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領主の城へ

 ベラーナとジルバの戦いと賭け、そして伊蔵(いぞう)とジルバの一騎打ちが終わった後、一行はカラの城へ向かう事にした。


 伊蔵とモリスは以前と同じくベラーナが受け持ち、アガンは不満を漏らしつつもジルバがその背に乗せ、カラには魔女達の首を薬の材料集めに使う籠にいれて運んでもらい、フィアは自前の翼で城まで飛ぶ予定だ。


「それじゃあ行きましょうか?」

「うむ」


 母親の墓に出立を告げたフィアが、伊蔵達に声を掛ける。

 その言葉を合図に小さな魔女とその使い魔たちは国境の森から飛び立った。


 カラの城は森を出てベドの町を更に東へ向かい、いくつか街道沿いの村や町を超えた先にあるらしい。


 その道中、空から見た町や村は伊蔵が予想していた物と違い、それ程荒れ果てた様子は見えなかった。

 魔女狩りの際は夜陰に乗じて動いていたので、陽光の下で伊蔵が集落を見たのはこれが初めてだったのだ。


 その事を不思議に思っていると、それに気付いたベラーナが伊蔵に声を掛けた。


「どした、伊蔵? なんか気になる事でもあんのか?」

「うむ、乱暴な魔女達が支配しているにしては、余り荒れておらぬと思うてな」

「カラは面倒事を起こすなって言ってたからよぉ……それにイラついてキレるのはアガンの馬鹿ぐらいなもんさ」


「聞こえてるぞ!! 誰が馬鹿だ!! 俺はカラに命令されてはぐれを狩ってただけだ!! ……そりゃ、隠し立てする奴の家を焼いた事はあったけどよぉ……」


 アガンはその時の事を思い出したのかバツが悪そうに顔を顰めた。


「ちなみに命令を直接出してたのはモリスだぜ」

「私は王宮からの命令を伝えただけですよ……」


 ベラーナに抱えられたモリスは何か吹っ切れたのか、これまでの様な堅苦しさが消えていた。


 そんな彼の話を聞いて、伊蔵には一連の流れが何となく想像できた。

 怠惰なカラの事だ、恐らく王宮からの命令をモリスに丸投げしたのだろう。


 そんな事を話していると、話を聞きつけたカラが会話に参加してきた。


「僕も混ぜてよ。王宮の命令が何だって?」

「お主、全てモリスにやらせていたじゃろう?」

「アハハッ、よく分かるねぇ。一応、仕事はしてる風にしとかないとうるさいんだよ、あいつ等」

「はぁ……この人は一時が万事この調子ですので、目を付けられない様にするのは大変でしたよ、まったく……」


 モリスは大きなため息を一つ吐いて、小さくぼやく。


「ケケッ、ようやく本音が出たなぁ、モリス。俺はずっとお前は腹ん中に何か抱えてると思ってたぜ」

「フィア様と話してから、何だかどうでもよくなりました」

「へっ、そうかよ……まぁ、ビクついてるよりゃ、そっちの方がずっといいぜ」

「どうでもよくなったついでに、これからもよろしく頼むよ」


 笑みを浮かべたカラにモリスは引きつった笑いを返していた。


 とにかく、カラがなにかにつけてやる気が無かった事で、大規模なはぐれ狩りや圧政などはこの地方では行われていなかったようだ。

 フィア達がバーダに狩られそうになったのは、本当に偶然だったようだ。

 その偶然で彼女は母親を失ったのだから不運だったという他無い。


「ところでモリス、王宮ははぐれ魔女を狩ってどうするつもりだったのじゃ?」

「さて、私にも詳しい事は分かりません。バーダ様は前線に送るのだろうと予想されていたようですが……」

「さようか……」


 東にいるという白き魔女。

 その魔女とカラ達を含めた黒き魔女は長い間、この国の支配権を求め争っている。

 伊蔵にはその戦いがどんな物なのか、前線がどんな状態なのか見当もつかなかった。


 ただ、カラは小さな町一つぐらいなら、簡単に壊せそうな力を示してみせた。

 あんな力を持つ者達が何十、何百といるのなら前線はさながら地獄絵図の様になっているのではないだろうか……。


 そんな伊蔵の心を感じたのだろう。

 フィアが妙に明るく伊蔵に声を掛ける。


「伊蔵さん、お城が見えてきました!! 私お城なんて初めてです!! なんだかワクワクしますね!!」

「そうじゃな。儂も異国の城は初めてじゃ」


 伊蔵も旅の途中、異国の城は何度も見かけた。

 しかし、当然ながら中に入った事は一度も無い。


 伊蔵が視線を東に向けるとフィアの言葉通り、ベドの町の数倍はありそうな城下町とその中心に城が見えた。


 不思議な様式の城だった。街にも城にも低い城壁があるだけだ。

