表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/151

想いは魔力となって

 フィアには自分の側にあったモノが唐突に離れて行くのが感じられた。

 冷たい刃の様な、それでいて熱く何処か暖かい何かが。


「駄目……駄目!! まだ行かせない!!! ベラーナさん、アガンさん、あの人を、カラさんを足止めして下さい!!」

「足止め!? この状態で何の意味が!?」

「フィア……そいつは無理ってもんだぜ……」


 ベラーナは戸惑いを含んだ声で、アガンは受けた傷の痛みにこらえながら、それぞれが答えを返す。


『いいから伊蔵(いぞう)さんからカラさんを遠ざけて下さい!!』

「グッ、フィアてめぇ!?」

「嬢ちゃん、この貸しは高くつくぜ!!」


 フィアが発した言葉は魔女達の意思とは関係無くその身を戦いへと赴かせる。


「まだ足掻くのかい? 止めようよお互い無駄な事はさぁ」

「うるせぇ!! 俺達だってやりたくてやってんじゃねぇんだよ!!」

「素直にくたばってねぇテメェが悪いんだ!!」


 アガンとベラーナはカラに罵声を浴びせながら、連携しつつ襲い掛かる。

 ベラーナは翼を広げ舞い上がると、音の波をカラに浴びせた。

 伊蔵に使った時より力を増したそれは、指向性を増しカラの脳を揺さぶる。


「クッ……やっぱり力が上がってる?」


 ふらついたカラに、アガンが傷ついた体を再生させながら拳を叩き込む。

 カラはそれを寸でで躱し、風を使ってアガンから距離を取った。


「フィア、カラは取り敢えず引き離したぞ!!」

「そのまま時間を稼いで下さい! 試したい事があります!」

「チッ……長くはもたねぇぞ!」

「アガン!? マジでやるのか!?」

「どの道、俺じゃカラから逃げ切るのは無理そうだしな」


 アガンの言葉でベラーナの脳裏にある考えが浮かぶ。


 力は増したとはいえ、敵は強大だ。

 二人掛かりでも倒せるとは思えない。

 カラが伊蔵から離れた事でフィアの先程の命令は履行された事になっている。


 ……逃げるか?


 全力で逃げれば怠惰なカラが追って来る事は無いかもしれない。

 それにフィアが死ねば使い魔の契約も解けるだろう。

 カラも含めた上を排除する計画は魅力的だったが、伊蔵が殺された今、その計画も陰りが見える。


 せめてもう少し力があれば……。


 そんなベラーナの心を感じ取ったのか、伊蔵に駆け寄りながらフィアが叫ぶ。


「伊蔵さんはまだ死んでいません!! 私が死なせません!!」

「何言ってんだ!? 現に首を落とされて……そうか使い魔!!」


 ベラーナの言葉には答えず、フィアは伊蔵の体の側にしゃがみ込むと彼が腰にぶら下げていた魔女の首の一つに噛みついた。


「まさか……そいつら喰って力を……」

「へっ、最初はあんなに血を飲むのを嫌がってたのによぉ……ベラーナ腹くくれ。なりゆきとはいえお前もフィアに賭けたんだろうが?」

「……わーったよ。お前をけしかけたのは俺だしな。嬢ちゃん、急げよ!!」

「分かってます!!」


 魔女の血で口の周りを汚したフィアにベラーナは苦笑を浮かべ、様子を窺っていたカラに視線を向けた。


「使い魔って聞こえたけど? ……そうか、君達、あのはぐれ魔女の使い魔になったのか。それで力が増していたんだね?」

「まあな。目障りな上の連中、まずはお前をぶちのめしてやろうと思ってたんだが……」


 アガンが拳を構えつつカラに答える。


「僕を倒すにはあのおチビさんじゃ役不足だったって訳かい?」

「嬢ちゃんはいずれお前を超えるさ。アイツは悪魔喰いの血筋だしなぁ」

「悪魔喰い!?」


 カラは珍しく驚きを表に出した。


「……そうか、それは益々生かしてはおけないね」

「ケッ、そう簡単にやらせるかよ!!」


 ベラーナはその叫びに乗せて再度、音の波をカラに浴びせた。



 ■◇■◇■◇■



 一連の様子を逃げ遅れたモリスは顔を青くしながら見ていた。

 血を飲むと聞いた時はかなり引いたが、実際に見たそれは元は人だった者の所業とは思えなかった。

 それを幼い少女が行っている。


「やっぱり魔女は狂ってる……」


 モリスがそのおぞましさに身震いする中、フィアは伊蔵の腰にぶら下がっていた首の血を歯を立て次々に啜った。

 首は幸いな事に伊蔵が昏倒させていた為、誰も意識を取り戻す様子は無い。


 伊蔵の魂はフィアの魔力によって辛うじて繋ぎ止められている。

 それは彼女の心に流れ込む苦痛が証明していた。


 伊蔵さん、いかないで……。


 フィアはその事だけを考えながら必死で血を飲み込んだ。

 全ての首から血を啜り、嚥下するとフィアは転がっていた伊蔵の首を拾い体の側に置いた。

 だが、辛うじて頭は命を繋いでいるものの、体は活動を止めていた。


「そんな……伊蔵さん……いぞうさぁん……嫌だぁ……死なないで、お願い……」


 短い、本当に短い時間ではあったが、母を失い一人になったフィアにとって伊蔵の存在はかけがえのないものになっていた。

 そんなフィアの伊蔵への想いは魔力となって死にかけていた彼へと流れ込む。


 流れ込み溢れた魔力は苦しみ藻掻く伊蔵の心に従い、彼の肉体をより強靭に人を超えた何かへと再構成し始めた。


「あ…ああ……そうです!! 頑張って伊蔵さん!!」



 ■◇■◇■◇■



 そのほんの少し前、ベラーナとアガンは格上のカラを相手に足掻いていた。


「数人喰った所で焼け石に水さ」

「よそ見してんじゃねぇよ!!」


 カラがフィアに気を取られた隙を突きベラーナは爪を繰り出す。

 だがそれを事も無く躱し、カラは返す刀で衝撃を浴びせた。


「ガッ!!」


 衝撃はベラーナを吹き飛ばし、彼女が突っ込んだ建物を倒壊させる。


「ベラーナ!? クソッ、地力が違うってか!?」


 歯軋りしたアガンは両手に出現させた炎をカラに浴びせかけた。

 しかし巻き上がった風が炎を掻き消し、アガンの体を覆う甲殻に無数の傷を刻む。


「グォオオオ!!」

「そう、君の言う通り地力が違う。だからさぁ、もう諦めなよ」

「グウゥゥ……」


 カラの起こした風はアガンの甲殻のみならず、再生させた肉体も深く傷つけていた。


 手にした力でクソッ垂れな現実を変える事を望んできたが、どうやらここで終わりのようだ。

 畜生、どこまで行っても持って生まれた運命って奴は覆せねぇのかよ!


 膝を突き握りしめた拳の先、近づいてくるカラが視界に映る。

 アガンが諦めかけたその時、眩い光が夜の町を明るく照らし出した。

 振り返って見た視線の先に黒い人影が見える。


「おせぇよ……」


 呟いたアガンの横を黒い影が疾風の様に駆け抜けた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