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そうです。姫なんです。これでもね。


「もーー、本ッッ当に心配したんですからねッ……!!?」

「ごめんなさいでしたァッ……!!」



 と、メイド達に叱られて(?)から丸二日。

 アオイの手足の痣も、ほんの少し薄くなった頃──。



「今まで避けてきたが。私も元の姿に戻ったことだし、今後の為にも話し合っておかなくては、と思ってな……」

「……………は、はい」



 昼食をとった後、話があると言われ、アオイは食後の温かい緑茶を啜りながら美しい顔をした男性と、二人きり。

 皆が居ると話しにくいのではと気を利かせたのだろう。

 しかしアオイにとっては居心地が悪かった。

 何故なら家族以外の男性と二人きりだなんて今まで無かったからだ。

 相手は話慣れた怜なのだが、人の姿と言うだけで緊張してしまう。

 その理由はアオイ自身でも分からなかった。



「アオイは……、ここへ来て、もう一ヶ月」



 もうそんなに経ちましたかなんて表情(かお)をして、「えへへ……、お邪魔してます……」と一応は申し訳無さそうにするアオイ。

 正直、出逢ったばかりの狼森(おいのもり)家の皆と、ここまで長く過ごせている事自体普通ではない。

 だって見ず知らずの全くの他人なのだから。



「……で?」

「……え? っな、なに……?」



 机に片肘を付きながら(うぐいす)の瞳を見つめる怜だが、ものの数秒で逸らされる。

 人に戻った後でも犬の面影を探すように横顔を見つめるくせして、いざ、怜と目を合わせばすぐ逸らしてしまう。

 ただ単に恥ずかしいだけなら良いのだが。


 怜は、逸らされたアオイの瞳を見つめた。

 以前のように、その深みのある瞳を見つめたい。

 また犬の姿になれば逸らすことなく見つめられるのだろうか。



「アオイは、……いつまでここに居るんだ?」

「え、えぇと……、いつまでと言われましても……」



 困ったような表情で「もしかして、邪魔……?」なんて聞いてくるが、勿論そんなはずはない。

 一生を共に過ごしてくれると言うなら狼森家の誰もが大歓迎だろう。

 だが、お互い何も知らない。



「いいや、邪魔だなんてそんなことは思わない。しかし、なんと言ったらいいか……、正直どこまで切り込んで良いのか分からないのだ……。戦争になっても嫌だと言っていたから……」



 「あ、あぁ……」と声だけ聞けば納得しているように思うが、その表情は「そうだっけ?」と言っている。

 山の天気より分かりやすい表情は見ていて飽きないが、これじゃあ嘘も付けない。



「…………………………覚えてないのか」

「え、っと、あは、……せ、戦争がどうたらとか、言ったっけ……あはは……」




 ・・・・・・・・・・暫しの間。




「はぁあぁああああ……!!??」

「はわーーーーー……!!」


「どうされました!!」

「お二人とも大きな声を出されて!」

「まさか二人の仲に進展でも!!? しかしまだ婚約もしていない身です! …………よ?」



 怜とアオイがあまりにも大きな声を出したものだから、こっそりドアの前で待機していたメイド達は思わず扉を開けた。

 口を走らせるのがお得意なシェーンは、また余計な事を口走ってるようだが。



「っ~~~~……別に何もない! 少々アオイの発言に驚いただけだ」

「ごめんなさい! 私も怜の声にびっくりしちゃって……」

「心配するような事は……?」

「ない」

「そう、ですか。では、私達は」



 失礼致しましたと出ていくのは良いが、「なぁ~~~んだ」とシェーンがぼやいているのが部屋に残った二人の耳にしっかりと聞こえた。

 まるで「旦那様ったらヘッタレー」とでも言いたいかのように。

(頼むから完全に聞こえなくなるまで口走るのは止めて頂きたいのだがな!? ……いやまぁ、獣に変えられる以前は令嬢と二人きりになろうものなら直ぐに取って食っていたが……)

