裏切りと信用
アガンに全身を焼かれたサザイドが胸の痛みで意識を取り戻すと、右の額から角を生やした金髪の青白い肌の青年が彼を覗き込んでいた。
「あっ、目を覚ましたみたいだよ」
「うぅ……私は一体……そうだ!! 私を焼いた男は何処だ!?」
自分が丸焼きにされた事を思い出したサザイドは、そう叫びながら上半身を持ち上げた。
頭を振って、翳む意識を振り払うと彼は状況を確認する。
どうやら城の一室のベッドので寝かされていたようだ。
ベッドの周囲には一本角の男の他、桃色の髪の少女と彼を焼いた赤い髪の巨漢がいた。
自分の体に目を落とせば、知らぬ間に可愛い花柄の妙に派手なパジャマに着替えさせられている。
「貴様……私はこの領の新たな領主だぞ!! その私に歯向かってタダで済むと思うなよ!! あとこの趣味の悪い服は何だ!?」
赤い髪の巨漢、アガンを指差し声を荒げるサザイドに一本角の青年が笑みを浮かべ話しかける。
「元気だねぇ、君。サザイド君だっけ? その服はうちの部下の趣味だよ」
「何だ貴様!?」
「僕はカラ……それで教えて欲しいんだけど、君、何かを探しに来たんだよねぇ? 一体何を探しているのかな?」
「カラ……貴様がそうか……貴様には前線へ向かう様、命が下っている筈だ。さっさと向かえ」
カラは話すつもりの無さそうなサザイドに肩を竦めると、桃色の髪の少女に視線を送った。
「おチビさん、お願い」
「分かりました。『サザイドさん、あなたの任務を話して下さい』」
「私の任務はこの領で感知された悪魔を捜索しルーンドリアへとお連れする事だ……何だこれは!? 貴様、何をした!?」
「フフッ、君はこのおチビさんの使い魔になったのさ。もう彼女に逆らう事は出来ないよ」
「使い魔だと!? ふざけるな!! 近衛の私が何故こんな小娘の言いなりにならねばならん!?」
「僕は別に使い魔の契約を解いても構わないけど……そうしたら君は悪魔の逆鱗に触れて死んだって事になるけど、いいかな?」
目を細め楽しそうに笑うカラに、サザイドは魔女になって以来、感じた事の無い恐怖を感じていた。
それは使い魔になった事で悪魔の影響が減った事の現れだった。
今まで悪魔によって捻じ曲げられていた感情を取り戻したサザイドにとって、久方振りの恐怖はかなり効いたようだ。
彼は顔を青ざめさせ過剰に脅しに反応した。
「わっ、私を謀殺するつもりか!?」
「おチビさんの使い魔を辞めるのならそうなるねぇ」
「クッ……何が目的だ?」
「そうだなぁ……まず、君には新領主として、前線送りを嫌がった僕が無謀にも悪魔に挑み死んだって上に報告書を送ってもらおうか」
「貴様が死んだ……? 貴様ら一体何を……?」
「フフッ……それを聞いたら君は協力か死かどちらかを選ばないといけない……それでも聞きたい?」
ニコニコと楽しそうに笑いつつ目は笑っていないカラに底の見えない恐ろしさを感じたサザイドは、不安から逃れる為、協力すると思わず口にしていた。
■◇■◇■◇■
「いやぁ、久しぶりに楽しかったなぁ悪役」
「悪趣味ですよ……それに意識不明の人の胸を割いて結晶を取り出すとか、死んじゃったらどうするんです?」
カラは意識不明のサザイドが自分の代わりに領主として送られたと聞き、胸を割いて結晶を取り出していた。
フィアも血は貰おうと思ってはいたが、瀕死のサザイドを傷付けてまで奪おうとは考えてはいなかった。
結局、血を飲み結晶を取り込んだ事で力は上がり角も伸びたが、了承を得ずにそれを行う事にフィアは抵抗を感じていた。
「おチビさんは甘いなぁ……僕は新しく仲間に加えた二人、シャルアとコリトだっけ? あの二人の胸も開けた方がいいと思ってるぐらいだけど……」
「はぁ……思っているだけにして下さい……深く傷付けずに結晶を取り出す方法があれば協力も頼みやすいとは思いますけど……」
サザイドの寝室を後にしたフィア達はそんな事を話しながらモリスの下へ向かっていた。
「なぁフィア、使い魔の契約つってもよぉ、確かに命令は出来るが心を縛る事はしねぇんだろ? いいのか、あいつ裏切るかもしれねぇぜ」
「確かに今も彼からは迷いを感じています。でもそれでも強要する事も殺す事もしたくありません……もし彼が王子への忠誠を貫くなら眠ってもらおうかと思っています……」
「はぁ……甘いなぁ」
カラは肩を竦め苦笑した。
「まぁ、そんな甘い所も君らしくていいかもね」
「そうですか?」
「うん……王子達は誰も配下を使い魔にしていない。何故だと思う?」
「……分かりません。東との戦いを有利に進めたいなら、味方の力を上げる為にも使い魔にするのは良いと思うんですけど……」
「そうだね。僕もそう思う……多分だけど彼らは怖いんだと思うんだよ」
「怖い?」
カラは廊下を歩きながら頷きを返した。
「王子達は自分達の親を殺して支配者になった。そんな風に裏切られるのが怖いのさ」
「……力が上がった魔女たちが反逆するのを恐れてる?」
「うん。自分達が女王を裏切ったから、部下がそれをしないとは考えられない。使い魔にして心を探るって方法もあるだろうけどあの魔法も万能じゃない、だよね?」
フィアはカラの問い掛けに頷きを返した。
「確かに今もみんなの心を常に感じている訳じゃ無いですし、一斉に襲われたら対処出来ないでしょうね……」
「……部下を信用できねぇ、だから血や結晶で自分達だけ強くなってるってわけか?」
「だと思う。想像だけどね……君とは真逆だね」
「そうですか?」
「だって君、僕等の事も信用してるだろう?」
「それなりには……それにカラさんがもし裏切っても伊蔵さんがいますからねぇ……」
それを聞いたカラは再度、苦笑して肩を竦めた。
確かに伊蔵がフィアを裏切る事は使い魔の契約が無くてもあり得ないだろう。
真に信用できる者がフィアにはいる。
それが彼女と王子達の一番の違いではないだろうか。
実はそれが悪魔食い等よりもフィアの一番の強みかも知れない。
そんな事を考えながらカラは気だるさを感じなくなった体をモリスの下へ向かわせた。
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