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幽世の花嫁  作者: さざれ
少女の行方
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 きちんと食事を終えたところで、今日これからのことを話さなければならない。幽世の微妙な話題を出すことになるから多鶴には部屋の外に控えていてもらう。

 雪斗は確認した。

「今日も昨日と同じように、箸の指す方向を目指す、ということでいいのでしょうか」

「ええ、基本的にはそのつもりです」

 理などないように見える幽世にも、理はある。というか、現世の人が幽世と関わるとき、人は人の理解の範囲でしか幽世を捉えられないという限界があるがゆえに制限が加えられ、その制限が規則のようになっている、ということだ。すべてを読み解ける人はいないだろうが、多少なりとも理解していれば取れる手段は色々とある。

 要は、関連性と意味づけだ。でたらめに見える現象であっても関連を辿って現れる。花弁が雪に変じたりするのも、そこに類似があるからだ。まったく無関係のものになったりはしない。

 沙羅が昨日したように箸をしるべと出来るのも、その形状を羅針に見立てたからだ。持ち主のいる方向を指すようにと意味づけをしたからだ。

 ものが箸だったからこのようにしたが、たとえば人形を使うならそのまま歩かせただろう。だが大きいものに人間の動きを真似させるのは沙羅の負担が大きいし、人形も汚れるし、いいことがない。箸を羅針代わりにする方が手軽だったのだ。

「地図は多鶴に改めて用意してもらいました。これです」

 雪斗が机に地図を広げた。東鶯邸が所有している詳細なものだ。

 雪斗のおかげで現実の背立山と重なった背無山を歩くことができるので、地図も有用だ。必要に応じて場所を示したりしながら、今後の計画と見通しや荷物のことなど色々と話し合っていく。

 確認を終えると、二人は一旦それぞれの部屋に戻った。着替えて荷物を整え、東鶯邸を出る。途中までは車で送ってもらい、昨日の帰り道を逆に辿るようにして山へ向かう。

 雪斗はとっくに眼鏡を外している。背立山が――背無山が――見えてくると、沙羅の方にまで彼の緊張が伝わってきた。沙羅は目を伏せ、昨晩の応接間で多鶴に聞いた話を思い返していた。

(雪斗さまが――幽世を求める、理由――)

 推測に過ぎないと多鶴は前置きしていたが、彼女の話は充分に納得できるものだった。沙羅が彼にときおり感じてきた違和感にも、それで説明がつく。

(駄目、今はそんなことを考えている場合じゃないわ)

 沙羅は首を振った。早く、和歌菜を見つけてあげなければ。子供が現世にいるのなら捜索隊の方が早く見つける可能性が高いが、幽世にいるならそうはいかない。どちらにしても、とにかく捜さなければ。


 背無山に入り、沙羅は昨日と同じように箸を羅針盤の針のように回転させた。箸は西を指した。昨日とは方向が違うが、これは幽世の常だ。二人は箸の指す方向へ歩き出す。

 途中でちらりと雪斗の様子を窺ったが、昨日ほど辛そうではない。眼鏡をかけていない視界は背立山と背無山が二重写しになっているだろうが、少しずつ慣れてきているのだ。それが彼の魂にとって、いいことかどうかは分からないが。

(でも、雪斗さまは……)

 またもや思考が横道に逸れそうになる。沙羅は内心で自分を叱咤した。

 天気は良くも悪くもならず、二人はひたすら導きに従って山を歩く。行く手に洞穴が見えてきて、沙羅は少し目を瞠った。

「この先……みたいですね」

 この洞穴自体は、沙羅は以前から知っていた。登山道が近くを通っているのだが、今日はそちらからは来なかったため、気付くのが遅れたのだ。近いうちに雪斗を連れてこなければならないと考えていた、まさにその場所だ。

 洞穴は、岩登りに訪れる登山客がたまに休憩に使うような構造になっている。張り出した岩の下に小さな祠があり、やや広い道が奥へと続いている。入り口付近の岩壁が特に摩耗したように滑らかで、人の手が入っていることを示していた。

 雪斗は辺りを見回してから、沙羅の手元の箸を見た。

「沙羅さん、箸は洞穴の先を指しているみたいですが……行き止まりのはずですよね?」

 どこにでもあるような洞穴だ。多少は人の手が入っているとはいえ、人の手によって計画的に作られた隧道とは違う。山を貫通してどこかへ続いているわけではないし、そもそも背立山の向こうにも劫背連山の山々が続いている。……現世の背立山に関して言えば。

 曖昧に頷く沙羅に、雪斗は思い出すようにしながら言った。

「僕もここへ来たことがあります。芙美さんについて山を歩いたこともあるので。ここまで来るのは岩登りの人くらいですが、登山道からそこまで離れてもいませんし」

 沙羅はちらりと雪斗の様子を窺ったが、特に他意なく思い出したことを述べているだけのようだ。この分だと、芙美は彼に何も説明しなかったのだろう。壬堂の役目に関わることだから、それは当然なのだが。

(いずれ案内しなければならないとは思ったけれど……こんなに早く、その機会が来るなんて)

 沙羅は内心で苦笑し、洞穴を振り仰いだ。

「何も知らない人にとっては、幽世に関わりのない人にとっては、ここは単なる洞穴です。でも、何らかの霊威を感じ取る人はいたのでしょうね。壬堂の者が建てて管理してきた小さな祠に、詣でて手を合わせる方はいらっしゃいますし」

 自分が用意した覚えのないお神酒が供えられている。こうしたお供え物は、多くはないが途切れることもない。

「……沙羅さん? ここが単なる洞穴ではないというふうに聞こえますが……?」

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