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落ち着く場所

 

「コニーさん……聞いてもいいですか……?」

「どうしたのよハナったらそんなにコソコソして。んま、チズルまで居るじゃない」


 警備犬のハナとシェフのチズルは周りに誰も居ないことを見計らって、忍法聞き込みの術を発動。変化の術も使い、やっと此処まで辿り着いた。

 もちろん聞きたいのは(あるじ)とアオイのことである。


「あの二人……一体何があったって言うんですか……」

「そんなの本人に聞いてくださいな」


 華麗に交わすメイド長。主のプライベートをべらべらと話す気はない。


「コニーさぁあん……!」

「そこをなんとか教えてください〜……!」

「なんとかもカントカもありません! 見たまま受け取りなさい!」

「そんなみみっちいこと言わないでくださいよ〜、私達だって察してますよ?? でもですね、知りたいのは具体的な内容なんです……!」

「そーですそーですっ! それにメイドの三人は本人たちに問い詰めたらしいんですけど何にも答えてくれないって言ってたんですぅっ!」

「アオイ様は真っ赤になって黙るし旦那様は“フッ……”って含み笑いするだけだって……!」

「そりゃ残念ね。でも私は話さないわよ? 私だって本人じゃないから二人の間に何が起こったのか全部見てませんもの」

「わっ、今の聞いた? チズル。全部は、見てないって」

「はい。ということはちょっとは見たってことですね」

「全く! あなた達ねぇ! 私を誘導しようなんて100年早いのよ! ほら仕事をなさい仕事を!! でないと咬むわよ!?」

「「きゃあ〜〜! ごめんなさぁ〜〜い!」」


 全く、と溜息をつくコニー。なんてったってこれでもう三回目なのだ。同じ質問をされるのは。

 アオイの誕生日を祝ってまだ一日しか経っていないというのに。

 そりゃあ誰だって二人のあの雰囲気を見れば気になるだろう。加えて初めての口付けをアオイからしたって言おうもんならまたひと騒ぎ起きるに決まってる。このメイド長でさえ信じなかったのだから。


 大して人数の居ない別邸でもこの騒ぎ。本邸の方に伝わったら一体どうなることやら。けれど本邸が騒ぎだすのは、また少し後のことだった。




 一方その頃、王宮では──。


「母上……体調の方はどうですか」

「レイド……」


 化粧っ気のない顔。結ってもいない髪。最低限の食事と運動。あれほど毎日眺めていた鏡も今は全く見なくなった。

 窓の外がよく見えるベッドの上で、彼女は問う。


「…………わたくしは、美しいか?」


 窓の外は眺めれど、(そら)を見ず(くう)を見つめる彼女。

 母のその言葉に胸が締め付けられるが、今想う正直な言葉を述べた。


「いいえ。母上を、美しいと思った事など一度もありません」

「っ…………、そう……」


 レイドの言葉を、飲み込んだ。

 心の何処かでは否定をしているけれど、それが血を分けた息子の本心。最早こうなってしまっては受け入れるしか無い。


「美しいとは、なんだ……?」


 ぽつり呟いた。

 彼女の見つめる窓の外には青く澄んだ空に天高く舞う二匹の鳶の姿が見える。けれどきっとレベッカの瞳には、映っていないだろう。


「さぁ。それは御自分で見つける答えでしょう。一つだけ、言えることは、母上の思う美しいとは違うという事です」

「わたくしの美しい……。なら、レイドの思う美しさとは、何だ?」


 『美しいとは何か』

 暫し考えるが、何故か頭に思い浮かぶのはアオイの姿。星より煌めく、太陽より輝く、あの心。


「そうですね……。今日も空は青いなと、そう思える心でしょうか」


 そう言われ、レベッカはただぼんやり(くう)を眺めていた視点を青く澄んだ(そら)に合わせた。


「空は青い……。ああ……あの二匹の鳶、ものすごく高い所を飛んでいるのね。まるで、天で踊っているようだわ」

「そうですね。とても、美しいです」

「美しい……。ええ、本当に」


 ふふ、と僅かに笑った表情を見たレイドは、ずっと長い間巻き付いていた重い鎖が解け、やっと心から安心出来たのだ。


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