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似た者同士


「そろそろ……、ホールに戻ろうか…」

「そうですね……」


 時刻は午後十時より少し手前──。

 無理して「犬っころも心配でソワソワしているんじゃないかな?」と、意地悪く笑うハモンド侯爵。

 アオイが気を遣わないようにと振る舞っている彼の優しさが身に沁みた。


「さぁ、お手をどうぞ」


 柔らかに手を取り、腰に手を回され、自然に腕を組む二人。相変わらず壊れ物でも扱うかのようなエスコートは、やはりアオイにはなんだか少し、物足りなかった。



 ******


「あ、アリス様! 皆様もお揃いですね!」

「皆さん、こんばんは」


 ホールへと戻ったアオイとルイは、音楽に誘われるまま中へ入るとよく知った顔ぶれが見えたので声を掛けた。

 狼森親子と、アリスの友二人だ。


「ずっと音楽が聞こえてましたけどアリス様もダンスを?」

「はい。お父様と! ね?」

「ああ、まさか娘と踊れる日が来るなんてね……。アオイさんには感謝しかないよ」

「ええ? 私は何もしてないですよ!? アリス様自身の治癒力ですから」

「アオイは本当に皆から好かれているんだね?」


 もう大袈裟なんだから、とアオイが返している横で女子二人はハモンド侯爵にうっとり。ルイがにこりと微笑んであげると、今にも天に召されそうだ。


 今にも天に召されそうなのに、桜子は「あぁ、二人同時なんて無理……」と呟いて固まり、もう一人の友クレアは本当に昇天してしまったのかフラリと倒れてしまった。

 残念ながらその身体を支えたのはハモンド侯爵ではなく、アリスの父、クリスだった。「あ、おじ様すみません……」と直ぐ様正気に戻り苦笑いするクレア。


 アオイも皆の視線の方へ振り返ると、自身の肩が男性の胸に収まる。

 視線を上げれば、眩い黄金の髪にエメラルドの瞳。

 彼も同じく、アオイの鶯色の瞳を見つめていた。


「ああ、出たな、狼森 怜」

「侯爵様。出たとは何ですか、出たとは」

「君の出番はいつもタイミングが良いねぇ」

「そうですか? 別に図ってなんていませんよ?」

「はっ、どうだか」


 黒い笑顔で言い合う二人を、「あはは、まぁまぁ……」となだめるアオイ。

 ほんの少しの間に不思議な関係となった二人を見て、「君達はいつの間に仲良くなったんだね」とクリス。

 笑うと狐のように細くなる目を、まんまるにして驚いている。


「「別に仲良くはない」ですよ」


 その言葉と態度が綺麗にハモるものだから、アリスは思わずクスリ。アオイもつられて笑った。


「全く、100年前の時代で大人しくしてさえいれば……」

「やっと本性が現れてきましたか? 侯爵様ともなればやはり腹黒ですね」

「おや? おかしいな。腹黒のわりには君みたいに呪いにかけられたことなんて無いけどな」

「はっ。お陰様で侯爵様よりは人生経験豊富です。少しは年上(・・)を敬ってほしいですね」

「ああ言えばこう言うだな」


 言い合う二人があまりに生き生きしているので、アオイは「あらら、本当に仲が良いのね」と感心した。

 勿論、「だから仲良くはない」と息ぴったりで否定されたのは言うまでも無い。


「さぁお嬢さん。私とも一曲踊りましょう」

「え、」


 金の髪はさらりと流れ、あざとく傾げる頭に、美しい弧を描く形の良い唇。ルイに見せつけるように、怜はアオイの前に掌を差し出した。

 アオイはその言葉に驚くも、心臓がふわふわ浮くような嬉しさが、じわりじわりと湧いてくる。

 はい、と綻びそうな口元をキュッと締め、彼の手を取った。


「違う男の香りが染み付いてるからな。マーキングし直さないと」


 グイ、とアオイの腰を引き寄せ、まるで自分のものだと言わんばかりにハモンド侯爵に向けて意地悪くニヤリと笑う。


「ふん、犬め」


 どうにも勝てない相手である事は、ハモンド侯爵も既に分かっている。嫌味ったらしくボソリと呟くと、その呟きが聞こえたアリスは父親と同じように、目をまんまるくした。

 御存知なのですかと問う視線に、『あれ、聞こえちゃった?』と、女性を虜にする爽やかな笑みをアリスに向けた。その他大勢の女子と同じく、まんまとアリスも顔を赤らめる。

 熱る頬を見られたくなくてダンスホールに視線を移すと、瞳に映る怜とアオイの二人は、やはり完璧にお似合いなドレスコードだった──。


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