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神様の国のアルマ

作者: 鈴木智一

 神の()まう国ではたらくアルマは、一生懸命な女の子です。神様に仕えるために、人間であった彼女の魂は次元をこえてやってきました。


 ある日、アルマはしっぱいをしてしまいます。


 ホワイトドラゴンさまに片づけるよう言われていた大切な書物を、間違った(たな)におさめてしまったのです。神様の国の書物は、決められたものを決められた場所にしまわなければなりません。


 間違った場所に置かれた書物は消失し、神様の国を離れ、次元を(こと)にした人間の世界━━“神様(かみさま)(にわ)”へと迷い込んでしまいました。


「ごめんなさいなのでした、ホワイトドラゴンさま。“ミカエルの書”が、なくなってしまったのでした」


『それを、必ず探しださなくてはいけませんよ。あるべきではない場所にあってはならないものですからね。探しだして、あるべき場所へ戻すのですよ』


 さあ、お行きなさい━━


 ホワイトドラゴンの力で次元の壁をこえ、アルマは人間の世界へと旅立ちました。


 ☆☆☆☆☆


 神様の庭では、アルマのような水色の髪は目立ちます。さらに言えば、大人の腰くらいの背丈(せたけ)で、大きなレースのリボンを帽子のようにして頭に乗せていますので、なおさらです。だからすぐに目をつけられて、テレビクルーがインタビューにやってきました。


「こんにちわ、『おこんばんわテレビ』と申しますが、少しお話をうかがってもよろしいでしょうか?」


「ごめんなさいなのでした、急いでいるので急ぐのでした」


 アルマはきっぱりと断り、先を急ぎます。

 でも一つ問題がありました。行くべき場所の名前はしっていましたが、それがどこにあるのかわからなかったのです。


 行き()う人々のなか、ちいちゃなアルマはきょろきょろきょろっぴ。進むべき方向を決めかねていると、帰宅途中であろう、高校生の女の子が声をかけてきました。


「うわぁ、かわいい! どうしたのお(じょう)ちゃん、迷子(まいご)になっちゃった?」


 女の子はかがんで、顔を近づけて言いました。


「違いました。わたしはナニメイトへ行きたいのでしたが、どこにあるのかわからないのでした」ちょうどよかったのでアルマは道を(たず)ねようと考えました。


「え、ナニメイト? じゃあわたしも一緒(いっしょ)に行こうかな、すぐそこだよ?」と、女の子は同行(どうこう)を申し出てくれます。


「ありがとうございました。一緒に行きましょうでした」


「おもしろいしゃべり方だよね?」


「そうでした」


「お名前は、なんていうの? あ、わたしは青葉(あおば)(いずみ)


「アルマでした」


「アルマちゃん、外国人さんなのかな? 名字(みょうじ)はなぁに?」


「ないのでした」


「そっか、ないのかぁ……そんな国あったっけな?」


 アルマのいた場所からすぐのところにあるビルの中に、ナニメイトがあるようです。


 神様の国を出るときに、“ミカエルの書”が移動した先の情報を得ているアルマでしたが、それは“ミカエルの書”が「ナニメイト仙台店」の「新刊コーナーにある」というものだけです。お店の場所などの情報はありませんでした。


「エレベーターで上に行くよ」という泉に(したが)って、ついていきます。


 ナニメイト仙台店はビルの中の7階にありました。けっこう、上のほうです。


 エレベーターは途中の階でとまることなく、目的の7階に到着しました。


「えっと、アルマちゃんはなにを探しにきたんだっけ?」


「……新刊(しんかん)コーナーを、みたいのでした」本の名前を言っても、人間には伝わらないし見えませんので、アルマは明言(めいげん)()けました。


「じゃあ、わたしとおんなじだね。こっちだよー」


 泉に案内(あんない)されて、アルマは新しく発売されたマンガが平積(ひらづ)みされているところまでやってきました。


「おっ、『呪海戦線(じゅかいせんせん)』の新刊が出てる……うわぁ、よし、買おう(せっかく来たんだし)」と、泉は予定にはなかった買い物を決意しました。「そんで、アルマちゃんの探し物はあったのかな?」


