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望みの為の力

 テーブルの上には皿の上に青白い石が一つ置かれている。

 それを眺めながら、フィアは周囲の男達を見回した。

 三人とも期待に満ちた目でフィアが石を口にするのを待っている。


「あの……どうしても食べなくちゃ駄目ですか?」

「俺には喰えなかったしな」

「別に僕はどっちでもいいけど、どうなるかは見たいなぁ」

「儂もフィア殿が嫌なら無理強いはせぬ……じゃがお主の望みを叶えるのであれば、力はあった方がよいじゃろうな」


 望み……。

 自分の望みは悲しい事がこの国から少しでも無くなる事だ。

 その為なら魔女の血を飲んで強くなろうと決めた。


 でもでも、胃液に塗れた結石を飲むのは正直抵抗が……。


「ふぅ……でも自分で言い出した事ですもんね……食べてみます……アガンさん、そこのバケツを取ってもらえますか?」

「おう、これだな?」


 フィアはアガンが持って来た掃除用のバケツを戻した時の保険に抱えると、皿の上に置かれた石に手を伸ばした。


「うぅ……」

「そうじゃ!!」

「ひぅ!? 何ですか伊蔵(いぞう)さん、急に大きな声を出さないで下さいよ!!」


「あい、すまぬ。いや、飲みにくいというのなら、カラの血で流し込めばよいと思うての」

「血で……」

「うむ、フィア殿は魔女の血は美味いと感じるのじゃろう? なら石が不味くても血が美味ければ誤魔化せるのでは無いか?」


 伊蔵は名案を思い付いたとばかりに深く頷いている。


「カラさんの血が美味しいかどうか分かりませんよ?」

「君、結晶の時といい、僕の事、何だと思っているんだい?」

「何って、ぐうたらで迷惑な人だなぁって……でもそうですね。美味しくない薬も水で流し込めば飲めますもんね」


 フィアは母と行っていた薬作りを思い出し、伊蔵の提案を受け入れる事にした。


「うむ、ではカラ、血を寄越せ」


 伊蔵は食器棚から木のコップを取り出すと、テーブルの上のカラの首の前に置いた。


「はぁ……こんな扱いを受けたのは生まれて初めてだよ」

「なんじゃ? 文句でもあるのか?」

「いや、文句って言うかさぁ……ふぅ……もういいよ」


 カラは風を使いコップの上に移動すると、自らの術を使い首の断面を刻みコップに血を注いだ。

 鮮血が小さなコップに満ちる。


「さぁフィア殿」


 伊蔵がそれをフィアの前に置かれた皿の横に並べる。

 お膳立てが整い、フィアはもう後には引けなくなった事を感じていた。


「うぅ……じゃあ、いきます」

「うむ」


 右手にカラの結晶、左手にコップを持つとフィアは結晶を口に放り込み、コップに満たされた血で一気に流し込んだ。

 ゴクゴクと喉を鳴らし血ごと結晶を胃に落とし込む。


「プハー……なんだかシュワシュワして苦い……のど越しはいいですけど、これならアガンさんの方がよっぽど美味しいです」

「クッ……最後まで失礼な人だな君は」

「して、どのような感じじゃ? アガンの様に気分は悪くないか?」

「そうですね、今の所は……あっ……ああっ!?」

「おおっ、こりゃあ……」


 声を上げたフィアの角が眩く輝き、団栗程の大きさだったそれが一.五倍程度に伸びた。

 やがて輝きは治まると、フィアはコップをテーブルにおいて角に手を伸ばす。


「なんだか痛痒いです……あっ、ちょっと大きくなってる!?」

「へぇ……なるほどねぇ」

「カラ、何がなるほどなのじゃ?」


「いやね。僕は王子達に会った事があるんだけど、彼らの角は僕程じゃないけど結構長かったからさ」

「それだけ結晶を口にしたって事か?」

「多分そうじゃない? ……うん、確かにさっきより流れてくる力が上がってるよ」


 カラはそう口にするとテーブルから離れ、体を再生し始めた。


「なッ、カラ、勝手な事をするでない!」

「いいだろ、血だってあげたんだし」


 話している間にも首から下に骨が生まれ筋肉がその表面を覆っていく。

 それと同期してフィアの角が輝きを放ち、その輝きが消える頃には青白い肌の裸の青年が台所に出現していた。


「ふぅ……やっぱり体があると落ち着くね」

「フィア殿、気分は悪くないか?」

「それは大丈夫みたいなんですけど……」


 フィアはチラリとカラに視線を送る。


「けど? 何だよ。やっぱり俺と一緒で胃にもたれんのか?」

「フフッ、やっぱり僕クラスになると力が大きすぎておチビさんにはきつかったかな?」


 笑みを浮かべたカラの言葉を無視して、フィアは椅子を下りると伊蔵の部屋に足を運んだ。

 伊蔵は以前も同様な場面を見たなと苦笑を浮かべる。


「彼女は何をしてるんだい?」

「まぁすぐ分かるさ」


 アガンもフィアが何をしているか察しがついたようだ。

 程なく服を抱えたフィアが台所へと戻ってくる。


「カラさん、これを着て下さい」

「服だね、どれどれ……こんなカッコ悪い服を僕に着ろっていうの?」

「お父さんの服が気に入りませんか?」

「だって……分かったよ。着るよ、着ればいいんでしょ」


 据わった目で睨むフィアに、カラは押し切られる形で服を受け取った。

 麻の上下に濃いえんじ色のベスト、足元は茶色の皮靴。

 青白い肌と額から伸びた角が無ければ、その姿は町人と大差なかった。

 ただサイズは少し大きいが、丈は短く微妙に情けない。


「ガハハッ、よく似合ってるぜカラ!」

「うるさいよ!! 腰布だけの君にそんな事言われる筋合いは無いよ!!」


「うーん、服を調達した方が良さそうですね。アガンさんにもずっと裸でいられるのも落ち着きませんし」

「そうじゃな……儂の鎧も直したいしのう……」

「じゃあさ、僕の城へ行こうよ。あそこならこんな格好悪い……いや、素朴な服以外もあるしさ、鎧も直せるよ」


 フィアの刺す様な視線を感じたカラは慌てて言い直した。


「ねぇねぇ、伊蔵。この子ってたまに凄く怖いんだけど?」

「我らの主じゃ、そのぐらいで無いと困る」

「はぁ……そう……」


 耳打ちしたカラは、伊蔵の満足そうな微笑みを見て諦めた様にため息を吐いた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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