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眠る時は生まれたままの姿で

 謁見室の扉をくぐったフィアはカラを見て頬を痙攣させた。


「ふぁああぁ……やあ、おはよう。おチビさん……やっぱり昼からでよくないかい?」


 衝撃から立ち直ったフィアは呆れて口を戦慄かせ、アナベルは顔を赤面させ固まり、ベラーナはといえば首を振ってため息を洩らしていた。


「どうして下着一枚なんですか!?」


 フィアの叫び通り、カラは逆三角形の紫の下着とサンダルという出で立ちで、謁見室の椅子に優雅に足を組んで座っていた。

 カラの横に立ったモリスが申し訳なさそうな視線をフィアに送っている。


「僕は寝る時は何も着ない主義なんだ。この後ももう少し眠るつもりだし、下着を履いているだけ褒めて欲しいね」

「敵側の軍人さん相手に恥ずかしく無いのですか!?」

「何で恥ずかしいのさ? それより、その娘がベラーナが捕まえたっていう白魔女ちゃんかな?」


 カラの問いに苦笑を浮かべたベラーナが答える。


「そうだ。白魔女の匂いがしたんで探ってみたら、こいつが一人で飛んでたんだ。話を聞いたがどうも脱走兵ではぐれ魔女みてぇだ」

「白き魔女が脱走兵ではぐれ魔女か……面白いね」


 カラは身を乗り出して、興味深げに固まっているアナベルを観察した。


「また、はだか……」

「はぁ……彼女の名前はアナベルさんです。アナベルさん、あのほぼ裸な人がカラさん。この城の主です」


 アナベルは再びフリーズしていたが、フィアの言葉でハッと我に返った。


「アッ、アナベルであります! 所属は中央攻撃隊、第十五師団第八大隊、第三中隊所属の一等士であります!」

「朝から元気だねぇ……一等士って事は一番下っ端って事だね?」

「そっ、その通りであります!」


「で、おチビさんはこの娘をどうしたいの?」

「しばらくここに置いて欲しいんです」

「ここに? ……まぁ、いいけど。たまに王宮から人が来るよ、ここ?」


 王宮と聞いてフィアは少し考える。

 もしアナベルが見つかれば情報を聞き出す為、恐らく王宮に連行されるだろう。

 何か彼女を匿う方法は無いだろうか……。


 一瞬、森の自宅が思い浮かぶがフィア達は暫く家に戻るつもりは無いし、そうなると彼女を一人で置いておく事になるだろう。

 危うげなアナベルから目を離すのはフィアにはためらわれた。


 考え込んだフィアを見て、カラが口を開く。


「……じゃあさ。僕の愛人って事にでもする?」

「愛人!? カラさんの!?」

「うん、僕、ぐうたらな変わり者で通ってるからさ。アナベルちゃんは白魔女と言っても下っ端だし、お気に入りだって言えば王宮も強く言わないと思うんだよね」


 いい暇つぶしを見つけたとカラは楽しそうに話した。

 それを聞いたアナベルがフィアのドレスをチョコチョコと引っ張る。


「なんですアナベルさん?」

「あの……愛人というのは……やっぱりそういう事もしないといけないのでしょうか? 私、あの……」


 アナベルは顔を赤らめ眉根を寄せてフィアの耳元で囁いた。


「アナベルさん、あくまでふりです。それに心配しなくても、そんな事をする前にカラさんなら面倒になって止めますよ」

「そうだぜアナベル。アイツはきっと下半身もぐうたらさ。役になんて立たねぇよ、文字通りなぁ」


 囁きが聞こえたらしいベラーナがニヤつきながらアナベルに言う。


「ベラーナ聞こえてるよ。誰が役立たずだって? 僕だってその気になれば……」

「うぅ……やっぱり聞いていた通り、黒き魔女は性に奔放なのですね……」


 この程度はカラやベラーナ達には日常会話でありフィアも魔女達の言動に慣れていたが、アナベルはこういう会話にも慣れていないらしい。顔を真っ赤にして目に涙を溜めている。


 それを見たカラとベラーナは生暖かい目でアナベルを見つめた。

 そんな二人と違いフィアは改めて彼女を放ってはおけないなと強く思った。



 ■◇■◇■◇■



 行く当ての無いアナベルはカラの提案を受け入れ、表向きは彼の愛人という事で城に滞在する事となった。

 取り敢えずアナベルの事はそれでいいとして、フィアは次にどうするかをカラに提案する事にした。


「カラさん、お城も片付いた事ですし、次なんですけど……」

「次? 忙しないねぇ」


「えっとですね。カラさんの領地には私以外のはぐれ魔女はいますよね?」

「確認はしてないけど、多分いるんじゃない。僕はその辺、どうでも良かったから」


「んんッ……何件かはぐれ魔女ではないかという報告は来ています。我が領は王宮に目を付けられない程度にしかはぐれ狩りを行っておりませんから、噂を聞いた者が移り住んだのかもしれません」