 アルマはがんばってつま(さき)()ちしたりしながら、新刊コーナーを一通(ひととお)り見てまわりましたが、どうやらここには“ミカエルの書”がありませんでした。


「ここのナニメイト仙台店には、ありませんでした」


「そっかー、残念……タイトルとかわからないかな。わたし、店員さんに訊いてくるよ?」


 言われたので、どうせわからないことはわかっていましたが、アルマはしかたなく本の名前を教えます。


「“ミカエルの書”? そんなマンガあったかなぁ? ラノベとかかな……」ぶつくさ(つぶや)きつつ、泉はレジに向かいます。自分の支払(しはら)いのついでに、アルマの探し物を調べてもらうつもりでした。


 が、当然みつかるわけもなく━━


「ごめーん、店員さんもわからないって。それって小説かなにかなのかな?」


「……神様の本です」これもしかたなく、アルマはこたえました。


「えっ、宗教(しゅうきょう)(しょ)ってこと!? なぜにナニメイトにあると……」


 アルマは泉の反応(はんのう)無視(むし)して、次の行動を決めました。まずは、泉に尋ねます。


「他に、ナニメイト仙台店はありましたでしたか?」


「いや、ここしかないけど?」


 そんなはずはありません。神様の国の情報(じょうほう)に間違いはないのです。となると、店ではなく時間(じかん)(じく)が違うという結論(けつろん)(みちび)かれます。


 結果、アルマは次の質問へと移りました。


「ナニメイト仙台店が、他の場所にあったことはありましたでしたか?」


「あー、うん。ここの前はねぇ、今はメロン書店(しょてん)があるところに、あったんだよ」と、泉はこたえました。


「……わかりました、では、そこへ行きますのでした」


 アルマたち、神様の国の住人(じゅうにん)にとって、人間の世界の“時間旅行”はとても簡単なことでした。


 “過去にあった”という事実さえ確認できれば、その時とおおよその場所を瞬時(しゅんじ)に検索して、時間をさかのぼることが可能なのです。


 一緒に行こう(・・・・・・)と言ってくれた泉と一緒に、アルマは過去へと移動したのでした。


 ☆☆☆☆☆


「なっ……! あれ、うそ、なんでまたここに……あれぇ、今たしかナニメイトにいたはずだったよねぇ……やばい、わたし終わったかも?」


 先ほどアルマと出会った場所に瞬間移動した泉は混乱(こんらん)しています。でも、隣にいるアルマの存在に気がついて、少しだけ冷静さを取り戻しました。


「あ、アルマちゃん……わたしたち確かナニメイトにいたよねぇ?」と、買ったばかりの本とレシートを確かめながら、泉が言います。


「違う場所にあったナニメイト仙台店に行きましょうでした。ナニメイトはどこにありましたでしたか?」


 一瞬、理解がおいつかないままだった泉ですが、少し考えてから、半信(はんしん)半疑(はんぎ)で問い返します。


「まさか、過去にきたとかそーゆーやつなの」(まわ)りの景色を見渡しながら、もはや確信をもってつづけます。「似てるけど、違う。ってか、昔の建物がある!」


 (なが)らく地元で育った泉ですので、(まち)の移り変わりはそれなりに見てきています。なので、そこにある景色が過去に存在したものであるということを、彼女ははっきりと自覚することができました。


「マジか……こんなラノベみたいな出来事が本当にあるなんて」


「ナニメイトはどこにありましたですか」


「あ、そうだね……うん、わかった。まだちょっとわかんないけど、わかったわ。えっと、それじゃあ今度はあっちの、朝市(あさいち)があるほうへ行くよ」


 またしても泉の案内で、アルマは過去の(・・・)ナニメイト仙台店へと向かいます。


「げっ、マジであったよ……昔のナニメイト仙台」泉の言う通り、そこには(まぎ)れもなく過去のナニメイト仙台店━━現在の場所に移転(いてん)する前の店舗が存在していました。


