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恋は全てを輝かせる

 羽音で視線を上げれば、赤い肌の魔女が伊蔵(いぞう)達を見下ろしていた。


「人除けの結界の所為で少し迷ったぞ!」


 ベラーナはそう叫ぶと大樹の側に舞い降りた。新たな魔女の登場で、住民達が騒めきを上げる。


「よっと……そいつが探してたはぐれ魔女か?」


 ベラーナを見て変身を解いたルキスラに右手の親指を向けながら彼女は伊蔵達に問いかける。


「そうじゃ、しかし遅かったのう。もう昼が近いぞ」

「まぁそう言うなよ。これやるからよぉ」


 そう言うとベラーナは伊蔵に苦無の束を手渡した。


「これは……?」

「フィア達が作った魔法定着を使った新しい武器だ。試してるのを見たが結構ヤバいぜ、それ。なんせ中庭に大穴開けちまったからよぉ」


「もしや爆裂か!?」

「ああ、イーゴが考えたアレの強化版ってとこだな。近接で使うなよ、巻き込まれるぜ」

「魔法の爆裂か……」


 伊蔵は感慨深そうに苦無を一本右手に掲げ眺めた。


「使い方は鎧とかと同じだ。発動してから大体三秒ぐらいで爆発する」

「ほう、時限式か」

「また危なそうな武器が伊蔵に……」


 目を輝かせる伊蔵を見てジルバは苦笑を浮かべる。

 そんな伊蔵に変化を解いたルキスラが声を掛ける。


「伊蔵、その者は仲間か?」

「うむ、この者はベラーナ、儂らと同じくフィア殿の使い魔じゃ」

「ベラーナだ。よろしくな」

「ルキスラだ。よろしく頼む……皆、この魔女も伊蔵達の仲間らしい、安心してくれ!」


 ルキスラが住民達に声を掛けると彼らの間に安堵の声が広がった。


「さて……取り敢えず話は終わりだ。もうそろそろ昼だ。アレン以外は食事にしてくれ」

「分かりました……里を出る時は教えて下さい。お見送りしますから」

「ああ、ありがとう……」


 住民達がそれぞれの持ち場に戻って行くと、ルキスラは伊蔵達を再度、家に招き入れた。


「座って待て、昼を食べてから里を出る事にしよう」


 テーブルに伊蔵達の他に従者になったアレンを座らせると、ルキスラは奥の扉に姿を消した。

 アレンはその様子をニコニコと見送った。


「嬉しそうじゃな?」

「ルキスラ様の飯はスゲェ旨いんだぜ!」

「そうなのか? でもあいつ多分草食だろ? なんか鹿っぽいし」


「鹿って言うな!! あの白い毛並み、スラっと伸びた足、神々しい角、どれをとっても文句の付けようがないだろ!?」

「……なんだこいつ、あのはぐれに惚れてんのか?」

「どうもそうみたいよ」


 ジルバの答えにベラーナはニヤニヤと笑い生暖かい視線をアレンに送った。


「なっ、なんだよ……?」

「いや、若いってのはいいなと思ってよぉ……」

「何だよそれ!?」

「ケケケッ、気にすんなって」


 ベラーナはアレンとルキスラがどうなるのか、今後の楽しみの一つにするつもりだった。

 ニヤつくベラーナにアレンが憤っていると、食事をトレーに乗せたルキスラが奥から姿を見せた。


「あまり揶揄わないでやってくれ、この子は純粋なんだ」

「へいへい」


 テーブルに並んだ料理はベラーナの予想とは違い至って普通の物だった。

 パンとチーズの他、肉や野菜の入ったシチューと新鮮なサラダが並べられる。


「シチューは昨日の残りですまんが」

「ルキスラ様のシチューは絶品ですから何の問題もないです!」


 嬉しそうなアレスと違い、伊蔵とジルバは少し顔を顰めていた。


「……儂らは昨晩、硬いパンとチーズだけじゃったが……」

「そうよ、凄くひもじかったんだから!」

「フフッ、あちらはこの里の存在を隠す為にワザと質素にしているからな」

「なるほどのう……」


 あの場所に村がある事は領も把握している。

 領も周囲の町も放牧で暮らす貧しい村という認識だ。

 そんな村がそれなりに豊かな暮らしをしていたら、はぐれ魔女との関係を疑われる事は必至だろう。


「ケケッ、俺は城に戻れてよかったぜ……そうだジルバ、あの婆さんの事、責任取れよな」

「お婆さん?」


「シャルアだよぉ、あいつマジで俺に礼儀作法を仕込むつもりだ」

「あら、お気の毒。頑張ってねぇ」

「元はといえばお前が!?」


 ベラーナがジルバに苦情を言いかけた時、ルキスラがそれに声をかぶせた。


「話はそのぐらいにして先に食事にしよう」

「うむ、朝も食っておらんから腹がへったわい」

「チッ……覚えとけよ……旨っ!? おい鹿、これホントにあんたが作ったのか!?」

「鹿って言うな!!」

「アレン……そうだがおかしいか?」


 声を上げたアレンに視線を送り制すとルキスラはベラーナに小首をかしげた。


「こりゃ城の飯より数段上だぜ!」


 ベラーナは驚きで目を丸くしながら皿を持ち上げシチューをかき込んでいる。


「やぁねぇ下品で……あら、ホントに美味しい……」

「確かに美味じゃ……味付けも良いがそもそも野菜が旨いのう」

「だろう?」


 伊蔵達が褒めると何故かアレンが誇らし気に胸を張っていた。


「……旨いか……そうか……」


 ルキスラはそんな伊蔵達を見て少し顔を赤らめ嬉しそうに笑った。



 ■◇■◇■◇■



 食事を終えた伊蔵達は里の住民に見送られ、山と谷の辺境を後にした。

 ルキスラはジルバが送っていく事になり、伊蔵はベラーナと共に最後の目撃情報があった領の最南端へ向かう事にした。


「次が最後じゃな」

「おう……まぁ、情報があった場所が最後ってだけだから、他にもはぐれはいるかもだけどよぉ」

「それは致し方あるまい……して最後の場所は沼地じゃったな?」


 伊蔵の問い掛けに報告書を取り出したベラーナが答える。


「ああ、この報告書にぁ沼から首をもたげた怪物を霧ん中で見たって書いてあるぜ……水の中にいるとなると誘い出すのが面倒そうだな」

「ふむ……カラでも連れて来ればよかったか。あやつの竜巻なら沼の水を全部吹き飛ばせそうじゃ」

「んな事したら、はぐれも吹き飛んじまうだろうが……」

「ぬ……それもそうじゃな」


 ベラーナは伊蔵の言葉に呆れながら南の沼地へ向けて翼をはためかせた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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