 カラに代わってモリスがフィアの問いに答える。


「……そうですか……ではそのはぐれ魔女さん達の保護をお願いします」


 モリスの答えにフィアは一瞬切なそうに目を伏せたが、すぐに顔を上げると要望を彼に伝える。


「保護ですか?」

「はい、仮にはぐれ魔女だったとしても、王宮に引き渡したりしないで欲しいんです」

「ふむ……暫くは誤魔化せるでしょうが……」

「難しいですか?」

「そうですなぁ。これまでは年に一度ぐらいは捕縛して王宮に引き渡しておりましたから……」


 モリスの言葉にフィアは表情を曇らせる。


「んじゃ、こういうのはどうだ? 全員、はぐれじゃなかったって事で雇っちまうてのは?」

「不自然すぎますよ」


「ねぇ。ちょっといいかな?」


 黙り込んだフィア達を見てカラが口を開いた。


「なんですか、カラさん?」

「そもそもさぁ、おチビさんは王子達と戦うつもりなんだよね?」

「戦うのは嫌ですけど……そうなると思います」


「じゃあさ。王宮のご機嫌なんて取らなくてよくない?」

「でも、それじゃこの領が攻撃されるんじゃあ……」

「準備期間は必要だろうけど、どうせ戦うんだし、やりたい事をやろうよ」


 カラは珍しく真剣な表情でそう話した。


「カラ様……どこか具合でもお悪いのですか?」


 積極策を口にしたカラをモリスは驚愕の表情で見つめている。


「モリス、随分と言う様になったじゃないか……別に具合は悪くないよ、唯、おチビさんの使い魔になってから僕は段々と王家の連中にムカついてきたのさ」

「ムカついて?」


「ああ、だってあいつ等、要求ばかりで何もしてくれないんだもの。こっちには金だの魔女だの寄越せって言う癖に、自分達は王宮でのんびり過ごしてるんだよ?」


「……主に仕事をしていたのは私ですがね」

「うるさいよモリス。使い魔になってからは働いてるだろ、そのおかげで眠くてしょうがないよ」


 ぼそりと呟いたモリスにそう返し、カラはフィアに目をやった。


「だからさ。遠慮せずに正面から反乱を起こそうじゃないか」

「カラさん……平和になったら思いっきりぐうたらするつもりですね?」

「バレたか。でもいいでしょ。平和なんだしさ」


 内戦を止めないと惰眠を貪る事も出来ない。


 フィアの心に伝わってきたカラの感情からはそんな物が読み取れた。

 それに苦笑しつつ、フィアは心を決める。


「分かりました。ではまず、はぐれ魔女さんの保護と武器防具の準備を始めるとしましょう」

「武器防具……魔法を定着させた武器を量産するのかい?」

「ええ。きっと強い味方になってくれる筈です」


「なぁ、それって俺にも使えんのか?」

「はい、勿論です。昨日、イーゴさんと防御だけでなく攻撃にも使えそうだって話した所です。多分戦いの幅が広がりますよ」

「そうか……そりゃ、面白そうだな」


 アナベルは平然と国に逆らう計画を話すフィア達に愕然としていた。

 彼女はこれまで苦痛を感じながらも、上に逆らおうとは一度も考えなかった。

 思っていたのは、苦しい、逃げたい、そんな事ばかり。


「あっ、あの!」

「なんですアナベルさん?」

「あの……私もお手伝いさせてもらえないでしょうか?」

「……いいんですか? 私達は東側ともいずれは戦うつもりですよ?」


「分かっています……でも戦わないと変わらないなら……きっと今も東では姉さんや母さんみたいに辛い思いをしている人が大勢いる筈なんです……」


 胸元で手を握り俯いたアナベルの肩をベラーナが力強く叩く。


「あぅ!?」

「辛気臭ぇ顔すんなよ! やるのはお前一人じゃねぇ!」

「そう……ですね」

「おう、心配すんな、いざとなりゃ伊蔵(いぞう)って秘密兵器があるからよぉ」

「伊蔵さん……あっ、はだか……」


 アナベルは伊蔵の事を思い出し耳まで真っ赤に染めた。


「またかよ……俺達と付き合うんなら、まずはその初心な所をどうにかしねぇとな」

「はっ、はい、頑張ります!」


 顔を上げベラーナに向かってアナベルはギュッと両手を握ってみせた。


「なんか、可愛いね。彼女」


 それを見たカラがぼそりと呟く。


「カラさん、愛人というのはあくまで時間稼ぎですからね」

「分かってるよ」


 カラに釘を刺したフィアは純粋なアナベルに対し妙な庇護欲を感じていた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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