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知識を力に

 表向きカラの愛人となったアナベルだったが、取り敢えずはフィアの助手としてやる事を手伝ってもらう事にした。

 はぐれ魔女の件はモリスに任せるとして、フィアは魔法の定着に専念する事を決めた。


 用事があるというベラーナと別れ、フィアは書庫にいるイーゴの下へアナベルと共に向う。


「あのフィアさん……これから向かう書庫にいるイーゴさんという人は裸では無いですよね?」

「安心して下さい。あんなだらしない人はカラさんぐらいですよ」

「でも伊蔵(いぞう)さんも庭で裸に……」


 そういえば伊蔵も風呂上りによく全裸で涼んでいた。

 何度も注意したのだが、止めるつもりは無いらしくフィアはもう諦めていたのだ。


「……訂正します。ああいう人はこのお城には二人だけです。多分」

「良かった……私、てっきり西側の殿方は裸になるのが好きなのかと……」

「東にはあんな人達はいないんですか?」


「はい、神は規律を重んじますので……子をなす目的以外の……その……快楽を求めてそういう行為をするのは……」

「ああ、皆迄言わなくても大丈夫です……しかし、東側は凄く真面目なんですね」

「真面目というより、規則が……法が厳しいのです。東であの様な姿で出歩けばすぐに捕まってしまいます」


 西でも裸で出歩く様な人は殆どいないと思うんですけど……。


 そんな事をフィアが考え苦笑いを浮かべている間に、二人は書庫へと辿り着いた。


 扉を開け中に入ると緑の肌の魔女、イーゴが長机に置かれた武器防具の前で本を開いていた。

 机の上には修繕された伊蔵の鎧の他、アガンが購入した武器防具が並び、恐らく魔法定着に関係しているだろう本が平積みにされている。


「おはようフィア」

「おはようございます、イーゴさん」

「ん? そいつが噂の白魔女か?」


「ええ、アナベルさんです」

「アッ、アナベルです。よろしくお願いします」

「イーゴだ。書庫の番人みたいな事をやってる。よろしくな」


 イーゴはアナベルに笑みを返した。

 下あごから突き出た牙で凶悪そうに見えるイーゴの微笑みだったが、アナベルは不思議と恐ろしく感じなかった。


「はい、よろしくお願いします……」

「どうしたんです?」


 不思議そうにイーゴを見つめるアナベルにフィアが問いかける。

 するとアナベルはフィアの耳元に顔を寄せ小さく囁いた。


「失礼な事かもしれませんが、恐ろしい風貌とは逆に凄く穏やかな人だなぁと……」

「イーゴさんは理性的な人です。アナベルさん、人を見た目で判断するのはよくありませんよ」

「……そうですね」


 御使いは一部を除いて、それ程人とかけ離れた容姿の者はいない。

 殆どが白い羽根を持ち、光輝く美しい容姿をしている。

 その羽根も魔力で構成されているので、消してしまえば殆ど人と変わりは無い。


 アナベルが西側は悪魔に支配されているという言葉を信じたのも、戦場で見た黒き魔女達が異形だった事が大きい。

 だが、この城で会った魔女達は姿形は変わっていても、邪悪では無いように感じた。


「さっそくなんだが、フィア、お前さん俺達の魔法が使えるんだよな?」

「はい、皆さんの血を、かなり強引でしたが頂いたので」

「便利なもんだぜ。俺もそんな能力がありゃあなぁ……まぁいい。ともかく定着を試してみよう。まずはコイツに障壁を付けてみようぜ」

「血……」


 少し考え込んだアナベルには気付かず、イーゴは金属で補強された革の籠手をフィアに差し出した。

 指先の無いグローブと手甲が一体となった黒革の籠手だった。手甲とグローブには薄い金属板が張られている。


「こいつは昨日アガンが持ち込んだ物だ。ベラーナ用らしいんだが、あいつはスピードと攻撃重視の奴だからな。どうしても防御は弱くなる。障壁とは相性がいい筈だ」

