遠雷 【月夜譚No.26】
遠くから聞こえてくる雷鳴に悪い予感が加速する。視界がどんどん暗くなっているので、あの黒い雲はこの頭上にも来るのだろう。じきに雨も降る。
男は駆け足に山道を横切って、雨宿りができるような場所を探した。心なしか、首元を掠めていく風が冷気を帯びているように感じる。
この山の仕事は終わっていないどころか、片足を引っかけたばかりのような状態だ。山の状況からして難しそうだとは思っていたが、まさか雷雨まで邪魔をしてくるとは。そもそも昨日から、閉めた扉に手を挟むわ、酒場に財布を忘れるわと、散々なことばかりだ。
そういえば、この仕事の依頼を受けた後からついていないことが起こる。この仕事自体が呪われているのではないかと、男は依頼主の顔を思い出して眉間に皺を寄せた。
その時、鼻先にぽつりと最初の一滴が落ちてきた。一瞬空を見上げた男は、更に表情を曇らせて足を速めた。