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Target No.01タケル・アサノ①

雄騎は草むらを歩き続けた、しばらく歩き続けると街のような場所に着いた。


何かの店と思わしき建物には看板が置いてあり、見たことのない文字が書かれてある。だが雄騎はその文字を解読することができた。


「喫茶店か…この文字が読めるってことは神様が与えてくれた力がちゃんと働いてるってことだよな。」


生憎、この世界の通貨は持っていない。少なくとも今は異世界の喫茶店で一服することはできない。


「逃げろー!アサノが来たぞー!」


唐突に聞こえた誰かの叫び声、それと同時に街の人々が建物の中や物陰に隠れる。


「チッ…どいつもこいつも隠れやがって。」


不満そうな呟きと共に現れたのは馬に乗った青年。雄騎はふと神様からもらったリストと馬に乗った青年の顔を照らし合わせる。


俺はこいつを知っている。


リストでこいつの名前と顔を見たとき、もしかしたらと思ったんだ。

こいつの名前は浅野武流(アサノ タケル)、小学校時代にまだ貧弱だった俺をいじめていた奴だ。

中学校に上がると同時に俺は引越して、それ以来は会ってないが…まさかこんなところで再会するとは。


そして、こいつを今から殺さなければならない。


確かに嫌な奴ではあったし酷いこともいっぱいされた、この街の人たちもこいつが来た途端に逃げてったところから察するに、こいつはこの街でも傍若無人の限りを尽くしていたんだろう。しかし殺すほどの悪人なのか?


などと考えていると奴は俺を視界に入れた。


「おい、そこの無駄にガタイが良いお前、目障りだ。金目の物を置いて立ち去れ。じゃねーとどうなるかわかってんだろうなぁ?あ?」


アサノは見ただけで憎悪が湧くような笑みを俺に向けた。


「生憎だが金目の物なんかない、一文無しだ。それよりお前、浅野武流だな?みらい第一小学校の。」

「あ?…お前…どこかで見た事あると思ったら戸城かよぉ!!」


アサノは高笑いし、弱者を見るような目を向けてきた。あの時と、俺をいじめていた時と同じ目だった。


「随分ガタイが良くなってるから気づかなかったぜ、それよりお前もアレか?死んでこの世界に転生したクチか?」

「…あぁ、そうだな。」


厳密に言えば違う、だがこいつにそんなことを説明するのは面倒だからそういうことにしておいた。


「ふー…そうだな。お前、俺の奴隷になれよ。この世界で1番強いのは間違いなく俺だからな。そんな俺の下につけるんだ。ありがたく思えよ。」


アサノが半笑いでとんでもない提案をする。


「断る。」

「は?お前自分の立場分かってんのか?それともまた昔みたいに遊んで欲しいのか?え?」


アサノは馬から降りて俺に顔を近ずけてくる。この人を馬鹿にし、弱者を脅すような態度…こいつ、何も変わっていないな。


雄騎は呆れたようにため息をついた後、アサノの顔を正面から殴った。

メリッ…とめり込むような感触、完全に油断していたアサノは顔面から血を吹き出しながら後方に吹き飛ばされた。


「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーッッ!!」


アサノは激痛に悶えながら地面に転がり込んだ、そしてなんとか立ち上がり雄騎を睨みつけた。


「殺すゥゥゥゥ……ぜってーブッ殺してやるからなぁぁぁぁぁぁ……ッ!!」


鼻が凹み、歯が折れ、涙と血でぐしゃぐしゃになった情けない顔には悪意や殺気、怒りといった負の感情が渦巻いていた。


「死に晒せェェェァァッッ!!トォォォォシィィィルォォォオオオアアアアアアアッッッ!!!!!」


アサノが右腕を大きく振る。

何をしたか分からなかったが、アサノが腕を振ってから1秒も経たない間に急に視界が回った。


そして視界に俺の体が映った。

その俺の体には首から上が無かった。


意識が遠のいていく。この感じ、ほんのついさっきも体験した。

そして…暗転。


今日、俺は二度死んだ。





再び目を覚ますと目の前に神様が居た。


「俺…また死んだんですか。」

「そうだな。」


二度も死んでしまったらどうなってしまうのだろう、まさか今度こそ転生できなくなるのではないか。

そんな俺の気持ちを見透かしたように神様は言った。


「安心しろ、お前はまだ転生していない。つまりお前は肉体はあっても常に死んでいるようなものだ。転生するまでは何度死んでも生き返れる。」

「そうですか…よかった。」


神様はさらに続けた。


「奴がお前を殺した技はいわゆる魔法、それも風属性の物だな。腕を振ることで鋭いかまいたちを作り、お前の首を刎ねたということだ。」

「今の俺じゃ勝てないんですか?」


神様は頷いた。


「難しいだろうな、得に奴はお前の一撃を喰らっているから次に戦う時はより警戒するはずだ。普通に戦えば今度は拳一発も入らないと考えたほうがいい。」

「じゃあどうやって倒せば…。」

「よいか、あの世界には今は隠居生活をしているがかつては大魔法使いだった者がいる。名をレイ・ブルーナイトという。そいつから魔法を教わるといい。安心しろ、わしが与えた力のおかげでお前には魔法を使う素質がある。」


