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黒い獣とお食事会

 城に戻ったベラーナはガルドを連れてモリスの下を訪れていた。


「ご苦労様です、ベラーナ様」

「おう。こいつはガルドだ」

「ガルド様ですな。暫くご不自由でしょうが、準備が整うまで城でお過ごし頂けると有難いです」


「準備……反乱の準備か?」

「いえ、はぐれ魔女の皆様を匿う為の場所の準備です」

「……匿うか……俺は監禁されるつもりは無いぞ」


 伊蔵(いぞう)に負け城には来たが王宮の目をくらませる為であっても、動く自由を奪われるのはガルドには耐え難かった。


「反乱の準備が整うまでの間ですし、それなりの屋敷を用意するつもりですが……短い時間でも屋敷に閉じこもっているのは嫌と言う事ですかな?」

「まあな。俺はこれまで一人で自由にやって来た。閉じ込められるのは我慢ならん。それよりお前らの仲間に加えて好きに動かさせろ」


 ガルドは伊蔵達の話したこの国の魔女を排除するという計画には魅力を感じていた。

 はぐれ魔女と呼ばれ追われ続ける事に不自由さを感じていたからだ。

 それに自分を簡単にあしらった伊蔵がいれば、無謀な計画も成功する目もある様に思っていた。


「ふむ……好きに……困りましたなぁ……スタンドプレーは正直迷惑なのですが……」

「人間にしちゃあ肝の据わった奴だな。気に入ったぜ」

「それはどうも……しかしどうした物ですかな……」


 先に保護した三人、ローグとシャルア、それにアナベルは特に屋敷に籠る事に不満は洩らさなかった。

 ローグは半年間、岩だらけの島にいた様だし、シャルアも山奥の館で一人暮らしていたので引き籠りには抵抗は無かったのだろう。

 アナベルは東とは違う豊かな暮らしにそれどころでは無いようだった。


 王宮からの使いは連絡して来る事もあれば、抜き打ちで来る事もある。

 ガルドが自由に動いていて見咎められでもしたら、きっと色々面倒な事になるだろう。


「城までの道中、話を聞いたがこいつ、色んな場所を点々としながら一匹狼でやって来たみてぇだからよぉ」

「一匹狼ですか……軍には一番不要な人材ですな……勝手をされれば作戦が崩壊します」

「でもよぉ、こいつの影に身を潜める魔法は情報収集には凄ぇ使えんぜ、多分」


 モリスは心の中で深いため息を吐いた。

 フィアの使い魔になるまで城の魔女達は自分の欲望のまま、結構好き勝手にやっていた。

 それを何とかやってくれそうな仕事を割り振り、王宮に目を付けられないようやって来たのだ。

 使い魔になった事でようやく治まったと思ったら、今度は素で好き勝手にやりたいという者が現れるとは……。


「……ガルド様、先ほど仲間に入れろと仰いましたな?」

「ああ、魔女共が国からいなくなれば、俺ももう少し自由に生きれるだろ?」

「では仲間に加える条件としてフィア様の使い魔になって頂きたい」

「使い魔だと? 俺を誰かの奴隷にするつもりか? 大体フィアとは何者だ?」


 ガルドが伊蔵達に協力しようと思ったのは、モリスに言った様に自由に生きたいからだ。

 だが自由を欲して奴隷になるのでは本末転倒だ。


「フィアはお前と同じはぐれ魔女で俺達のボスだぜ」

「はぐれ魔女がボス……? 伊蔵が主と言っていたのはそのはぐれ魔女の事か?」

「そこら辺は話してなかったな。一気に話すとこの前、仲間になったローグって奴みたく混乱すると思ってよぉ」

「魔女の誰かが領主に取って代わったのかと思っていたが……」

「そういうの考えた事もあったけどよぉ……ともかくだ、この状況を作ったのは伊蔵とフィアだぜ」


 ガルドは伊蔵の主だというそのはぐれ魔女に興味が湧いてきた。


「ふぅ……そのフィアとやらに会わせろ。自分の目で見定めたい」

「いいぜ、ただし威嚇とかすんなよ。フィアはまだガキんちょだからよぉ」

「ガキんちょ……子供がお前らのボスなのか?」


「見た目は幼いですが、フィア様はカラ様よりもしっかりしてますよ」

「モリス、お前ホント遠慮が無くなったなぁ」

「お褒めいただき光栄です」


 笑みを浮かべたモリスにベラーナは苦笑を返した。

 その様子を見たガルドは伊蔵の言葉を思い出した。

 彼は現状を説明する際、フィアの事は話さなかったが主の願いが国を混乱させる魔女達の排除であり、最終的には魔女が人に溶け込み暮らす事だと語っていた。


 その願いの一端は目の前で実現されつつあるようにガルドには思えた。