 その城壁も特に戦争用に作られた様子は無く、弓矢を射る為の銃眼などは設けられていない。


「守りにくそうな城じゃのう……あの様な作りであるなら、やはり最初から頭を狙うのじゃったな」

「……君、なにか物騒な事を言ってない?」

「物騒も何も、大将首を狙うのは戦の基本じゃろうが? 特にあの様に城壁も低く忍び込みやすそうな城ならなおさらじゃ」

「はぁ……やっぱり国が違うと戦いも様変わりするんだね」


 カラは伊蔵の言葉に呆れを含んだ声を返した。


「ぬっ? どういう意味じゃ?」


「あのねぇ、この国の領主は基本、僕クラスの魔女だよ。暗殺なんてまずされないし、空を飛べる相手に城壁なんか無意味でしょ? 壁は人の出入りを管理する為だけにあるのさ。大体、石の壁なんか作っても魔法で一発だしね」


 カラの答えに伊蔵はなるほどと手を打った。

 確かに言われてみればその通りだ。


「ふむ、しかしアガンは五千の兵がおると言うておったが……?」

「僕等だけじゃ手が回らないからねぇ。人間相手の仕事……盗賊退治や犯罪者の捕縛なんかは兵士にやらせてるのさ」

「そうそう、俺らは兵士達が手に負えない連中が出て来た時だけ出張るのさ。お前みてぇなな」


「伊蔵さん、そんな話は止めましょうよ! お城ですよ、お城! 舞踏会とか綺麗なドレスを着たお姫様とかそういう話をしましょうよ!」

「ぬぅ……姫様と言われてものう……」


 伊蔵にとって城とは戦の為の砦の意味しかなかったが、フィアにとっては夢物語の舞台であるようだ。

 何とか話をしようとするも、足立家にも姫君はいたが後継者である若君たちとは違い伊蔵とはほぼ接点が無かった。

 そもそも異国の服の話等、伊蔵に出来る筈も無い。


 押し黙った伊蔵に代わり、カラがフィアに話しかける。


「あー……おチビさん、悪いんだけど君の期待している様な煌びやかな物は僕の城には無いかな」

「えっ? そうなんですか?」

「うん……ごめんね。ほら僕、全部面倒な人だからさ。結婚にも興味ないし、ご飯と寝る場所さえあればいいタイプだから……」

「そうなんですか……お姫様、いないんですか……」


 先程迄、キラキラと輝いていたフィアの瞳はカラの言葉で暗く沈んだ。


「そんなに落ち込むなよ嬢ちゃん。お姫様がいねぇならお前がなりゃいい。服なら俺のやつを仕立て直してやるからよぉ」

「えー、ベラーナさんの服ですかぁ?」


 フィアは以前、伊蔵と戦った時、ベラーナが着ていた服を思い起こしげんなりした顔を見せた。

 彼女が着ていたのは露出の多い丈の短い服だった。

 恐らく仕立て直すと言っているのも似た様な物だろう。


「なんだよ? 俺のセンスが気に食わねぇのかよ?」

「当然よ、あんな破廉恥な服、着てる方がどうかしてるわ」

「なんだとジルバ!?」

「安心なさい。貴女には私が我が主に相応しい服を用意してあげるから」

「てめぇ話は終わってねぇぞ!!」


 猛禽の魔女、ジルバは憤るベラーナを無視してフィアの横を飛びながら、彼女の頭からつま先までを観察しうんうんと頷いている。


「お城に着いたら、そんなみすぼらしいローブじゃ無く、もっと煌びやかなドレスを新調しましょう」

「あっ、ヤベ……」


「みすぼらしい……? お母さんの作ってくれたローブがみすぼらしいですか?」


 フィアに対して家族に関係する事はタブーの様だ。


「いっ、いえ、そのローブも素敵だけれど他の服も似合うかなぁ……なぁんて」


 ジルバは据わった目で睨まれ慌ててその場を取り繕った。


「そうですか……他の服かぁ……」


 機嫌を直したらしいフィアにホッと胸を撫でおろし、ジルバは伊蔵達から少し距離を取った。


「なんなのあの子……この服の時といい、時々妙に迫力があるんだけど……」


 ジルバはフィアに手渡された赤いワンピースの襟を摘みながら呟く。


「あいつ、もしかしたら王族かもだしなぁ……」

「王族!? 何それ!? 私聞いて無いわよ!?」

「今、初めて言ったからなぁ。そういう訳だからよ。フィアには逆らうなよ、なっジルバ」


 ニヤッと笑ったアガンをよそに、ジルバは「王族……えっホントに?」とフィアの方をチラチラと窺っている。

 その様子に苦笑するアガンを乗せたジルバを含めた一行は、城下町の上を飛びカラの居城へと向かった。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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