力の源
一話、二話でのルマーダの位置関係を修正しました。
伊蔵は西の国から海を超えて東へと旅をしてきたという設定です。
頭の中で地図を描くだけでは駄目ですね。
読まれた方にはご迷惑をお掛けしました。
東の西から西の東へ……ドラクエを思い出しました。
伊蔵は刀を収め、角を持ち掲げたカラの首を満足そうに眺める。
意識を失ったカラの顔を見ながら、理屈は分からないが能力の上がった体に伊蔵は喜びを感じていた。
この肉体があれば早晩、戦争を引き起こしているルマーダの魔女を全員排除する事も難しくないと思われたからだ。
フィアの望みを叶え、魔力の結晶を手に入れる。
炎や雷の様な魔法はまだ得ていないが、今の力があれば怨敵加納を打ち滅ぼし、奪われた民を救いだして足立を再興する事も出来るだろう。
そんな未来を思い、思わず笑いが漏れる。
「あの、伊蔵さん。お喜びの所、大変言い難いのですが……恐らくその力はごく短い時間しか使えません」
喜ぶ伊蔵をフィアが申し訳なさそうに見上げる。
「ん? フィア殿、どういう事じゃ?」
「私、今も魔力がずっと伊蔵さんに流れていて、多分このままだと……あう……」
説明の途中でフィアは白目を剥いて倒れた。
「フィア殿!?」
駆け寄ろうとした伊蔵は自分の体が酷く重たく感じられた。
気付けば先程感じていた万能感は嘘の様に消えている。
それでも何とかフィアを抱き止め、伊蔵はホッと息を吐く。
「ふぅ……しかし、どういう事じゃ? 何故急に体が……」
首を捻る伊蔵が抱いたフィアを、歩み寄ったベラーナがのぞき込む。
「あー。こりゃ、魔力切れだな」
「魔力切れじゃと?」
「ああ、考えてもみろよ。カラはぐうたらだが一応領主クラスの魔女だぜ。そんな奴を圧倒する力がただで手に入る訳ねぇだろ」
「だな。お前のあの力は多分、フィアの魔力あっての物だ。分かりやすく言うと、お前はかまどでフィアは薪小屋って感じか」
アガンがベラーナの言葉を引き継ぎ頷く。
かまどと薪小屋。
自分が強烈に炎を上げる為、フィアは体に貯めていた薪、つまり魔力を燃やし尽くしたという事だろうか……。
魔女達の言葉を聞いて、伊蔵は腕の中で眠るフィアの顔を見下ろした。
その顔は心なしか青ざめて見える。
「儂に魔力を……フィア殿は大丈夫なのか?」
「どれどれ……」
ベラーナが手を伸ばし、フィアの額に触れる。
その後、頬に触れ、目蓋を開き瞳を覗き込んだ。
「多分、大丈夫じゃねぇの? 熱は出てねぇし、しばらく寝れば治ると思うぜ」
「……お主、いい加減な事を言っているのではなかろうな?」
「しょうがねぇだろ。使い魔に魔力送りすぎてぶっ倒れた魔女なんて見た事ねぇんだから」
「魔力が足りねぇなら、お前が持ってるカラの首から血を抜きゃいいんじゃねぇか?」
「こやつから……そうじゃ! ベラーナ、フィア殿を頼む。アガン、お主はこの首を」
伊蔵はベラーナにフィアを渡し、角を持ちぶら下げていたカラの首をアガンに放り投げた。
ベラーナはフィアを胸に抱き、アガンは投げられた首を慌てた様子で受け止める。
「おい伊蔵、何を……」
伊蔵はしゃがみ込むと、足元に崩れ落ちていたカラの腹に苦無を突き立てた。
腹を割き中をまさぐる。
「アガン、結晶は何処にあるのじゃ?」
「なるほどな……あるとしたら心臓の近くだ。見た目は宝石に似てるらしいからすぐ分かる筈だぜ」
「心臓じゃな」
伊蔵はカラの腹から手を抜き立ち上がると、収めた刀に手を添えた。
「フッ!」
気合と共に逆袈裟に刀を振るう。
見ればカラの胸骨は内部を傷付ける事無くぱっくりと開いていた。
「なぁ、伊蔵。前から気になってたんだが、その剣なんなんだよ? 切れすぎだろ?」
「フッ……これは儂が殿から授かった国一番の業物よ」
そう言うと伊蔵は問いかけたベラーナに手にした刀を自慢げに掲げてみせた。
刀身には刃こぼれ一つ無く、カラを斬った筈なのに曇り一つ見えない。
ベラーナにはその刃はまるで生きている様に感じられた。
「……なんか気味悪ぃな」
「何じゃと!? この刀は足立家に代々受け継がれた由緒正しい一振りじゃぞ!! その昔、龍神が佐野川の清流で鍛えたとされるそれはそれは有難い……」
「伊蔵、取り敢えず結晶を見つけて、あっても無くてもさっさとずらかろうぜ」
「ぬぅ……」
刀についての講釈を遮られた伊蔵は多少不満そうではあったが、刀を収め再度カラの体を調べ始めた。
程なく小指の爪程の青白い透明な石を見つけ出す。
「これか?」
アガンに見つけた石を差し出すと彼は苦笑を返した。
「多分そうだと思うが、分からん。なんせ見たのは初めてだからな」
「さようか……してコレをどうすればよい?」
「フィアなら喰えば力に出来ると思うが……取り敢えず帰ろうぜ……そうだ、モリス!」
「はっ、はい!? ……私は一体……」
目を開けたまま意識を失っていたらしいモリスは、何度か目をしばたたかせると周囲を見回した。
「ひぃ!?」
腹を割かれたカラと両手を血塗れにした伊蔵に気付き、彼は悲鳴を上げた。
「モリス、俺達はこれから一旦アジトに引き上げる。お前はベラーナと一緒に住民達に今後の事を説明しろ」
「俺が残んのかよ?」
「魔女が一人ぐらいついてねぇと、コイツ住民達に殺されるかもしれねぇだろ?」
「チッ、しょうがねぇなぁ……」
ベラーナは嘆息しつつ頭を掻きモリスに目を向ける。
「あの……アガン様、今後の事と言われましても……」
「この通り、カラはやった」
「カッ、カラ様の首!?」
「それでだ。住民に押しかけられても面倒なんで、取り敢えず面倒事を避ける為に住民達に金を配るとでも言っとけ。お前が城に戻って命令すりゃ出来なかねぇだろ?」
「なっ、何故私が!?」
「そりゃ、お前が優秀だからさ。出来るよなぁモリス?」
アガンはまだゴツゴツとした甲殻を纏ったままだ。
そんな異形の巨人に凄まれて嫌と言える者は余りいないだろう。
モリスもその例に漏れず、壊れた人形の様にガクガクと首を縦に振った。
「モリス、無理を申すがよろしく頼む……しばらくフィア殿を静かな場所で休ませたいのじゃ」
伊蔵はベラーナからフィアを受け取りつつ、モリスに向かって頭を下げた。
命令といえば威圧とセットだったモリスは伊蔵の行いにほんの少し胸を打たれた。
「……分かりました。お引き受けいたしましょう」
「かたじけない」
「ケケケッ、まぁどうしようも無くなったら抱えて逃げてやるからよぉ」
肩を叩いて笑う赤い肌の魔女を見て、モリスは引きつった愛想笑いを浮かべた。
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