表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/151

崩れゆく彼の世界

 ベラーナは象の魔女が捨てた子供を抱き止めると子供の様子を確認した。


 その男の子は死ぬ程ではないが酷い暴行を受けていた。

 恐らく口を割らせる為に拷問したのだろう。

 その子供がかつて自分の代わりに生贄となった少年と重なる。


「てめぇ……ガキいたぶってんじゃねぇよ!!!」


 膨れ上がった怒りは行動に直結し、ベラーナは右目から閃光を放っていた。

 シュガナと戦った時よりも太さを増したそれは、象の魔女の頭を直撃し爆発を起こす。


「痛ぁい!?」


 閃光は分厚い皮膚に阻まれ致命傷は与えられなかったが、象の羽根の様な耳を吹き飛ばした。

 浮力を失った象は耳を再生する間も無く隠れ里の大地に激突した。

 しかしさしてダメージを受けた様子も無くすぐに動き始める。


「チッ、まだ火力が足りねぇか……」

「……やってくれるじゃない……はぐれを私から横取りしようっての?」


 象の魔女はパラパラと体に着いた土を落としながらゆっくりと立ち上がり伊蔵(いぞう)達を睨む。

 象の巨体を見上げながら伊蔵は口を開く。


「はぐれはどうでもよい。儂が欲しいのはお主の首よ」

「面白い事言うわねぇ……見た所、人間みたいだけど、そんなに死にたいのかしら?」


 青黒い肌の象は伊蔵を見下ろし酷薄な笑みを浮かべた。

 伊蔵はその余裕に満ちた目を真っすぐに見返す。


「……いいわ。じゃあ死になさい」


 そんな伊蔵の態度が気に入らなかったのか、象は両手を振り上げ大地に叩きつけた。

 同時に崖全体が激しく揺れ、地面に亀裂が走る。


「クッ!? 地震じゃと!? ベラーナ!!」

「おっ、おう!!」


 伊蔵の声は、崖全体を揺らす地震に気を取られていたベラーナを動かす。

 ベラーナは伊蔵を(かす)めるように飛び、彼を回収すると隠れ里の上を旋回した。

 その間にも揺れは激しさを増し、隠れ里が作られた崖は徐々に崩れはじめる。


「オホホホホホッ!! このガリオン様を舐めるからこうなるのよ!!」

“僕の……僕の里が……くそぉ!!! 今すぐそれを止めろ!!!”


 里の中央の建物が鳴動し、怒りの声を上げる。

 それに連動して壁面に開いた小窓が壁面を移動し、そこから覗く槍を次々に象へと撃ち込んだ。

 人であればひとたまりも無いだろうが、ガリオンの巨体は撃ち込まれる槍を全て弾き返した。


「ウフフッ……くすぐったいじゃない」

“畜生……畜生……僕の里が……僕の世界が……”


 里の上、ベラーナの背に乗った伊蔵の耳には建物の嘆きと共に、中にいる里の住民達の悲鳴も捉えていた。


「おのれぇ……ベラーナ、儂をあの鼻の長い巨人の側に降ろせ」

「どうするつもりだよ?」

「八つ裂きにしてくれる」

「……了解だ……伊蔵、そんなに熱くなんな」

「分かっておるわ!」


 余り分かっていない様子の伊蔵に一抹の不安を感じつつ、ベラーナは急降下し伊蔵を下ろすと再び空へと舞い上がった。


「あら、あなた逃げていなかったの? 見逃してあげたのに……」

「お主が見逃しても、儂は見逃すつもりは無いのでな……」


 地震は今も続いている。

 ひび割れガタガタになり、揺れ続ける地面を伊蔵は駆け抜け刃を放つ。


「フフッ、剣で私が斬れる筈……えっ?」


 余裕の笑みを浮かべていたガリオンの顔が驚愕に変わる。


「斬れる筈……何じゃ?」


 伊蔵の刀、佐神国守(さじんくにもり)はガリオンの鎧と皮膚で守られた左足を一太刀で断ち斬っていた。


「アガガッ!?」


 左足の膝から下を失ったガリオンはバランスを崩し大地に転がる。

 その横倒しになり突いた両腕、そして垂れ下がった鼻と牙を光を放つ刃が真一文字に通り抜けた。


「ギャアアアッ!? 何!? 何なのよ!?」


 野太い悲鳴が崩れた崖の上に響き渡った。

 伊蔵は両腕を失い地面に突っ伏した象の魔女を見下ろしながら言う。


「お主も魔女という事は貴族じゃろう? 民を導き守るのが貴族の役目ぞ。それが民を虐げるとは……」

「なに言ってるのよ……こいつ等は……国の庇護する民じゃないじゃない……こそこそ隠れて……」

「お主らから逃れる為、隠れる他無かったとは考えぬのか?」

「この国は弱肉強食よ……弱い者は私達強者に……そう魔女に従っていればいいのよ!!」


 叫びと同時にガリオンは鼻を再生し身を起こすと、魔力で出来た仮初のそれを地面に打ち付けた。


「ぬっ!?」


 先程とは比べ物にならない揺れが崖を崩壊させていく。


「オホホホホッ!! 岩に潰されて死ぬがいいわ!!」


 ガリオンは体を再生させながら鼻を何度も崩れ行く大地に打ち付けた。

 その度、揺れは強さを増し、立っていられない程の衝撃が伊蔵を襲う。


“止めろ……もう止めてくれ……”


 揺れは地面を激しく隆起させ、上空のベラーナは近づけずにいた。


「クソッ、このままじゃ……」

「オッーホッホッホッホッ……オホッ?」


 唐突にガリオンの野太い高笑いが止まる。

 見れば脛当から暴風を吹き出し宙を舞った伊蔵がガリオンに背後から突進し、その頭を上下に断ち切っていた。


「フッ……ぬっ!? 制御が!?」


 笑みを浮かべた伊蔵だったが脛当から噴き出した風は止まらず、ガリオンを斬った勢いのまま直進しビタンッという音を立てて砦の外壁に激突した。

 大の字に壁にへばりつくと、しばしの時を置いてズルズルと地面に滑り落ちる。

 下まで滑り落ちた伊蔵は鼻字を流しながら仰向けに倒れた。


「ググッ……この……脛当は……改良の……余地……ありじゃな……」


 地面に激突した伊蔵はそれだけ呟くと白目を剥き気を失った。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