 とある理由から、現在のその場所をあまり(おとず)れなくなっていた泉なので、階段をのぼりながら、少しだけ懐かしさを感じていました。


 店舗の入り口にお知らせのコーナーがあったので、いったんそこで立ち止まります。


「このお店は、どうして生臭(なまぐさ)いのでしたか?」


 と、不意(ふい)にアルマが質問をしてきたので、泉は「お魚屋さんが下にあるからだよ」と教えてあげました。


 全国的に知られている事実ですが、この頃のナニメイト仙台店はとても生臭いことで有名でした。そして現在は、メロン書店が生臭いわけなのですが……。


 そして、泉はいちばん目立っていたお知らせに目をとめます。


「へぇ、高橋シトム先生のサイン会があるのかぁ……まあ、行けないんだけど」最近話題の大人なマンガ『ビッグマグナム』にハマっている泉は、その作者の先生のサイン会には興味(きょうみ)津々(しんしん)でしたが、それを上回る心配事があったのでアルマを向いて尋ねます。「行けない……よね? わたしって、ちゃんと元の時代に帰れるんだよね?」と。


 アルマは、すました顔で答えました。


「はい、大丈夫でした。泉は、アルマが元のところに戻すのでした」


 その言葉を聞いて泉は安心し、胸をなでおろしました。「はぁ、よかったぁー」


「でもアルマちゃんってさ、いったいなにものなの? まさかとは思いますけど、いわゆるひとつのあれですかね、つまりそーゆー、うちゅーじんとかってゆう……」恐る恐るといったようすで、それとなく泉は尋ねました。


 それに対して、アルマははっきり答えます。


「違うと思いますのでした。アルマは、神様の国からやってきたのでした」


「神様の国……って、それはどこなの? アルマちゃん、やっぱりうちゅーじんなんじゃ……」


 それ以上は()いてもわからなそうでしたので、泉はあきらめました。


「あっ、ほら新刊コーナーあったよ。うわー、めっちゃ懐かしいマンガがいっぱいだ……」


 とっくの昔に完結しているようなマンガが、まだ発売したばかりというのには違和感がある泉でした。


 せっかく過去に来たのだから、記念になにか買っていこうかなと考えて、ふと疑問が()きます。


「お金……この時代よりあとの使ったら、まずいよね。タイムパラ……タイムパラリンピックとかなんとかが」


 最近オリンピックを見た泉は、言葉を間違えました。正しくは“タイムパラドックス”ですが、それを教える人間はいませんでした。


「ここにも“ミカエルの書”はありませんでした。他には、ナニメイト仙台店はありませんでしたか?」


「えっ、またなかったの? ってか、その本は本当にナニメイトにあるものなの?」


「ありましたです。どこかのナニメイト仙台店にありましたですが、それがどこなのかはわかりませんでした」


「う~ん、アルマちゃんの日本語がむずかしすぎる気もするのだが……ナニメイト、最初っからここだと思ってたんだけど、わたしが生まれた時にはもう存在してたお店だからなぁ……もしかしたらここより前があるのかも━━」言って、泉はなにも持たずにレジへと向かいました。


 しばらくすると、待っていたアルマのところに戻ってきます。


「あったあった! レジのお姉さんはわからなかったみたいだけど、店長さんに確認したらここの前は違う場所にあったんだってさ。元々ナニメイト仙台店は、最初はそこの場所に開店したみたいだよ」


 つまり、そこがナニメイト仙台店のはじまりの場所だってことだね。と、泉が言いました。


 それがあった時代と場所を頭の中で検索すると、アルマはすぐに時間移動をおこないました。もちろん今回も、泉と一緒に移動します。


 ☆☆☆☆☆


「って、また路上に戻ってるぅ~!」


 思わず大きな声をあげた泉を、通行人が不思議そうに見ていきます。


「うわぁっ、景色がぜんっぜん違う!」


 自分が生まれる前の世界にきてしまった泉には、見たことのない街並(まちな)みが広がっていました。


 泉の見知った街並みと比べると、そこはまるで違う街でした。


「ごめん、さすがにこの時代のナニメイトはまったくわかりません。さっきの店長さんが、なんとかビルって言ってた気はするけど……」


「探すのでした。この時代のナニメイトに“ミカエルの書”があるはずでした」


 二人とも目的地の場所はわかりませんでしたので、とりあえず歩を進めます。まったく見当もつきませんので、適当にあるいていきました。


「あっ、ゲーム屋さんがある!」はじめて目にする過去の世界のゲームショップに、泉のテンションは爆上(ばくあ)がり。思わず「ちょっと入ってもいい?」と、アルマに訊いていました。


