表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話

   

 遠山博士と太郎助手の二人しかいない、トオヤマ時間研究所。そもそも太郎助手を育て上げたのは遠山博士であり、家族経営の町工場みたいなものだった。

 太郎の父親は、彼が物心つく前に亡くなっている。母一人子一人の家庭を、経済的にも精神的にも支えてくれたのが、他ならぬ遠山博士だった。

 遠い親戚ですらない遠山博士が、太郎の家庭を援助してくれるのは、幼い太郎には不思議に思えた。

「遠山のおじさん、お母さんとどんな関係なの?」

 何度も母親に尋ねただけでなく、それとなく親戚筋にも聞いて回ったが、はっきりした答えは得られなかった。ただ断片的な情報だけが、ぽつりぽつりと耳に入ってきた。

 遠山博士は、学生時代から太郎の両親と親交があったらしい。二人が結婚した後も付き合いは続いており、父親が亡くなった当日も、行動を共にしていたという。

 遠山博士の運転する車が事故を起こして、同乗者の父親が命を落とした……というほど直接的な話ではないが、少なくとも遠山博士の方では、何らかの責任を感じているみたいだ。だからこそ、亡くなった父親の代わりに役立ちたいと考えているのだろう。

 太郎は、そのように結論づけた。


 やがて、太郎が小学校を卒業する頃。

 父親に続いて、母親も他界してしまった。

 当時流行していた感染症にやられたのだ。太郎は知らなかったが、母親は昔から体が弱く、普通の人ならば軽い風邪程度で済む病原体なのに、致命的な症状にまで悪化したのだった。

 遠縁の親戚はいたけれど、誰も太郎の面倒をみようとはしなかった。あやうく孤児院に預けられるところだったが、遠山博士が引き取り手として名乗り出たおかげで、それだけは免れた。

 しかし後々、もしかしたら孤児院の方が幸せだったのではないか、と太郎は感じるようになった。親代わりになってくれた人を悪く言いたくはないが、太郎から見た遠山博士は、一人で怪しげな研究所を営む、偏屈な人物だったのだ。

 遠山博士自身の発明だけでなく、大企業の下請けとして雑多な機械の製作も行う研究所だ。色々な会社と取引できるくらいだから、遠山博士には、一般常識レベルの分別はあるはず。それでも太郎は彼を『偏屈』と感じてしまい、二人きりの生活には妙な息苦しさを覚える毎日だった。


「太郎くんには将来、私の研究を手伝ってもらう必要があるからな!」

 太郎は遠山博士から、様々な知識を詰め込まれた。遠山博士の教え方は上手く、また太郎自身の地頭(じあたま)も良かったため、高校も大学も一流校へ進学できた。

 生活費や学費だけでなく、勉強まで見てもらった形だ。ここまで世話になっては、遠山博士の希望に従うしかないだろう。

 そう判断した太郎は、大学卒業後、一般の企業に就職することも家を出ることもせず、トオヤマ時間研究所で働く道を選び……。

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