力は守る為に
カラを使い魔にしたフィアは、続けて庭に並べていた七人の魔女達も同様に使い魔にした。
上位者のカラが使い魔になった事が影響したのか、それ程の反発を受ける事なく魔女達は使い魔となる事を同意した。
以前、首を狩った魔女達は伊蔵の脅迫で無理矢理、使い魔にしたのでその時に比べればかなり平和的と言えるだろう。
その魔女達には家の外で待機してもらっている。
現在はフィア、伊蔵、アガン、カラの四人で今後について話している所だ。
「これなら他の人を起こしても従ってくれそうですね」
「そうかもしれぬが、あやつらを目覚めさせてどうするのじゃ?」
「働いてもらうんですよ。今度は搾取では無く、皆を守る為に」
「ふむ、戦士として民を守らせるのじゃな」
「好き勝手してきたあいつ等がそんな事するかねぇ」
アガンの言葉にフィアは思わず苦笑する。
かつてベドの町で道具屋を焼いた彼が、この前は人を助ける為、動いていた。
最初に会った時とは確実に変わっている事をアガンは気付いていないようだ。
「そこはカラさんに目を光らせてもらいます」
「ふぅ……僕に本当に領主の仕事をさせるつもりなんだね?」
「ええ、力を持った者は虐げる為では無く、守る為にその力を行使すべきです」
「守る為ねぇ……分かったよ、前よりは多少面倒臭さも感じなくなったし、やらせて貰いますよ主殿」
「フフッ、お願いしますね」
冗談めかして言うカラにフィアは笑みを返した。
使い魔の契約は本能的な衝動を抑え込む効果がある。
カラの場合は動きたくないという欲求を緩和したようだ。
「では、取り敢えずベラーナさんが戻ったら、カラさんの城へ皆で向かうという事でいいですか?」
「だな。城に戻りゃあ俺の服もあるしな」
「そうですね。私も腰布だけでウロウロされるのは気になっていたので」
「好きでこうしている訳じゃねぇよ!」
その後、眠らせていた魔女達を起こし、協力する事を約束させると伊蔵達はベラーナの帰りを待つ事にした。
余談ではあるが魔女達には体の再生は待って貰う事にした。
理由は単純にフィアの家に服が無かったからだ。
二十人近い魔女に裸でうろつかれるのは流石に見苦しい物がある。
フィアはその情景を想像し、昔、歴史書で読んだ魔女の宴を思い浮かべてしまった。
ちなみに魔女の宴とは初代国王のレゾが殺された後、行われる様になった悪魔と契りを交わす為の大規模な生贄の儀式の事だ。
民を生贄とし悪魔を呼出し、選ばれた貴族が彼らとまぐわい魔女となる。
血と狂乱に満ちたかなり退廃的な物だったらしい。
「それはそれとして、伊蔵さんの鎧も修理しないとですね」
フィアは思考を切り替え、部屋の隅に置かれた伊蔵の皮鎧に目をやった。
鎧にはバーダが開けた穴の他、左胸にカラの開けた大穴が開いている。
彼の服もバーダが開けた穴はフィアが布を当てていたが、左胸は破れたままだ。
「そうじゃのう……じゃがなぁ……」
伊蔵は鎧を直すつもりではあったが、人を超えた力を持つ魔女に意味があるのだろうかと改めて穴の開いた鎧を見て考えてしまった。
彼の鎧は皮の胴鎧の他、籠手に脛当といった軽装の物だ。
鎧も籠手も苦無を仕込める様になっているので、攻撃面では有用だが防御に使えるとは考えにくい。
一番装甲の厚い胴鎧を一撃で抜かれるのだから鎧の意味は薄い様に思える。
「何悩んでるの?」
「……お主のような魔女相手に鎧が意味をなすのかと思うてな」
「フーン、どれどれ」
カラは伊蔵の鎧に歩み寄るとしゃがみ込み、コンコンと鎧を拳で叩いた。
「膠か何かで皮を固めた、いわゆるハードレザーアーマーだね。確かにこんな物じゃ魔女の魔法は防げそうにないね」
「やはりか」
「このままじゃね」
「このままじゃあ? ……何か方法があんのかよ?」
アガンの問い掛けに、カラは振り返りフィアに笑みを向けた。
「……なんですか?」
「君さぁ、僕と戦った時、障壁を使ってたよねぇ? 確かあれはロビスの技だったかな?」
「確かに使いました……あの時は怖かったです」
「あの魔法を鎧に定着させればいい」
「魔法の定着……? そんな事出来るんですか!?」
「うろ覚えだけど、暇つぶしに読んだ本にそんな事が書いてあった気がする。途中で面倒になって読むのは止めたけど、城の何処かにある筈だよ」
カラの答えにフィアだけでなく、アガンや伊蔵も呆れたような視線を向けた。
「……なんだいその目は?」
「お前よぉ……」
「その様な技術があるなら何故、兵達の物に流用せぬ?」
「だって面倒じゃないか」
「こいつは……」
アガンが右手を顔に当て首を振った時、バサバサと羽音が響き何やら言い争う声が聞こえてきた。
「ベラーナさん、戻って来たみたいですね」
「帰ったそうそう騒がしい奴じゃ。どれ」
伊蔵は台所の椅子から腰を上げると、騒ぎの元凶がいる庭へと歩みを進めた。
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