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初めての夜


 ──こんこん、


「失礼致します」



 午前四時、怜の部屋にコニーの声が響く。

 何時もなら周辺の警備のため起きている時間だ。

 だが今日は違う。

 しー、と邸の主である狼森怜(おいのもりれい)は人差し指をかたちの良い唇に当て、コニーに目線で合図。



「あら? あらあらまぁまぁ……!?」



 主人の隣に寄り添うのは、スヤスヤと寝息を立てているアオイ。

 一体どう言うことですかまさかもう襲ったのですかとコニーは小声で叱る。



「阿呆か……! アオイが犬馬鹿なだけだ……! 私は一度断り……、かけたぞ……?」

「断りかけた、ですって??」

「ふ、ふんっ。これで私がいち人間の男だと言うのを思い知れば良いんじゃないか?」

「はぁあああぁあ。全く、坊っちゃんも意地の悪い方ですねぇ」

「その呼び方はやめろ!」

「で? どうします? 今朝の見回りはハナさんと代わってもらいますか?」

「あぁ、そうしてくれ。悪いな」

「……もう、本当に意地の悪い坊っちゃんだことっ!」

「だからその呼び方はやめろって!」



 コニーはまた大きく溜息をつくと、主人の言葉を右から左に聞き流して「はいはい、ごゆっくりして下さいませ~」と部屋を後にする。

 コニーが出ていったのをしかと確認した怜は、アオイの寝顔をまじまじと眺め、長くてきれいな髪をひとつまみ。

 さらりと、指を通した。



「こんなに、起きないものなのか」



 熟睡中のアオイは巨犬が人間の姿に戻ったことすら気付かない。

 平和すぎたラモーナでは警戒することもないので安心して夜も寝られるのだ。

 それが原因で、ちょっとやそっとじゃあ起きはしない。



「んん……」



 時折、子供のような、色っぽいような、そんな声を出し寝返りをうつアオイ。

 すると寝巻きの浴衣がはだけて露わになる脚。

 隣には、触れば柔らかそうな肉体に己の欲望を抑えるのに必死な男がひとり。



「………ったく。我慢するのが大変なだけじゃないか」



 ぷっくり桜色の唇に、髪の隙間から覗く首筋、かぶりつきたい程にそそられる。



「笑えるな。自分で自分の首を絞めるとは……」



 これが100年前なら了承も得ずに襲っていただろう。

 どうせ了承など取らなくても己の虜にさせるぐらい容易(たやす)いことだ。

 けれど今は違う。

 彼女と真摯に向き合いたい。



「人の気も知らずに。阿呆(あほう)が」



 そう呟いてアオイの身体をごろんと遠ざけたつもりだが、その格好がまた今まさに押し倒されましたと云わんばかりに、胸元も脚もより一層はだけて、余計に己の首を絞めたのだ。


 頭も心も支配する煩悩を、瞑想でなんとか払い、そっと布団を掛け、朝日が昇るまでまた暫しの睡眠。

 案の定次に目覚めたときは、

 ──「ふ、ふわぁえあーーーーーー………!!??」

 と、アオイが謎の奇声を発したのは、言うまでもない。


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