表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話

   

 到着した先は、一軒の民家の庭先だった。

「よし! ここまでは予定通りだ!」

 タイムマシンは過去や未来へ移動する装置であり、空間的な位置を変えることはできない。だから、ここもトオヤマ時間研究所のはずだった。

 しかし今、あの寂れた町工場のような研究所の姿はない。昭和のホームドラマに出てくるような、あたたかいイメージの民家が建っているだけだ。

 それもそのはず、今はまだ研究所が設立される前の時代であり、目の前の建物は遠山博士の生家だった。


 太郎助手にとって遠山博士は養父に当たるので、書類手続きで彼の生年月日を記入する機会が何度もあり、すっかり覚えてしまっていた。

 また、何かの折に遠山博士が「助産師を呼んで、病院ではなく家で生まれた。私の時代は、そういう出産も多かったのだ」と言っていたのも、記憶に残っていた。

 おかげで太郎助手は、遠山博士が生まれたその日その場所へ、こうして辿り着けたのだ。出産でてんやわんやの一軒家へ忍び込むことは、それほど難しくなく……。



 目的を果たした太郎助手は、急いでタイムマシンへ戻り、帰路につく。

 時間移動が始まると、また同じだった。体に伝わる振動や、おかしくなる視覚、ピリッとした頭痛などで気分が悪くなる。

 だが、あらかじめわかっていれば、少しは対処のしようもあった。気を紛らわすために、太郎助手は目を閉じて考え事に没頭する。

「実の父親じゃないけど、一種のエディプスコンプレックスだったのかな……」

 自分の中にある、遠山博士に対する嫌悪感。あれはエディプスコンプレックスの概念で説明できるかもしれない、と思うのだった。

 父親に関する記憶がないために、本来ならば父親に対して抱く対抗心が、親代わりだった遠山博士へ向けられたのではないか。遠山博士自身、人に好かれるタイプではなかったけれど、エディプスコンプレックスがあった分、彼に対する憎悪が増していたのではないか。

「そうでもなきゃ、あんなことしたんだから今頃、もっと罪悪感を覚えるはずだよな……」

 わざわざタイムマシンで過去へ行き、太郎助手が()したこと。それは、遠山博士の抹殺だった。

 生まれたばかりの赤ん坊を手にかけてきたというのに、太郎助手は、全く心が痛んでいない。自分でも驚くくらいだった。

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