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神の目覚め

 バルボラが御使いに起動準備を命じて十数時間後、旧王城跡の地下深くに作られた神殿は慌ただしさを増していた。

 その地下神殿に潜入していたガルドはどうするべきか迷っていた。


 神殿で作業している白魔女の数は恐らく万は軽く超えている。

 その状況で数十人黙らせても意味が無いどころか、こちらの存在を知らせる事になるだけだろう。


 統括しているのはバルボラだろうが、彼女を排除しただけで止まるのかガルドには分からなかった。

 白魔女達は思考リンクによって殆どの会話をなしており、御使いでないガルドにはその内容を知る事が出来なかったからだ。


 下手に突いてこのデカ物が動き出しでもしたら……。


 そう考えると安易に動く事が彼には出来なかった。



■◇■◇■◇■



 そんなガルドの不安と焦りを感じ取ったフィアは、伊蔵(いぞう)達を連れて王城跡へと向かっていた。

 フィアが変じた円錐形の飛行体の中には伊蔵の他、クラウス、ベラーナ、カラが乗っていた。

 四人は横に並んだ椅子に腰かけなにやら話している。


「ねぇねぇ、そんなに慌てなくてもコバルトの時みたいに倒しちゃえばいいんじゃないの?」

"御体は十数万の白魔女さんで作られているんですよ!! 倒したらそれだけの命が失われるかもしれません!!"


「爺さんがいねぇと神ってのは完成しねぇんだろ? だったら大丈夫なんじゃねぇの?」

「身を捧げるのは私で無くても出来る。高位の御使いであればな」

「でもよ、あんたの話じゃ東の貴族共はそんな殊勝な奴らじゃねぇんだろ?」


 ベラーナの問いにクラウスは苦笑を浮かべた。


「フフッ、その通りだが、切羽詰まれば誰か立場の弱い者に犠牲を強いる筈だ」

「ふむ……やはり場所が割れた時点で制圧すべきであったか……」

"すみません……私が躊躇したばかりに……"


「……お主は間違っておらぬ。これは命と対話を重んじた結果じゃ……それにミミル達も向かっておるのじゃろう?」

"はい、皆には伝えたので……多分、中央のルマーダさんが一番早く到着する筈です"

「ふむ、では何とかなるじゃろう」


 そう言って笑った伊蔵にベラーナが苦笑を浮かべる。


「お前ぇはいつも楽観的だな」

「悲観的に考えても事態は変わらぬ。であるなら心に余裕を持った方がよい」

「アハハッ、確かにうんうん唸っていてもどうにもなんないもんねぇ」

"たしかにそうかも……うん、気持ちが楽になりました。カラさん、たまにですけどいい事言いますねぇ"


「ケッ、カラは悩むのが面倒なだけだぜ」

「ベラーナ……悩んでいる時間なんて人生の無駄だよ。そんな事してる暇があるなら考えて行動した方がいい」

「考える時点で面倒がってるお前が言うな!!」


 声を荒げたベラーナにカラがアハハッと笑う。

 その様子を見ていたクラウスは呆気にとられ、口をポカンと開けた。


「君らはこの状況でも笑えるのだな……」

"私達は皆が笑っている国を作りたいんです……さっきはちょっと落ち込んじゃいましたけど……それを目指している私達が笑ってないのはおかしいでしょう?"

「フフッ……そうかもしれんな」


 クラウスが笑った事で伊蔵達も笑みを浮かべた。

 そんな彼らの心を感じながらフィアは思う。


 カラの言う様に思い悩んでいても事態は好転する訳では無い。

 どちらにしても、人は前にしか進めないのだ。

 であるなら、なるべく笑いながら、藻掻いて足掻こう。


 そう結論付けたフィアは伊蔵に気になっていた事を尋ねた。


"伊蔵さん、そういえばなんですけど……策って何だったんです?"


「ぬっ……いや、策と言うても大した物では無い……どうせご老体と王族を引き合わせるならフィア殿も含め四人で王城に赴けば、どれ程大きゅうても奪う事は出来ると思うてな」


"……確かにミミルは重量軽減を使える筈ですし、ルマーダさんやシーマの協力があればいけそうですね"

「じゃろう? 後は体を西側に運べば簡単に手出しは出来ん筈じゃ……ふむ、丁度四人とも向かっておることじゃし、隙があればやってみるか?」


"……ですね。ミミル達にも話しておきます"


 その後、一行はまるで物見遊山に出かける時の様にワイワイと話しながら北西、ルマーダ中央にある神殿を目指し飛んだ。



■◇■◇■◇■



 いち早く王城跡に辿り着いたルマーダ(クレド)は、かつてレゾの目を通し見た王城の変わり果てた姿を数百年ぶりに見下ろしていた。


「時間は全てを押し流してしまうのですね…………フィアさんたちはもう少しかかりそうですか」


 そう言うとルマーダはスッと右手を掲げた。

 その手の動きに合わせつむじ風が舞い、王城の瓦礫と砂を地平線の彼方へと運んでいく。

 風は絶え間なく岩と砂を運び、やがて地中に作られた神殿を日の光の下にさらけ出させる。


 それは岩盤をくり抜き、部分的に拡張して作られたそれは、まるで巨大な棺の様だった。


「大きい……ですね」


 ルマーダが風を使い掘り出した南北に横たわる棺は、長さで言えばクレドが支配していた街ルーンドリアの大きさを超えていた。

 その棺の蓋を破り巨大な手が突き出される。


「まさか既に神が……?」


 見開いたルマーダのエメラルドの瞳を、棺から放たれた閃光が白く染めた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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