「なるほど……確かにベラーナさんは攻撃用の魔法しか持っていませんもんね」


「やり方は昨日説明した通りだ。俺の魔法と魔力じゃ使いもんにならなかったが、お前さんなら実戦レベルの物を作れる筈だぜ」

「分かりました。印を刻むというのが難しそうですが、取り敢えずやってみます」


 イーゴが見つけ出した魔法の定着は、血を混ぜたインクに使いたい魔法をイメージして魔力を送り込み、それを特殊な小型のナイフで定着させたい物に刻み込むという物だった。


 フィアは説明された通り、インクに血を一滴垂らし魔法をイメージして魔力を流し込む。

 するとインクの表面が泡立ち黒いインクが鮮やかな赤に変わった。

 イーゴはその色の変わったインクを空洞になっているナイフの柄に流し込んだ。

 柄のボタンをイーゴが押すと刃に刻まれた溝を伝って、先端に赤いインクが流れる。


「よし、後はこの定着印の通りに形を刻むんだ。暴発させない様に集中を途切らせるなよ」


 イーゴはインクが流れる事を確認すると、ナイフをフィアに差し出した。


「集中ですね……」


 フィアはナイフを受け取ると、真剣な表情でイーゴが示した本の定着印を真似て、籠手の手の甲部分に薄く印を刻んでいく。


 イーゴの話では定着印で魔法を安定させれば、使用者の意思で自在に魔法を展開できるらしい。

 また一度刻めば魔力の補充は必要だが、壊れない限り半永久的に使えるようだ。


「フィアさん、よく分からないですが頑張って下さい!」


 話について行けなかったらしいアナベルは、フィアの横で拳を握り応援している。

 しかしアナベルの応援虚しくフィアは印を刻むのに失敗し、テーブルの上に暴発した障壁が広がった。


「キャッ!?」


 障壁は刻んだ印を中心に円形の盾の様に広がり、フィアを突き飛ばしてテーブルの上の武具や本を床にばら撒くとやがて翳む様に消えた。


「痛たた……」

「大丈夫かフィア!?」

「フィアさん!?」


 椅子から転げ落ちたフィアを横にいたアナベルが抱き起す。


「私は大丈夫ですけど……魔法に集中しながら刻むのは難しいです」

「慣れないうちは仕方ねぇさ。腐らずにやろうぜ」

「そうですよ。フィアさんならきっと出来ます!」


「そうですね。まだ一回目ですもんね」

「よし、んじゃその籠手は俺がヤスリで印を削っといてやるから、こっちでやってみてくれ」

「了解です!」


 イーゴが差し出した籠手を受け取ったフィアは、気合を入れる為パンッと自分の両頬を叩いた。


 しかし、アナベルも失敗した印を削るのを手伝い作業を続けたが、魔法と彫刻の両立は難しいらしくその後も定着が成功する事は無かった。


「はぁ……成功させるには一杯練習しないと無理そうです……」

「そうか……これが出来りゃ俺の知識も役に立つと思ったんだが……」

「あの……素朴な疑問なんですけど、印を刻むのはフィアさんじゃ無いと駄目なのでしょうか?」

「…………」


 イーゴはアナベルの言葉に瞳を見開いた。


「えっ、あの……私何かおかしな事を言ったでしょうか?」

「いや、おかしくねぇ……俺はずっと一人でやってたから、そうするもんだと頭が固まってた……」

「という事は?」


「印は俺が刻む! フィアは魔法に集中してくれればいい!」

「じゃあじゃあ、魔法の定着は出来るんですね!?」

「おう! ありがとよアナベル! お前のおかげで気付く事が出来たぜ!!」


 東では殆ど受けた事の無い真っすぐな感謝に、アナベルは戸惑いながらぎこちない笑みを返した。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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