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魔女と使用人

 フィアの指示で使い魔となった魔女達は長年集めたコレクションを城の庭へと運び出した。

 その後、フィアはモリスに頼んで、有用な物と必要の無い物にコレクションを仕分けした。


 勿論、集めて来た魔女達は一斉に反発したが、フィアの妙な迫力と伊蔵(いぞう)が睨みを利かせた事で渋々彼女の言葉に従った。

 物が無くなった城の中を召使い達が総出で掃除し、本や武具、保存のきく酒等を書庫や倉庫に運び入れる。

 それと並行して商人達に不用品を買い取ってもらう。


 そんな事を数日かけて行い、物に溢れていたカラの居城はフィア達が訪れた時とは比べ物にならない程スッキリ片付いていた。

 その片付いた玄関ホールに魔女の他、城で働いている者を集めてもらい、居並んだ人々の前に立ったフィアは満面の笑みを彼らに向けた。


「うん、とっても綺麗になりました。皆さんお疲れ様でした」

「あんなに物に溢れていた城がここまでスッキリするとは……」

「フィア様……私は感無量でございます」

「えへへ、喜んでもらえたなら良かったです」


 モリスは感心し、執事のリチャードは感激していた。

 リチャードを筆頭に使用人達は概ねこの状況を喜んでいるようだ。

 それとは逆に魔女達は不満顔だった。


「俺の……俺の宴会グッズが……」

「ベラーナさん、そんなに落ち込まないで下さい。宴会の余興なら本職の芸人さんを呼べばいいじゃないですか」


「俺は自分で受けを取りたいんだよ!」

「ベラーナ、道具に頼るで無い。後でお師様直伝の腹踊りを教えてやる」

「なんだよ腹踊りって?」

「こう腹に顔を描いてな……」


 伊蔵がベラーナに腹踊りの説明をしているのを横目に、フィアは集まった人々に言う。


「私はお母さんから整理整頓を躾けられました。その時、お母さんが言っていたのは本人は良くても他の人が使う際、物が何処にあるのか分からないと時間を無駄にするという事でした。今後も魔女さん達には整理整頓を心掛けて欲しいと思います」


 フィアの言葉に殆どの魔女達は一斉に顔を歪め、城で働く人間達からは控えめな拍手が沸き起こった。

 魔女達がいる側でそんな事が起きるという事は、召使いたちも内心では城の状態を心苦しく思っていたのだろう。


「えっと、これから各地を守護していた魔女さん達にはそれぞれの場所へ戻ってもらう訳ですが、そちらでも不用品の処分と片付けをお願いしますね」


「砦の掃除も我々にさせるつもりか!?」


「ええ、先ほども言ったように物が溢れていると仕事効率が悪くなります。長い寿命を持つあなた方は良くても、兵士さん達の時間を無駄に奪う事は彼らの人生を搾取している事に他なりませんから」


 そう言い放ったフィアに今度は先程より大きな拍手が沸き起こる。


「クッ……人間どもめ……」


 魔女の一人が忌々し気に召使いを睨むとその拍手も水を打ったように静まり返った。

 フィアはその腰に長剣を下げた黒く金属質の肌の男に目をやる。


「あなたはオルディアさんでしたね?」

「そうだチビ助」

「あなたは一人ぼっちで生きて行きたいのですか?」

「何? どういう意味だ?」


「他者を蔑めば、あなたの周りにはあなたの力を求める人しかいなくなる筈です。それは気を許せる友人とは呼べない筈……そんな状態で何百年も生きたいですか?」


 フィアの言葉でオルディアは少したじろいだ。

 以前の彼ならそれがどうしたと反論していただろう。

 しかしフィアの使い魔になった事で、彼の意識は人であった時の感覚を少なからず取り戻していた。


 周囲に取り入ろうとする者と魔女の力に怯える者しかいない状態。

 それは現在のオルディアには酷く寂しい事の様に感じられた。


「私は一人ぼっちは嫌です……あなたもそうでは無いですか?」

「それは……」

「魔女とか人とか力の有る無しじゃなくて、皆で仲良く笑って暮らしましょうよ……ね、オルディアさん?」

「……」


 黙り込み横を向いたオルディアに苦笑して、フィアは集まった人達に視線を戻した。

 その段になってフィアはそれ以上言いたい事無い事に気付く。


「……えっと…………それじゃ、取り敢えず解散で……」

「なんだか締まらないなぁ……」

「うぅ、すいません……お城のお掃除を皆頑張ってくれた事に、一言お礼を言いたかっただけなので……」

「君ねぇ……まぁいいや、それじゃあ皆解散。持ち場にもどって」


 呆れた様子のカラが手を鳴らしてそう言うと、集まった人達は苦笑を浮かべそれぞれの持ち場に散っていった。

 残ったのはカラとフィアの他、伊蔵、アガン、ベラーナ、そして緑の肌に小さな角を持つ魔女だけだった。

 その魔女にカラが声を掛ける。


「それじゃあ、イーゴ、おチビさんに魔法の定着について説明してあげて」

「わかりました、カラ様……こっちだ、ついて来い」


 イーゴと呼ばれた魔女の後に続くフィアと伊蔵にアガンが声を掛ける。

 彼は城に戻った事でシーツの腰布から解放され、現在は胸をはだけた茶色の皮のジャケットとパンツというスタイルに変わっていた。

 ベラーナも以前着ていた露出の多い服に着替えている。


「伊蔵、俺とベラーナは街で防具を見繕ってくるぜ。ついでにお前の鎧も取って来てやるよ」

「さようか。ではよろしく頼む」


 伊蔵の穴の開いた鎧の他、長旅でくたびれてきていた籠手や脛当は、城を片付ける間に城下の防具屋に修繕を頼んでいた。

 伊蔵としては数の少なくなった爆裂を補充したかったのだが、苦無は作れても魔法で事足りるルマーダでは火薬の扱いに慣れた物はおらず手配は叶わなかった。

 一応、研究はしてみるとの事だったので、気長に待つしかなさそうだ。


「二人とも余計な物を買ってきちゃ駄目ですよ」

「分かってるよぉ……」


 そう答えたベラーナの心を感じ取ったフィアは、疑わし気に彼女に尋ねる。


「……ホントに分かってます?」

「分かったって言ってるだろ!」

「もう……アガンさん、ベラーナさんが余計な買い物をしないように見張ってくださいね」

「おう、任せろ」


 コッソリ何か買うつもりのベラーナにため息を吐いて、フィアは伊蔵と二人、イーゴの後に続き整理の行き届いた書庫へと向かった。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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