 ■◇■◇■◇■



 モリスとの対話の後、ガルドはベラーナに連れられ城の食堂へと向かっていた。

 伊蔵達と兎は食べたが、あれだけではガルドの胃袋を満たすには足りなかった様で盛大に腹が鳴ったからだ。

 ベラーナもそうだったようで、食事を取りながら話をしようという事になったのだ。


「なんか、他のはぐれ魔女も一緒らしいからよぉ。そいつらも威嚇すんなよ」

「他の連中はどんな奴らだ?」

「あー。白魔女の娘と石の小僧と、あとは羊の婆さんだな」

「……小娘に子供に老婆だと……お前らは本当に反乱を起こすつもりなのか?」

「もともとはぐれ魔女は戦力に入れてねぇよ……さっ、ここだぜ」


 両開きの扉を開けた先では、料理が並べられらた円卓の向こう正面に桃色の髪の少女が座っていた。

 少女の左隣に銀髪の娘、その横に羊の老婆、右隣りには石で出来た子供が座っている。


 そのテーブルに座っていた少女は、ガルドの姿を認めると椅子を降り彼の下へと駆け寄って来た。


「はじめまして、私はフィア。あなたがガルドさんですね?」

「そうだ。お前が伊蔵達の主と聞いたが?」

「ええ、なんかなりゆきでそうなっちゃいまして……」


 空色のエプロンドレスを着たフィアは、答えながら桃色の頭を掻いた。


「とにかく飯にしようぜ。腹減っちまった」


 ベラーナはそう言うと大股でテーブルに歩みより、ローグの横の椅子にドカッと腰を下ろして足を組んだ。


「ベラーナさん、お行儀が悪いですよ」

「ああん? ……婆さん、正気に戻ったのか?」

「ええ、フィアさんのおかげで迷子から戻ってこれました」


 笑みを浮かべたシャルアは横長の瞳孔をベラーナに向けた。

 見た目は老婦人のままだが、その瞳には以前の様なぼやけた部分は感じられない。


「フフッ、ちゃんと約束通りレディとしての心得を仕込んであげますから……まずはその組んだ足を下ろしなさい」

「婆さんよぉ、あれはジルバが適当に言っただけで……」

「ベラーナさん!!」

「……チッ、わーったよぉ」


 シャルアの迫力に圧され、ベラーナは渋々組んでいた足を床に降ろした。


「はい、よく出来ました」

「……やりづれぇぜ」


 そんなやり取りを横目に見ていたフィアは、呆れた様子のガルドの手にそっと手を伸ばした。

 小さな手が黒い体毛に覆われた指を優しくつかむ。


「取り敢えず無事で良かったです。お腹が空いているのでしょう? 先に食事を取りましょう」

「あ、ああ……」


 自分の姿を見て怯えないフィアに少し戸惑いながら、手を引かれてテーブルに着く。


「えっと、食事の前に自己紹介だけ。さっき名乗りましたが私はフィア、一応、皆さんのリーダーという感じです」

「あっ、アナベルです……東から逃げて来た白魔女です……」

「ローグだ。南から来たはぐれ魔女だ」

「シャルアと申します。大昔に王宮から逃げ出した者でございます」


 名をガルドに告げた四人の視線がベラーナに集まる。


「……俺もか!? ……ベラーナだよぉ、この領の騎士……って、なんだよコレは?」

「ベラーナさん、あなたには言葉遣いから直して頂かないといけないようねぇ」

「……勘弁してくれよ」


 そんなやり取りの後、四人はガルドに視線を向ける。


「……ガルドだ。人狩りで魔女になったが仕事が合わなくてな……西側を放浪していた」

「はい、では自己紹介も終わった所で食事にしましょうか? ではいただきます」


「「「いただきます」」」


 四人の視線は再びベラーナに向けられた。


「ベラーナさん、命を頂くのですし、作ってくれた人への感謝は大事ですよ」


 シャルアはそう話しベラーナを真っすぐに見つめる。


「言えよ。この婆ちゃん、行儀が悪いとすげぇ怖いんだ」


 ローグがチラリとアナベルの横に座るシャルアを盗み見ながら囁く。


「……クッ、なんで俺まで……わーったよぉ、言うよぉ、言えばいいんだろ! いただきます!」


 ヤケクソ気味に叫んだベラーナに集まっていた視線が今度はガルドに集まる。


「はぁ……郷に入っては郷に従えか……いただきます」


 完全にペースを乱された様子のガルドを見て、フィアは小さく微笑みを浮かべた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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