雄騎はまだピンと来ていなかった、魔法なんてどう使えばいいかもわからないのにこれから使えるようになるのか。かなり長い時間を必要とするんじゃあないかと。


しかし行動しなければ始まらない。雄騎は再び扉を開けた。


それに、アサノは雄騎を容赦なく殺害した。きっと他の罪もない人々にもそうしてきたのだろう、そんな奴を放っておくわけにはいかない。そう雄騎は自分に言い聞かせた。それは人を殺す言い訳に過ぎない、だがそうでもしないと雄騎は人を殺す自信がなかったのだ。例え相手が悪人であっても。



「すみません、レイ・ブルーナイトさんがどこにいるか知りませんか?」


雄騎はさっきとは別の街で聴き込みをした。しかし誰に聞いてもレイ・ブルーナイトのことは知っていてもどこにいるかまでは知らなかったのだ。


「困ったな、これじゃ魔法云々以前の問題だ。」


雄騎が途方に暮れていると近くで小さな爆撃音が聞こえた。雄騎は爆撃音が気になって音がした方向に行ってみると、そこには小さな少女が見たことのない生き物と戦っていた。


「爆撃!」


少女が叫ぶと、少女が持つ杖から火の玉のようなものが飛び出し、見たことのない生き物にぶつかって爆発した。

そこでその生き物は消滅した。


「はぁ…はぁ…スライムごときにこんなに苦戦してるんじゃまだまだだなぁ…師匠が稽古をつけてくれたらなぁ…。」

「ねぇ、ちょっといいかな。」


雄騎は少女に話しかけた、少女は驚いたような顔をした。


「ひいっ!マッチョだ!犯される!」

「犯さねーよ。」


どうもマッチョにとんでもない偏見を持っているらしい。俺は生まれてこの方レイプものの同人誌やAVでは一切抜いたことも無い超がつくほどの純愛派だというのに。


「別に犯さないから、ところでさっきのって魔法かな?」

「魔法じゃなければ何に見えるんですか。」


少し癪に障る言い方でそれが魔法であることを教えてくれた。


「じゃあさ、レイ・ブルーナイトって人知ってる?」

「知ってるも何も…私の師匠です。」

「本当!?」

「まぁ…正確には"元"師匠ですけどね…。」


少女は少し寂しそうに言った。


「…何かあったの?」

「1ヶ月ぐらい前から稽古をつけてくれなくなったんです。理由を聞いても話してくれなくて…。そして1週間前についに破門されてしまいました。」


少女の目が涙で潤んできた、きっとこの少女にとってレイという魔法使いはそれほど特別な存在だったのだろう。


「そのレイって人、今どこにいるかわかる?」

「はい、ですけど…師匠に何か用ですか?」


少女は警戒するような目で俺を見た。


「俺もその人に魔法を教えて貰いたいんだ、だから会ってなんで君に稽古をつけてくれなくなったかも聞いてみる、きっと何か理由があるはずだよね。」

「…マッチョの人ってレイパーばかりだと思ってましたが、あなたはいい人ですね。」


だからなんでマッチョにそんな悪い偏見を持っているんだ。


「あ、優しくしたらヤらせてもらえるとか思わないでくださいよ!?私の純潔は簡単には渡しませんからね!」

「思ってねーよ!マッチョを性欲の塊みたいに思うな、どちらかというと筋肉の塊だ。あと、俺は君みたいなロリには興味無い。」

「ロリじゃないが!?今年で15歳ですが!!」


思ったより年齢は上だったがそれでもまだロリの部類だと思う。


「とにかく、君の師匠のところに連れて行ってくれ。」

「むう…わかりましたよう。とりあえず私についてきてください。」

「あ、そうだ。俺は戸城雄騎っていうんだ。君、名前は?」

「…ユイです、よろしくお願いします。」

「よろしくな、ユイ。俺のことは気軽に雄騎って呼んでくれ。」


雄騎はユイについて行った、ユイはかなり山奥のほうまで進んでいった。そしてそこにはポツンと小屋が建っていた。


「着きましたよ雄騎さん、ここに師匠が住んでます。」

「なんか…いかにも山篭りしてますーみたいな小屋だなぁ。」


雄騎は少し深呼吸をして、そして小屋の戸に手をかけた。

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