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猛禽と蝙蝠

 ベラーナの背から見下ろすと、優秀だという中年男モリスは住民達に声を掛け、彼らを先導しアガンと共に瓦礫の撤去を初めていた。


「手早いな、あの男」

「ケケッ、口はよく回るんだよアイツ」

「さようか……では儂らは儂らの仕事をしようぞ。ベラーナ、お主は魔女共を叩き落せ、儂は落ちた者共の首を狩る」

「りょうか~い……しくじんなよ」

「誰に言うておる」


 そう言い残し伊蔵(いぞう)はベラーナの背から燃える町へ身を躍らせた。



 ■◇■◇■◇■



 町の中心で燃えあがる町を眺めていた一本角の魔女カラは頬に感じた水滴に空を見上げた。

 彼の周囲に人は無く、攻撃を止めてくれと懇願していた老人の姿も既に無かった。

 恐らく何を言っても反応しないカラの様子に説得を諦めたのだろう。


 ポツリポツリと落ちていた雨粒はやがて豪雨となって町を覆う。


「雨の魔法……これほど大規模な魔法を操れる魔女がこんな辺境にいたのか……」


 カラは右手を広げ降りしきる雨をその手に受けた。


「純粋で優しい力だ……でも今は優しさじゃなくて暴力が支配する時代だよ」


 そう言って薄く笑ったカラの姿は、雨を弾く疾風と共にその場から掻き消えた。



 ■◇■◇■◇■



 降り出した雨の中、伊蔵はベラーナが叩き落した魔女達を狩っていた。

 町を攻撃していたのは七人、上空ではベラーナが笑い声を上げながら暗い空を舞っている。

 フィアから流れ込む魔力が増した事で、その速さは伊蔵と戦った時とはけた違いに上がっていた。


 そのスピードに翻弄され、カラの手下の魔女達は反撃する隙も与えられず地面に落とされていく。


「畜生……何でベラーナが我々をおそ」


 立ち上がり、地面に打ち付けた首をさすりながら空を見上げたその魔女の首が、当てていた左手ごと地面に落ちる。


「何だ!?」


 落ちた首は状況が把握出来ず喚き声を上げた。


「黙れ下郎」


 底冷えする様な声と共に、緑の肌の額に小さな角の生えたその首は壁に叩きつけられ沈黙した。

 ベラーナが派手に動いているおかげで、敵の目はそちらに集中していた。

 闇に忍ぶ事を生業としてきた伊蔵には、現在の状況は自分の力を最大限に発揮出来る場だった。


 ベラーナは次々と魔女を落とし、伊蔵はそれを狩る。

 しかし、最後の一人にはいささか手を焼いているようだ。


「クッ、空にいては手が出せぬ……」


 見上げるしかない伊蔵の上で二人の魔女は凄まじい速さでぶつかり合う。


「チッ……うっとおしい女だぜ」

「ベラーナ、貴女じゃ私は倒せない。お互い持っているカードは速さよ。なら下位の貴女に勝ち目はないわ。でしょう?」


 猛禽の目と翼を持つ魔女が勝ち誇り、嘲りの混じった声をベラーナに掛ける。


「ジルバ、前々からテメェのその人を見下す態度が気に入らなかったんだよぉ」

「見下す態度? 自分より下の人間を見下すのは当然じゃない。貴女だって魔女以外を見下していたじゃない?」

「……そうだな。それは否定しねぇ……でも今は人間にも根性が座ってる奴がいるって知っちまったからよぉ……」


 ベラーナの脳裏に伊蔵と先程見たモリスの姿がよぎる。

 それはやがて彼女を救う為、生贄となった少年の顔を浮かび上がらせた。


 ずっと目を背ける事で、人とは違う物になったのだと思い見下す事で忘れようとしていたモノ。

 人として生きていた日々が鮮明に蘇り、ベラーナはその瞬間唐突に人として心を取り戻していた。


「なんだよ、これ……」


 だがその感覚も何かに浸食される様にすぐさま塗り替えられていく。


 “ベラーナさん、それに心をゆだねないで……悪魔に身を任せては……キャッ!?”

「嬢ちゃん!?」


 語り掛けてきた声は確かにフィアだった。


「どうしたの? 急に叫んだりして……貴女、頭、大丈夫?」


 猛禽の魔女ジルバは様子のおかしいベラーナに嘲笑を向ける。

 それを無視してベラーナは空を見上げた。

 事態を把握し歯を噛みしめる。


「チッ、その子をやられると困るんだよぉ!」

「私を無視しないで頂戴!」


 翼をはためかせ一瞬で距離を詰めたジルバに、ベラーナは前髪で隠した左目を向けた。

 そこから放たれた閃光はかつて伊蔵に向けられた物とは比べ物にならない程、大きく強く輝いた。

 その赤い光は避けようとしたジルバの右半身を吹き飛ばし、遥か彼方の平原に大穴を穿つ。


「何なのよ……その力……?」


 右の翼を失い落ちて行くジルバにベラーナは牙を見せ笑う。


「何って、奥の手さ……」


 そう呟くと彼女は急降下しすれ違い様にジルバの首を刈り取った。

 その勢いのまま通りにいた伊蔵の近くに降り立ち叫ぶ。


「嬢ちゃんが危ねぇ!! 行くぞ伊蔵!!」

「フィア殿が!?」


 伊蔵は上空を確認すると頷きを返しベラーナの背に飛び乗った。

お読み頂きありがとうございます。

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