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粛清


「レイド……! 貴方生きていたの!? それに、メル公まで……」

「な、何故……!」


 レイドはぜぇぜぇと荒い息をたてながら、ラモーナ公国の君主であるメル·マーシャル公に支えられていた。

 苦しそうなレイドに比べ、メル公は落ち着いている様子。

 突然現れた公国君主に大ホールで騒いでいた貴族達も、あれがラモーナの、と違う意味で騒ぎ始める。恐らくフローラがこの場に居たら、さすが愚かな人間ねと馬鹿にしていただろう。


「俺達だけじゃない、ちゃんと皆生きている」

「ま、まだ薬が……!」


 レイドの言葉に一安心する皆と王妃。それとは反対に、予定通りに行かないことに焦りを隠せぬ紅華(フォンファ)国大使。

 それについて答えたのはメル公だった。


「あの薬は酔桃草(すいとうそう)だろう。あの香は匂いは良いが、多量に吸うとたちまち深い眠りに就く。まるで酒でも飲んだように」

「っ、ご存知なのですね。流石ラモーナ公国君主だけあらせられる……しかし何故……!」


 まだ深い眠りに就いている筈だと言いたげな大使に、メル公は何処かの誰かと似た感じで、あっけらかんとして、「うーん。妻がね、ちょっと風の精霊なもんでね」と言った。


「部屋に充満した香と、一人一人の肺や器官に入った香も綺麗な空気と入れ換えてもらったんだ」

「精霊って、…………そんな……」


 ついに力が抜けきったのか、大使はストンと尻餅をついた。


「いやぁ。素敵な妻をもったものだよ。はははは……!」

「メル公……、笑っている場合ですか」

「あぁ、ごめんごめん」


 既に扱いが慣れてしまったのか、レイドはメル公にピシャリと一言。見違えるようなレイドの態度に驚きつつも、それとは真逆なメル公のお気楽な雰囲気に、大ホールに張り詰めていた緊張感が、すっと、(ほど)けるようだった。

 アオイは変わらない父の姿にホッとして、今すぐにでもハグしに走り出したい気分だったが、余計面倒になるだろうと思い、我慢した。


 しかし、第二王子であるレイドが騒ぎを止めて、ラモーナ公国のメル公が緊張を少解いたところで事実、起こったことは変わらないし変えられない。

 互いに問い詰め合っていた貴族達も、言葉こそ発っさないが目線で火花を飛ばし合っている状態だ。


 その様子を舞台から眺め、レイドは溜息をつく。もし兄ならどうするだろうか、と。

 今までだって言われた通りに動いてきたから、こんな事は初めてだ。そもそも兄でさえ、この状況は頭を抱えるだろう。いや、この場に居るのは兄ではなく自分だ。


 何故メル公が、第一王子である兄の陵を先に起こさず、自分を優先したのかは分からない。

 だが、操られていた人形は、今はちゃんとした人間なのだ。自分で考え、行動が出来る。

 まず、何をすべきなのか。


 舞台から見下ろすレイドは、愚かな自国の貴族にもう一度溜息をついた。

 身分を偽っていたアオイも、きっと何処かに座っているのだろうと頭を過る。

 そこでふと、気が付いた。

 あぁこの国までわざわざ来てくれたのに、と。


 そう思えば、言わなければならない事は簡単だった。

 もう既に自分の脚で、己を支えられるぐらいには呼吸も落ち着いた。メル公から離れて、身一つで舞台に立った。


「まず……! 折角この国に足を運んでくれた皆様には! この様な事になってしまい心からお詫び申し上げる! これは、王族である私、レイドと、兄である陵からの言葉だ!」


 来賓席に向けて、まずは謝罪だ。

 恐らく遠くに座っているアオイにも、届くように、大声で。

 立派な謝罪の言葉に、蒼松(そうしょう)国の愚かな貴族達もハッと気が付く。

 自分はなんと恥ずかしい事をしているのだろうと。しかし結局はそれ自体も己の保身の為である。

 その事を見抜いてか否か、次にレイドは、蒼松国の貴族を見つめた。


「そして! この国の民でもあるお前達! 今日が何の日か忘れた訳ではないだろう!! この国の建国記念、祝の席であり、この国を創った神である清之松大御神(きよのまつおおみかみ)様に感謝する日だ……!! 政治をするための場ではない……!!」


 レイドが、第二王子のレイドが言う、その通りだった。

 今日は感謝をする日。神に、祈りを捧げる日。

 一年有難うございましたと、全てに感謝し、そしてこれから来る新しい一年を祝う日。

 今日という日だけは、政治や、個人の恨み辛みも忘れて、神に捧げる日なのだ。

 だから、不可思議なこの国の風習である建国記念日に、他国からこれ程までに参加者が来る。


 そりゃあ腹の底は違う欲望があるのかもしれない。大抵の貴族はわざわざ己の欲を口にする程馬鹿ではない。

 ただ、建国記念という目出度(めでた)い日に神へ祈りを捧げる、その行為が当然のように身に染み付いているのだ。

 なのに、この現状。


「皆、其々言いたい事もあるだろうが! 私達が責任を持って話し合う故! どうか……! 日が越えるまでは……! 歌って踊れ──!!」


 皆は目を丸くした。

 レイドに合図され、音楽隊は楽器を奏でる。今の雰囲気には似つかわしくない三拍子の曲。

 それを聴けば、なんだか自然と受け入れた。


「そうだ、その通りだ」

「今日はこんな事をする日じゃない」

「仕方無い、この話は日が越えるまで保留にしてやろう」


 その場にいる誰もが大人になった。

 怒りに感情を任せず、落ち着きを取り戻し、冷静になったのだ。


どうしよ…

溺愛要素が…

最近見られない…

もうちょっとで、来るからね…

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