「はいでした。ちょっとだけでした」アルマも一緒に入店します。


「うっわぁ……レトロ過ぎる……すごっ、ゲームギヤーの新品売ってるし」思わず欲しくなる泉でしたが、財布の中身を見てあきらめます。「ダメっぽいな……令和のお(さつ)しか持ってなかったよ」


 その後、ゲームショップを出たアルマと泉は交番を発見しました。そこで、おまわりさんにナニメイトの場所を尋ねます。


「あー、あっちの方かぁ。ごめんアルマちゃん、けっこう戻らなくちゃいけない」


 おまわりさんに教えてもらった場所は、先ほどの生臭いナニメイトからそれほど離れていない場所なのでした。駅近くにホテルがあり、その裏手あたりのビルのようです。


 ビルを発見した泉は呟きます。


「ここ……か? うわー、なんか……なんだろう……(せま)そう?」


 この時代の店舗も上階(じょうかい)にあるようでしたが、階段は狭そうに見えます。現在のお店からは考えられないような小規模店舗であることは、外観(がいかん)を見ただけでも容易(ようい)に想像できるのでした。


 実際にビルの階段をのぼってみると……店舗の入り口までに、なぜか道を(せば)めるように(たな)が置かれていたりして、実際半分ほどの狭さとなった道は人二人(ひとふたり)がすれ違うことのできないサイズになっています。というか、一人通るのもやっとです。泉は、信じられませんでした。


「せっま! なにこれ、なんでお店に入るための試練(しれん)があるの? ぜったいになにかがおかしい━━」


 と、ついに(いにしえ)の初代ナニメイト仙台店に入店を果たした泉は、見るはずのなかった景色を前に、目を見開きます。


「いきなりアパレルがある、しかも『悠々自適(ゆうゆうじてき)白書(はくしょ)』のTシャツとか! うわー、なにこれなにこれ、昔のDVDデカすぎない?」


 LDレーザーディスクを知らない泉は、店の左半分を埋め尽くすほどのLDのアニメ作品(さくひん)(ぐん)を前にして、驚愕(きょうがく)しました。


「いろいろ知らないアニメのグッズがあるなぁ……あっ、本はこのあたりだ。アルマちゃん、新刊このあたりだよ!」


 そう言った泉の目の前に、実は“ミカエルの書”が鎮座(ちんざ)していたわけなのですが、人間にはそれを見ることも知覚(ちかく)することもできないので、泉は当然気づいていません。


「ありました、見つけましたのでした!」


 目的の物を探し当てたアルマは、それを高々(たかだか)とかかげました。


「えっ、どこに? なにかあるようには見えないんですけど……これ、わたしの目がおかしいやつ? それともアルマちゃんが━━」


「誰もおかしくありませんでした。“ミカエルの書”は、泉には見えませんでした。神様の国の物は、神様の庭にはありませんでした」


 アルマの説明では、泉にはなにも伝わりませんでしたが、要するに「スカイフィッシュみたいなものか」と、泉は独特(どくとく)独自(どくじ)解釈(かいしゃく)をして無理やり納得したのでした。


「わたし的にはまったく達成感がないけど、アルマちゃんの探し物がみつかってよかったよ」


「ありがとうございましたでした。これでわたしは神様の国に戻れますです。泉のおかげでした」


「いやぁ、わたしも不思議体験できてよかったよー。まさか過去の世界にこれるなんて思ってなかったし。これって、他の人にはナイショにしてたほうがいいかんじ?」


「言っても大丈夫でした。誰も信じませんでした」


「あ、そうね……そうよね。とりあえず言わないでおくよ。わたしだけの思い出にします。で、帰りのことなんですけど……ちゃんと帰れるんですよね?」


「大丈夫でした。帰りますです」


 その直後、古のナニメイト仙台店から二人の姿は忽然(こつぜん)と消えたのでした。


 ☆☆☆☆☆


 泉を元の時間へ送り届けたアルマは、その場であっさり別れを告げると、ソッコーで神様の国へと帰還(きかん)しました。


『ご苦労さまでした、アルマ。よく見つけましたね、とてもえらいですよ。では“ミカエルの書”をあるべき場所へ戻しましょうね。今度は間違えないように、ゆっくり慎重にやるのですよ』


 ホワイトドラゴンさまに言われたアルマは「はい、わかりましたでした」と元気よく返事をすると、さっそく仕事に戻ったのでした。


  ━━━━━━━おしまい━━━━━━━

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