都市伝説 幻想図書館 解 ②ー3
それを確認したのか、「ラー様」と呼ばれた異界の神は光り輝く巨大な帆船を呼び出し、そこに三人を乗せてそのまま闇の穴から抜けるように浮上させる。
それを追うようにアンデッドドラゴンが溜めた火炎を吐き出す。が、それは光の帆船に届く前に消失した。
「…これは…なんだ?」
船の手すりから身を乗り出しその光景を見ていたソロモンが呟く。少年も同じようにそれを見ている。
どんどんと闇の穴から浮上する。船体の左右に5本ずつ付属しているオールが前へ後ろへと漕ぎ、まるで羽ばたく羽根のように船体を上へ上へと浮かせていく。
「これはラー様の船。通称、太陽の船って言うんだけどね。シルフの風魔法なんかと一緒であらゆる魔法を無効化する力があるんだってさ。まぁ、最強の盾って感じになるのかな」
驚き、圧倒されていた二人にオルメカが説明する。そんな彼らを乗せた太陽の船の帆、その上に異界の神ラーは立っていた。
距離が離れていく事に怒ったアンデッドドラゴンがさらに身を乗り出し、とうとうその全身が闇の中から穴から這い出てきたのだ。骨の翼をバサバサと羽ばたかせ、爪を立てて穴の入り口に引っ掛ける。
三人を乗せた帆船が闇の中から脱出し、再び図書館内に戻る。とはいえ、既にそこは最初に見た館内ではなかった。壁紙も剥がれているところがある。本もそのほとんどが闇の穴、奈落の底に消えていった後だった。
変わり果てたその図書館内を目の当たりにした少年は、ひゅっと小さな息を吸い、その場にしゃがみ込んだ。どうしてこんなことになってしまったのか。絶望したとしてもおかしくはない状況だ。それだけ、少年の知る世界は狭すぎた。
さすがにこの惨状を目の当たりにすれば、オルメカも罪悪感を覚えるというものだ。自称、美男子愛好家として噂の美男子に逢いに来ただけだった。本当にそれだけだった。だから、わざわざ都市伝説について調べ、旅をした。美男子に逢いに行き、魔導書で契約をしてオルメカコレクションを増やしくていく旅。それだけのはずだったのに。
どうしてこんなことになってしまったのか。それは少年だけが思うことではなく、オルメカ自身も同じことを思っていた。そしてそれはソロモンも同じだ。
彼も彼女の旅を軽く考えていた。たまたま今回はややこしい事になったのかもしれないが。
声も出せずその光景を三人は呆然と見ていた。そんな三人を乗せた太陽の船を追うようにアンデッドドラゴンが羽ばたき空に飛び立つ。飛びながら火球で攻撃してくる。だが、どの火球も太陽の船には届かない。太陽の船の力で全て打ち消されていく。そうして攻撃を打ち消しながら船は幻想図書館の屋根をバキバキと突き破って外に出ていく。
…確かに…確かに護ってって言いましたけど…!!!なんというか…これは……。
バキバキと音を立てて壊れる屋根。その破片は奈落の底のように深い闇となった穴に落ちて消えていく。船が通った穴をアンデッドドラゴンが通ろうとして翼や爪が更に屋根や外壁を壊していく。
「対象」を「護る」と言う召喚時のお願いは叶えてくれている。だが、その際の手段は問わないし、問えない。少年が崩壊していく幻想図書館を呆然と眺めているのが痛々しく見える。だがもう、引き返す事も、過去に戻ることも出来ない。それが、痛いほど身に染みた。
幻想図書館を抜け出し宙に浮く太陽の船をアンデッドドラゴンが爪で引っ掻き捕まえようとした時、船の真上に立っていた異界の神ラーがおもむろに杖を高くあげた。それを合図にアンデッドドラゴンを取り囲むように四隻の光り輝く帆船が魔法陣とともに現れた。
三人を乗せた太陽の船と違うのは、オールの間に火砲がついていることだった。
「…おい、オル。あの神はこれから一体何をしようと言うんだ?」
「いやー…それは私にもさっぱりさんよ…」
聞かれたってわからない。どういう手段で護ってくれるのかは神の采配なのだから。
「わからないって…お前の召喚魔法だろう」
「いやほんとそうなんだけど、何せ神クラスだからね…何もかもがランダムっていうかさ…」
「はぁ?」
なんだそれは、とでも言いたげな目で見られる。
二人が会話をしている間に、アンデッドドラゴンを囲んでいた四隻の帆船についていた火砲がアンデッドドラゴンの頭上に照準を合わせ始める。
「あの…あれは何をする気なんですか?」
少年の声に振り向く。少年の視線の先には…。
「おい…本当に何をする気なんだ…?」
「あれって…巨大な火の玉…?」
「ボクには……太陽みたいに見えます…」
三人が見上げた先。アンデッドドラゴンの頭上。そこには巨大な火の玉。太陽、とそう表現するのが最もわかりやすいだろう。魔法で出来た太陽。四隻の火砲から放たれた火球がひとつになり巨大な太陽となった。