまま体を休めることができた。

 とはいえ沙羅が受けた依頼なので、報告をして報酬を受け取らなければならない。葬儀に顔を出した沙羅を邪険にする様子がなかったので、日を改めることもなく当日中に話が済んだ。葬儀のあれこれで喪主の洋蔵は忙しかったはずだが、むしろ忙しくしていたいらしく沙羅たちにも時間を割いてくれた。

 彼は娘の死に気落ちして気持ちを切り替えられずにいたものの、依頼の時のように高圧的な様子ではなく、謝礼を弾んでくれた。その少なからぬ額を謝礼ではなく経費として受け取った沙羅に怪訝そうな顔をしていたが、まさか三途の川の渡し守を買収するのに必要だったからとは言えず、沙羅は詳しい説明を避けた。

 遺体を火葬に付す前に六文銭を入れ忘れないようにと沙羅が念を押したときも彼は不思議そうな顔をしていたが、差し出口をと怒ったりせず言われた通りに六文銭を棺に納めてくれたので肩の荷が下りた気分だった。賽の河原を歩いていけばどこかで和歌菜の魂に会えたかもしれなかったが、会っても連れ帰る術がないし、あの怪鳥のことを思い出すだけで寒気が走る。無事だったから良かったものの、雪斗が失われていたかもしれないと思うと歯の根が合わないくらいに恐ろしい。

「沙羅さん、あの怪鳥のことなのですが……」

 不意に雪斗が口を開いた。ちょうど同じことを考えていたらしい。彼は眉を寄せて、確かめるように言葉にした。

「あいつは僕を狙っていました。勘違いではないと思います。もしかして……あの場に僕がいなくて、君ひとりだったら……あれは現れなかったのではありませんか? 違いますか?」

「……ええと……」

「僕も捜索についていきましたが、君に何かあったら守るつもりでしたが……必要なかったどころか、むしろ逆効果だったのではないでしょうか……?」

「……そんなこと!」

 沙羅は声を上げた。

「雪斗さまは貴重な知見をくださいました。現世と幽世を二重映しに見てくださったことで捜索がやりやすくなりました。逆効果なんてとんでもないです!」

「僕は、お役に立てましたか?」

「それはもちろん。むしろこちらがご負担をおかけして……」

「では、聞かせてください。あの怪鳥は僕だけを狙っていましたね?」

「……っ、それは……!」

 誘導めいたものを仕掛けられ、沙羅は返答を躊躇った。だが、いつまでも黙っているわけにもいくまい。慎重に言葉を選ぶ。

「……断っておきますが、わたくしはあの怪鳥のことを知りませんでしたし、あの炎に焼かれたらわたくしも消し炭になっただろうと思います。戦いになったことからも明らかですが、あれがわたくしにとって無害というわけでもありません。……でも、あれが現世の人間の気配に反応して寄ってきたものだったら……わたくしのことは無視したかもしれないとは思います」

「沙羅さん、それは……」

「わたくしは生きた人間です。でも、現世と幽世に同じように存在している、とおばあさまは仰いました。わたくしの目に現世と幽世が区別なく映るように、幽世の存在からもわたくしのことはそのように見えるのかもしれない……そういうことなのです」

 仲間……というとかなり語弊があるが、いわば同類といったところだろうか。だから沙羅は、自分が長く現世に留まり続けられるとは信じきれないでいるし、たやすく幽世に呼び返されそうになってしまう。不安定なのだ。

「…………」

 雪斗は沈黙した。沙羅も黙って彼の反応を待つ。

 ややあって雪斗は自嘲するように笑った。

「……もしかして、芙美さんが亡くなった夜……僕が引き留めなくても、沙羅さんは一人で切り抜けられのではありませんか? 僕は、余計なことをしたのかな……」

 沙羅は強く首を横に振った。

「いいえ、それは違います。あれほど揺らいだ状態で、血縁の魂とともに幽世に行ったら、帰ってこられたとはとても思えません。雪斗さまに助けていただいたのは事実です」

 ……その手段があれだったのだが。

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