第9話 二人っきりの雑談
暗いまどろみの中、声が聞こえる。
「ねぇ…瑞季はどうして、源頼光の事がそんなに好きなの?」
(まえに、由美ちゃんにそんな事、聞かれたっけ・・・なんであんなに・・・私は)
そこで、瑞季は夢から覚めた。
「んん・・・ここは?・・いてて、そういえば土蜘蛛にはねられたんだっけ・・・」
川の流れる音と川石のごつごつとした感触、そして微かに漂う、血の匂いで目が覚ます。
意識を取り戻し、起き上がろとした時、体に痛みを感じ、”右手で左手の”すり傷をおさえた
「ん? あ! 縄が解けてる」
《回答します 姫様がその男と共に転げ落ちている時に擦り切れたようです》
「その男? あっ!」
私の隣には、自分をかばって一緒に転落した頼光が血まみれで横たわっていた。
「たいへん!!ひどいケガ、しかも出血も激しいし、骨も折れてるみたい、なんとかしなくちゃ・・・」
《今の姫様は封が解かれたので人化を解除し妖術が使用できます・・・》
「そうか、治癒術!!」
《しかし、今こそ逃げるチャンスです。人間など放っておいて・・・》
「そんな事、できるわけないでしょ! 人化解除!!」
私は、密告者の警告を無視すると人化を解き、もとのケンタウロスの姿に戻り頼光に術を発動する。
「治癒術 ”再生を司る者”」
緑色の優しい光が頼光の全身を包むとみるみるうちに傷が癒えていき、苦しそうだった頼光の顔色も良くなっていた。
「よかった、間に合った・・・」
「ん、こ、ここは・・・一体?私は・・・」
「あ、気が付きましたか?」
人化を再び発動し、彼の看病をしていた私の方をみた
「瑞季? 私はどうして・・・」
「あ、あまり動かないで下さい、傷は塞ぎましたが、血を多く失っているようなので」
すぐに体を起こそうとして貧血でふらつく彼を支えながら私は説明した。
「傷を・・塞ぐ? 君が・・・ あ! 拘束が解けて・・・」
「ご、ごめんなさい、縄が千切れちゃったみたいで・・・その・・怒っていますか?」
千切れた縄をもちつつ謝ると
「いや、君のおかげで助かったんだ、感謝こそすれ怒ったりなんかしないよ。 しかし金時たちとは大分離されてしまったようだね。」
たき火で冷えた体を暖めながら、どう合流するか話し合った。
「そうですね、彼らは大丈夫なんでしょうか?」
「そこは心配ないよ、彼らは都では知れ渡る最強の三人だからね、土蜘蛛の群れなんかに負けたりしないよ、なんせ自慢の守護者だからね。」
頼光は、彼らを誇るように話した。実に頼もしいと思っていると・・
「問題は、私達だね・・・恥ずかしながら私には彼らのように戦う力がないんだ・・」
本当に恥ずかしそうに頼光がそう告げ、その言葉に文字どうり私は目が点になった。
「え?・・えぇ―――――」
衝撃的な戦力外通告に思わず大きな声をあげてしまった。
川の流れる音とたき木の燃える音だけが聞こえる沈黙の中
「力がないとは・・・頼光様も金時さんたちと同じ妖憑きなんですよね・・・」
「正確には、まだ妖力に目覚めていないんだ。妖力を持たない妖憑きは、ただの人間とかわらない、私は彼らに守ってもらわないと何もできない無力で駄目な人間なんだ。君をこんなことに巻き込んでしまって、本当にすまないと思っている。せめて金時たちと一緒だったら・・・」
自分が無力であり私に迷惑をかけてしまったと頼光は、深々と頭を下げ謝罪しようとしたがその言葉を遮るように
「そ、そんな事ないです、あのまま暴走を止めてもらえなかったら、きっと私はいつか何も知らないうちにもっと多くの人たちを殺して本当にそのまま退治されていてもおかしくなかったところを頼光様は阻止してくださいました、寧ろ救ってもらったと感謝しているんですよ。」
強く力説しながら、頼光の目を真っ直ぐに見つめてから、少し頬を染めながら
「そ、それに・・誰かのために何かをしようとするあなたが決して駄目な人間のはずがありませんし、そ、そんなあなたが、か・・かっこいいと思うから、もっと自分に自信を持ってください!!」
恥ずかしながらも、私は、そう言って、彼の震える手を握りしめた。
「ありがとう・・・・」
頼光は微かに涙を流しつつ、笑顔で握られていないほうの手で握り返してきた。
「「・・・・・・・・・・」」
「・・・・・そ、それよりも 早くあの三人と合流しないといけませんね」
甘いムードに包まれたこの空間に耐え切れなくなった瑞季は頼光から顔をそむけて話を変えた。
「そ、そうだな、おそらく私たちを襲った土蜘蛛の本隊が血眼のなって探しているだろうしね」
「どうして、そこまでして、自分たちに危険性のある妖憑きを狙うのでしょうか?」
「あぁ、それは・・・」
『ワシらにとって妖力を高める極上の獲物じゃからのぅ』
ガラガラとした声に 振り返るとそこには私たちの遭遇した倍以上の大きさをした”大土蜘蛛”がいた。
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