昼食後の訪問者は美人だった
ちょっとエロいかもしれません。
ある秋の日だった。
その日は暖かい日だった。
俺は一人暮らしのアパートでのんびりしていた。
昼食はカップ麺。
食べた後、俺は眠りかけていた。
「こんなとき素敵な彼女がいたらいいな」と、俺はつぶやいた。言ってどうにかなるもんじゃないだろう。でも、つい口に出して言ってしまった。「ははは……」我ながら馬鹿らしい。
「ピンポーン」
誰か来たようだ。
× × ×
玄関ドアの覗き穴から見た。
知らない人が一人いた。
若い女性だ。
そして美人だ。
俺はすぐドアを開けた。
「こんにちは」
きれいな声だ。
「こんにちは」と俺は返した。
彼女が言った。
「私は誰でしょう?」
「………」俺は困った。
もう一度、彼女が言った。
「私は誰でしょう?」
変な女性だ。
だから俺はつい……ふざけて、でまかせで次を言った。
「冗談はやめろよ、君は俺の妻じゃないか」
なんてね!
我ながら馬鹿げてる。
俺に妻はいない。
それに一度も結婚したことがない。
でも、なぜかそう言いたくなったのだ。
たぶん目の前の女性が美人だから?
たぶん違う。
なんだか、以前から知っている人のような気がしたのだ。
「ごめんね、冗談です」と俺は言った。
「…………」彼女は驚いていた。
そりゃそうだ、俺は冗談が下手なのだ。
その事には、ちょっと自信があるのだ!!!
だが……彼女はふたたび笑顔になったのだ。
なぜだ?
彼女が小首を傾げながら言った。
「そうね、お昼はもう食べたの?」
「え?」
どーゆーことだ?
この女性、意外に冗談が好きらしい。
「お昼もう食べたんでしょ、いいにおいがするよ」
「そ、そうかな」
「ねえ、なに食べたの?」
「さっきカップ麺を食べたよ」
「また~、醤油ラーメンでしょ?」
「え? よく分かったね」
「だめよ、カップ麺ばかり食べてちゃ」と彼女が言った。
そして彼女はバッグを玄関に置いた。さらに靴を脱ぎ、何も言わずに奥の部屋に進んで行く。俺は、何がなんだか分からない。テーブルの上のカップ麺の容器を手にとって彼女が言った。
「またスープ全部飲んで、塩分の摂り過ぎになっちゃうよ」
「う、うん、つい飲んじゃうんだよね」
ど、どういうことなんだ、これは?
この女性は、この美人はいったい何者だ?
「駄目でしょ、もうあなただけの体じゃないんだから」
そう言って彼女は口を尖らせた。
「え?」
「あたしの夫なんだから、しっかり働いて体にも気をつけてね」
「うん、気をつける……」
俺の心臓の鼓動が、さっきから激しくなっている。
「よし!」彼女は笑顔になった。
そしてソファに座って、俺の雑誌を読み始めた。
「…………」
俺は何も言わず彼女の隣に座って、彼女の太ももに手をやった。
あたたかい。
彼女はページをめくって言った。
「わー、こんなネコを飼いたい」
「うん」
「ねえ、このアパートはネコ飼っていいの?」
「駄目みたい」
「じゃあ引っ越そうよ、ネコが飼えるとこに」と彼女が頬にキスしてきた。俺は彼女の肩に腕をまわし、彼女の口にキスをした。やわらかく、あったかい。すると彼女の腕が、俺の胸にゆっくりと優しく……。
× × ×
それから、二十五年が過ぎた。
子供たちは独立して家から出て行った。
今は妻と二人、そして猫が十二匹。
二十五年……いろんなことがあった。
× × ×
ある秋の日だった。
暖かい日だった。
お昼になった。
俺は居間のソファで雑誌を読んでいた。ソファの上には猫がいっぱいだ。二十年以上前から飼い始めた猫はどんどん増えて、今では十二匹になった。1ダースだね。
「今日のお昼はどうするの?」と、妻が台所から言った。
「カップ麺でいいよ。でも夕飯は二人で外に食べに行こうか」と俺は答えた。
「そうね。じゃあ、どこ行く?」
妻の声は、なんだか嬉しそうだ。
「君に任せるよ」と、俺は言った。
でも返事が無い。
だから、ちょっと大きな声で「君に任せるよ」と言った。
それでも返事が無い。
俺はソファに雑誌を置き、台所へ行った。でも妻はいなかった。たぶん外に出たのだろう。だから窓を開けながら、もう一度言った。「お店の決定は君に任せるよ」って。
すると彼女はそこにいて、振り向きながら言ったんだ。
「そーね、うーん、今日は餃子が食べたい気分かな」って。
おわり
ありがとうございました。
短いですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
豆知識。
「ソファ」か「ソファー」で迷った。
調べたら、どっちでも良いようだ。
英語で「sofa」だから、今回は「ソファ」にした。