 まぁそれは昔の話だからと誰にも分からない言い訳をしていれば、「で、どうしたって言うの? そんな大きな声を出して……」なんてアオイは不思議そうに首を傾げる。

 お前のせいだぞ、とは言えず。



「私が知りたいのはアオイがいつ故郷へ帰るかだ。そりゃあいつまでだって居て良いが、ただアオイが此処に居ることによって他国の情報を知ってしまい戦争にでもなってみろ。加護だの魔法だのと関わりの無い私達に責任が取れるとは思えん」

「ん……? ちょっと待って……?」

「……なんだ」

「もしかして私の言い方が悪かったのかも……そんな重要な、って言い方は良くないけど、えーっと、怜が気にするような事ではないからね……?」

「はぁ? 気にする程と、言われても……」



 申し訳なさそうにするアオイだが、戦争だなんて物騒な言葉に気を遣うのは当たり前だ。

 こんな辺境の地で国境を護っているのだから、事の重大さは身に染みて感じている。

 さっぱり意味が分からないと首を傾げていると、プンプンと部屋中に振り撒かれる甘い花の香り。

 アイツがやって来た証拠だ。



「はぁ~~~、も~~~~焦って来てみたら。全く色気のない……何のお話をされているのかしら?」



 部屋に飾られていた一輪挿しのガーベラは美しい薔薇に変わり、そこから聞き覚えのある声がする。

 一度見たら忘れられぬ美しさの妖精に、何してるのよとアオイは問うが、当のフローラはと言うと怜をじとじと見下しながらアオイを後ろから抱き締めそして頬擦り。

 しかも、フフンと言うような顔つきで。

 まさかこれは俗に言うマウンティングと云うやつだろうか。

 相手は妖精で女であるにも関わらず、何故だか腹が立つ。

 邪魔なんだけどと迷惑そうなアオイの声は届いてない。



「もうっ! フローラ! 何の用で来たの!? 別に呼んでないよ!?」

「だ! だってこの邸の下級妖精達がアオイが男性と二人きりだって言うから……!」

「はい!?」



 どうやらフローラによると、お花に包まれうたた寝していれば、下級妖精達が「アオイはいまきれいな顔のおとこの人とふたりきりー」と言うものだから飛んで来たと。

(うーむ。私の顔立ちが妖精界でも通用することに驚いたし、そもそもこの邸にも妖精が居たのか……)

 誰も見ていないと思ってもみんな見ているからねと言うアオイの言葉を思い出し、思わず背筋がゾワッとした。



「アオイが男と二人きりなんて家族と以外見たことないのに、何処のどいつかと思えば! ま、心配に及ぶようなお話じゃなかったみたいですけどぉ~~??」



 そう言ってまたによによと明ら様なマウンティング。

 しかし腹の立つ妖精だこと。

 それにいつの間にキャラ変したのだろうか。

 最初とは随分印象が違う。


 勿論100年其処らじゃキャラ変するわけもなく。

 今の姿がフローラの素の姿、上級妖精にもなると人間の前ではキャラを作る癖があるのだ。

 火や雷の妖精は、見栄っ張り。

 水や土の妖精は、謙虚すぎる。

 風や植物の聖霊は、優美ぶる。

 本当はどの妖精も素の姿は正反対だ。

 妖精が人間の事を放って置けないのも、どこか自分達と似ているからだろう。


 まぁ今はそんな事知ったところでどうでも良いこと。

 それよりも重要なのは、フローラが言っていた「男性と二人きりなのは家族と以外見たことがない」だ。

 それはつまり、もう何から何まで『初めて』と言うことになる。

(昔は、女性の初めては後々面倒……、だなんて思ったりして、相手の女性に対し失礼だったな……)

 きっと、純粋に好いてくれていた女性も居ただろう。

 結局、己の事しか考えていない愚か者だったのだ。

 まるで両親と正反対。

(恥ずかしい息子で申し訳無い……)


 しかしこんな息子でも諦めずに信じて、この領地を、財産を遺してくれたのだ。

 きっとフローラに姿を変えられなければ気付かなかったこと。

 それにアオイとも出逢うことも無かっただろう。

 まぁ少しだけ、ほんの少しだけだが、この妖精フローラにも感謝しているのだ。

(本当にほんの少しだけな!?  結果良ければ、なんて言葉で済むほど楽な100年じゃなかったからな!?)



