嵐の中心へ
カラを核とした暴風は彼の周囲十メートル程に凝縮され解き放たれる時を待っていた。
伊蔵達の接近を見て取ったカラは、彼らの行動に嘲笑を浮かべる。
「さっさと逃げればいいのに……馬鹿な連中だよ、まったく」
呟きと共にカラは交差していた腕を勢いよく広げ、渦巻く風の暴力に自由を与えた。
風はカラを中心に巨大な渦、竜巻を形成する。
大地と天を繋ぐ風の塔は真下の町から家を巻き上げつつ、その範囲を広げ始めた。
「うぉ、凄ぇ……どうする伊蔵!? 巻き込まれたら俺達もただじゃすまねぇぜ!!」
「逃げる訳にはゆかぬ……ベラーナ、風に乗って天へ向かえ!」
「あの竜巻の風にか!? 登ってどうすんだよ!?」
「いいからやるのじゃ!!」
「チッ、わーったよ!!」
ベラーナは殆どヤケクソで竜巻が生む暴風に突っ込んだ。
絡め取られる様に、魔女と異国人は一瞬で上空へと消える。
「ホントに馬鹿だったか……さてと、あとはあのおチビさんを消すだけだね」
カラの意思に従い巨大な竜巻は町に逃げ込んだフィアの下へと動き始めた。
■◇■◇■◇■
町に向かったフィアは無事アガンと合流していた。
モリスの言葉巧みな説得で住民達は助かったほぼ全員が町の一画、西側の広場に集合していた。
町と言っても辺境の小さな集落だ。
住民全員合わせても人口は五百に満たない。
その集まった人々は絶望的な思いで町を破壊する竜巻を見上げていた。
「あぁ、俺の家が……」
「今は家なんてどうでもいいだろ!? 命が助かっただけめっけもんだぜ!!」
「お前は自分の家が無事だからそんな事が言えるんだ!!」
「なんだと!? お前んトコは家族全員無事じゃねぇか!? 俺の家は婆さんが死んだんだぞ!!」
集まった住民のあちこちで言い争いが起き始める。
またそれとは逆にお互いの無事を確認し抱き合う様子も同様に存在していた。
「あー、皆さんなるべく広場の中心に固まって下さい!! これから雨を降らせた魔女様のお力で皆さんを守る壁を作りますので!!」
モリスは住民の注目を集めるとフィアの背を押した。
「雨を降らせた魔女?」
「元凶はその娘だ!! そやつの連れの男が魔女様にちょっかいを出したからご領主様が!!」
カラに責められていた老人がフィアを指差し声を上げる。
「本当かよ爺さん!? じゃあその娘の所為で町はこんな事になったのか!?」
「……その娘を指し出せばご領主様は我々を許して下さるんじゃないか?」
「そうだ!! 差し出せ!!」
「そうだそうだ!!」
「ひぅ……」
背を押され歩み出たフィアを見た住民達は、彼女をカラに渡せと声を上げ始めた。
「お静かに!! お静かに願います!!」
モリスは顔を引きつらせ自分の失策を悟った。
フィアは一帯に雨を降らせ、燃える町を鎮めた。
力ある魔女が守護すると聞けば混乱も治まるかと考えたのだが……。
「やかましい!!!! 助けてやるって言ってんだ!!!! 四の五の言わずさっさと集まれ!!!!」
アガンが怒号を上げると声を上げていた住民達は一斉に静まった。
「アガン様、ありがとうございます。コホンっ、では皆さん、広場の中央へなるべく詰めていただけますか!!」
モリスの言葉で住民達は逃げ込んだ広場の中心へ集まり始める。
無論、全員が納得した訳では無かったが表立ってアガンに何か言う者はいなかった。
「あの……ありがとうございます、アガンさん」
「フンッ、いいから早く障壁を張れ!」
「……はい」
鼻を鳴らし顔をそむけたアガンに少し笑って、フィアは広場を包む障壁を張る為、跪き両手を組んだ。
■◇■◇■◇■
竜巻を操っていたカラは広場に出現した巨大な魔力の壁にため息を吐いた。
半円形のそれはフィアがカラの衝撃を防いだ物と同じに見えた。
竜巻の力なら削り取れるだろうが、多少手間取る事は確かだ。
「ホントに面倒だ……どうして無駄な事に力を使うかなぁ……」
カラは右手を掲げ、壁を押し潰すべく竜巻を前進させた。
渦巻く風が建物をなぎ倒し、ガリガリとフィアの作り出した障壁を削る。
「早く諦めなよ」
ダルそうに言ったカラの前を黒い影が通り抜けた。
それと同時に刃の煌めきが彼の体を縦に走る。
「えっ……?」
思わずその影を追った視線の先を今度は赤い影がすり抜けた。
直後に右の額に伸びた角に衝撃が走る。
「なんだよ……コレ?」
見上げた先には火花を散らす黒い棒状の何かがあった。
「何これ?」
事態が飲み込めず混乱したカラの角の先で火花は棒に入り込み、爆炎と共に鋼鉄の刃を撒き散らした。
■◇■◇■◇■
伊蔵はカラを巻き込んだ爆発を眺めながら、重力に引かれ落下を続けていた。
竜巻に飛び込んだ伊蔵達は、そのまま風に乗り上空まで抜けた。
伊蔵の読みどおり最上部では竜巻の影響は消え、その中心はほぼ無風状態だった。
「やはり野分と同じじゃ。中央は空が晴れておるわ」
「これからどうすんだよ?」
「こうするのじゃ!」
声と共に伊蔵はベラーナの背から身を躍らせる。
「おまっ!?」
慌てて追うベラーナをよそに、伊蔵は遥か下に見えるカラに狙いを付け刀を抜いた。
以前聞いた話ではカラはベラーナを素手で叩きのめしたという。
速さが強みのベラーナを手玉に取るのだ。生半なスピードでは避けられるのがオチだろう。
カラが反応出来ない速さ、高高度からの落下攻撃。
それが伊蔵が出した結論だった。
策は嵌りカラは真っ二つになり、更には爆裂も命中させる事が出来た。
上々じゃ……。
自分の仕事に満足感を感じ伊蔵は自然と笑っていた。
「何笑ってんだよ?」
「いや、我ながらいい仕事をしたと思っての」
「暢気な事を……分かってんのか? お前は人間なんだ、飛べるようには出来てねぇんだぜ」
「そんな事は分かっておる。お主がおらねばこんな手は取らぬ」
「チッ……なんかムカつくぜ」
伊蔵に追いついたベラーナは笑みを浮かべる伊蔵を睨みながら、彼の体を抱え翼を広げた。
蝙蝠の翼を持った魔女は、竜巻が消えた夜空を不満そうな声とは裏腹に楽しそうに羽ばたいた。
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