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茶吉の日常

1ヶ月間の現実逃避

作者: 茶吉

妻のササ美がドイツの潜水艦Uボートに1ヶ月間乗るパートに出るんだそうで、伊豆の大島の船着場から乗船するのを茶吉は見送りに行ってきた。1ヶ月間、食事も寝るところも付いて3万円貰えるパートだということで、旅行好きな人には嬉しいパートだそうだ。守秘義務があるから明かせないけれどいろんな所へ行けるそうで、ササ美は嬉々として出掛けて行った。でも茶吉が思うに、1ヶ月間も拘束されて3万円じゃあ、時間給に換算したらいったいいくらになってしまうやら。アフリカの農民や中国人のファストファッション業界のお針子並みに安い給料なんじゃないかなぁとも思ったが、本人が楽しそうだからま、いっか。と思うことにした。見送って茶吉が帰宅すると家の前に黒人と白人の2人組が、茶吉のことを待っていて、

「あなたは、国家のプロジェクトのために家族を送り出せる、素晴らしいご家族ですね。貴方のような方を是非ご招待したいのです」と黒塗りのロールスロイスが後部座席のドアを開けて門の前に止まっている。乗り込むとクルマはマリンタウンにき、そこにはプライベートジェットが待っていて、今度はそれに乗せられ、順天堂大学病院に陸した。この病院には来たことがあるが、旧知の一般の塔とは別の、特別塔のエレベーターに乗り込んで到着したのは会議室くらいに広い個室だった。大統領秘書という中年女性が「ご足労いただきありがとうございます。」と迎えてくれた。「大統領はしばらく前から心臓を患っておられますので、このような形での会見ですがお許しください。テレビでご覧になっている大統領ですが、あれはダブルです。こちらが本物の合衆国大統領です。」と言う。へやの真ん中に置かれたカプセルがパッカと開くと、中に横たわっているのはロナルドドランプ合衆国大統領その人だ。座りごこちの良さそうな椅子が一脚、横に置かれているので腰掛けた。

大統領が「茶吉くんはネズミーランドは好きかね?」と聞くので「嫌いです」と答えると「いいねえ」と、大統領。

大統領が「茶吉くんはニコラスケイシーとトムクルージとではどちらが好きかね?」と聞くので「どちらも好きじゃないです」と答えると「いいねえ」と大統領。

何を答えても大統領は「いいねえ」しか言わないようだ。するとカプセルがパタンと閉じてしまった。面会時間が終わったということか。でも今の会話がなんだったというのだろう。秘書の女性が再び出てきて、大統領が貴方のたいへんに正直な性格をたいそう気に入られました。つきましては、貴方には、アップルパイ社の社長としてアップルパイ社の立て直しをしてもらいます。今、中国との経済戦争の真っ只中にあり、我が国の企業はどれも厳しい状況です。特に転落が著しいのがアップルパイ社で、もしも立て直しが出来れば、我が国の経済全体をも立て直すことが出来るでしょう。どうですか。受けて頂けますか?」と聞かれ、茶吉は、「そんな突然に言われてもなあ、じゃあ1ヶ月だけなら引き受けてみましょう。」と答えた。すると瞬く間にまたプライベートジェットに乗せられ、横須賀の港に停泊中のジョージワシントン空母に連れて行かれ、そこからはF23に乗り込み、8時間でアメリカのアップルパイ本社に着いた。直ぐに会議が始まった。集まった重役たちがペラペラ英語で話しているので、茶吉が、「よろしければ日本語でお願いします」と言うと、「じゃあ会議の開始を1週間待ってください」という。茶吉は「いいですよ待ちましょう」と答えた。1週間はウィキペディアでアップル社について読んで過ごした。

そして1週間後、会議室に再び顔を揃えた重役たちはみんな日本語がペラペラになっていた。さすが大企業の重役ともなると違うなぁと感心した。「で、社長。我が社はこれから何を作りますか?」と質問されたので、茶吉は「子供のロボットを作ります。記憶して成長するロボットです。そしてそれを安く売ります。作るのに1千万円かかっても、10万円で売るのです。」と答えた。「そんなに安く売ってどうやって採算が取れるんですか?」と質問されたので、「親はゆくゆくは全財産を子供に残します。それがそのまま我が社のものです。」と答えた。会議室の重役一同、目から鱗が落ちて、さすがは新社長は、目の付け所が素晴らしい。と拍手で大絶賛されてさっそく生産に取り掛かった。そのロボットはi息子とi娘と名付けられた。子供を産まない世界中のカップルから予約が殺到した。性別による売り上げ割合は、i息子が3割に対してi娘の割合は7割で、子供を産まない親には女の子の方が人気が高かった。

i息子と i娘には、オプションで学校もつける事が出来て、給食費がかからない。学校に行かせると歌を覚えて帰って来て歌ってくれたり、お友達が出来たり出来なかったりイジメられたりするイベントが発生して、家に帰ってからその話を披露してくれたりする。

i息子とi娘は話題が話題を呼んで世界中で飛ぶように売れて、日本でも子供のうちの3割はi息子と i娘ロボットとなった。

i息子とi娘の体のパーツは何年かごとにちょっとづつ大きいサイズに交換できるので、どの親も初めのうちは競って新しいパーツに取り替えて、そのうちに、こんなに金をつぎ込んだからには途中でやめられなくなって惰性で取り替えて、結局ほとんどの子供が子供の体パーツに始まり、大人の体パーツまでバージョンアップを果たす。ゆくゆくはオプションパーツを追加して強化していけば様々な機能が追加でき、最終進化形の介護ロボットまで進化させる事ができる。

これで アップルパイ社が未来永劫儲かる仕組みを確立した。そのシステムはまるで、浄水器を取り付けた家庭はそれからずっと永遠に当社のフィルターを定期的に新調し交換し続けなければならないというのと同じ商法だ。

見る見るうちにアップルパイ社の業績は立ち直りウナギのぼりに上がっていき、過去最高の利益を上げた。やがて茶吉が設定した1ヶ月というタイムリミットが来た。「約束通りにこれで抜けます。」と茶吉が去る際には会社をあげての大パーティーをして盛り上がり、かかえきれないほどの花束で見送られ、届けられた花束が家中に置き場所が無いほど溢れた。だけど考えてみると会社を軌道に乗せてからまだ決算日が来てないので、茶吉が貰った給料は、どん底だった時の社長としての給料で、スズメの涙ていどしかもらっていない。つまり貢献の割にはぜんぜん給料を貰っていないのだ。テレビをつけてニュースの報道を観ていたら、アップルパイ社の奇跡的に立て直したあの茶吉のアイディアは、重役の中のひとりのアイディアという事にされていて、そいつが大統領の娘の婿になっている。企業ってこうゆう汚い事をするんだなぁ〜。まるでポケットモンスラーのキャラクターをデザインした人が、その著作権をニソテソドーに取られちゃったのと同じだなぁ。と思った。

ササ美がパートから帰って来て、でっかい荷物をぼっとり落として床に大の字に寝転んだので、「どうだった?」と聞くと、「あ〜あ、閉鎖空間で同僚のおばちゃんの愚痴だけを毎日毎日聞かされて1ヶ月って長かったあ〜、色んな国に行ったけど、潜水艦だから見れなかったし〜。で?茶吉さんは何かあった?」と聞いてきた。ここで正直に全部話すか、でもそうしたら、「ヘェ〜、で?なんで給料貰わなかったワケ?」ってツッコまれてしまうなぁ。よし何も言わないでおくことにして「いつも通りだったよ。」と返事をしておいた。




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