「で? 何ですって? 戦争なんてそんな話、二人きりでして! どういった経緯でそうなったのよ!」

「えぇ……? ほら、オーランドの姫の話だよ……」

「んもうアオイったら。変なところで真面目なのよね。覚えてる人間なんてほぼ居ないわよ!」

「いやぁ……だって私なら恥ずかしいもの……。死んだとはいえ自分の過去の過ちを他国の人間にまで知られちゃあさぁ……」

「全く。アオイだって解ってるでしょう? 人は過ちを犯す生き物なの。他の過ちを知った方がよっぽど人間の為だわ!  別にアオイが気にすることじゃないの! それについて個人的に気にするのは貴女のお父様だけで良いのよ」

「そうだよね。子供にまで迷惑掛けて! 全く!」

「ちょ、ちょっと待て……?」

「え? 怜、どうしたの?」

「えーーっと、話についていけないんだが? どうなってる? その、戦争の話は?」



 きょとんと、アオイとフローラ。

 二人は目を合わすと、「ま。教えてあげても良いけどぉ〜」とフローラはお得意の(?)によによマウンティングスマイルで話始めた。

 何だかんだ教えてはくれるらしい。



「──低俗な人間共にとっては遥か昔、一人の男性を奪い合って妖精達とオーランドが戦争したのは知ってるわよね? 戦争に負けたことより何より男を取られた事が悔しかった姫は呪いをかけたの。二人の間に子が産まれ、十六歳になった日に、100年間一切、子供達に会えなくなるっていう呪い。でもラモーナってオーランドと時間の流れが違うからアオイ達が国を出れば子供達にとっては実質4年間位で済むのよねぇ。しかもプリンセス・ガルチも横暴すぎる政策や私欲のために税を徴収しすぎてクーデター。そしてオズ島に島流しってワケ」

「は……。その、妖精戦争が? あの……? と言うか、は? アオイの父上って……? え? 聖霊……?」



(情報が大渋滞しすぎて理解が及ばないのだが?)

 それ程までにスケールの大きな話なのだ。

 本日何度目かの、何を言っているのかさっぱり解らない。



「っえ~~~~??? もしかして御存知ないのかしらぁ~~~??? アオイに呪いを解いてもらっといて???」

「フローラうざい」

「アオイは! ラモーナの! 姫よ!? 美しく、高貴な、四大聖霊である! シルフィード様の娘!! お分かりぃ~~???」

「はぁああぁあああ…………!!?」



 また怜は大声をあげてしまった。

 けれど仕方がないだろう。

 アオイが、ラモーナ出身を飛び越え、公国の姫だと言うのだから。

 更には精霊とのハーフとまで言う。



「しかも日向葵(ヒューガアオイ)って私が名付けたのよ!? 美しいでしょう!? アオイの瞳には向日葵(ひまわり)が咲いているの! 私が一番に見つけたのよ!? 貴方とは重ねてきた年数が違うの! それなのに何なの!? 私に呪いをかけられてアオイと出逢ったくせに! 生意気なのよね! 昔からそうだけど! だから呪いをかけてあげたのよっ! それなのにアオイに好かれて……!!」

「ちょっとフローラ!! 本当にウザいよ!!?」



 アオイが声を上げると同時に、閉めきった部屋に風が吹く。

 過去には勇者パーティを追放されただのと言っていた魔法使いに出会ったこともあるが、妖精の力も借りれないようなこんな国じゃあ嘘つきと同じだねと笑っていた。

 妖精と契約もせずに魔法が使える者は、地球のエネルギーそのものを使っているのだとも。

 科学が発達した国ではそれをフリーエネルギーと呼ぶらしい。

(とすると、アオイは……?)



「な……」

「ほ、ホラネ……!? アオイは聖霊とのハーフだから風の力が使えるのよ!? も、勿論オーランドなんかの魔法とは比べ物にならっ、ならないくらいっ、強力よ……!? アオイが本気出したら凄いんだから……!」

「フローラァ!? もう本当に黙らないとただじゃ置かないんだからね!?」

「きゃーー! ごめんなさい~~~~……!」



 怒られたフローラは薔薇の花弁と光る粉を撒き散らし、一輪挿しへと逃げ隠れた。

 はてさて脳がパンク寸前だ。

(えぇっと……。何から話そうか……)


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