第7話 動悸、息切れ、気付けに・・・
夜の山奥を一人の男が足を引きずりながら死に物狂いで走っていた。
「ち、ちくしょぉぉぉ、なんなんだよ・・なんなんだよあの女!化物じゃねぇか!!」
自分と仲間が拉致して売り飛ばそうとした少女に逆に仲間を惨殺され、自分も命からがら逃げてきたのだが・・・・・
ゴゴゴゴゴゴ ドカン ガラガラ ドシャ
「な、何の音だ?・・・え?」
自分が下りてきた山の方から地響きとともに何かが近づいてくる音に振り向くと
男は、山間から木々をへし折って現れた黒い影に飲み込まれ・・・この世から姿を消した。
密告者の助言により、私は、武部 瑞季と前世の頃の名前を名乗り、自分は、この山の近くの村に住んでいたが
自分が妖憑きだと村人たちに知られてしまい殺されそうなところを命からがらこの山まで逃げ込んだのだが、そこで山賊に襲われてしまい、剣術がある程度使えるので自らを守るために逆に返り討ちにしていたところに頼光達と出会ったと密告者が考えた設定そのままに話をした。
「そうか・・・大変な思いをしてきたんだね、でも、これからは大丈夫だよ、君は私たちが守るから」
頼光は、少し悲しそうなしかし何かを決意したかのような真面目な瞳で接してきてくれた。
「よ、頼光様!、簡単に信用するのは、どうかと思います!! 確かに彼女に同情したい気持ちも分からなくもないのですが・・・」
綱は、鍋をまわしていたお玉を持ちながら、慌てて抗議する。
「綱よ、お前の言いたいことはわかるが主様が言い出したら聞かないことは解っているはずだ・・」
どこか諦めたように、貞光は溜息をはいた
「そうだぜぇ それに、この怪しい刀はお前が封をしたんだろ?だったら大丈夫なんじゃないのか?」
酒を飲むのを中断して荷物の中から何かを取り出したかと思うと、私に見せるようにした金時の手元には封印の札が沢山貼りついた牛頭があった。
「あ、私の刀・・・」
「君が暴走したのは血に酔ったということもあるが、一番の理由は、これだね。この刀からは人間への怒りや憎しみ、復讐心といった感情が妖気となってあふれていたんだ。
おそらく、その妖気が持ち主である君を使って、人間に復讐しようとした結果があの暴走だろう」
夜の山奥にパチパチと、たき火の燃える音と煮える鍋のグツグツと煮込んでいる音だけがこだましていた
「そ、そんな・・・」
父の亡骸を使って作った牛頭がまさか、そんな危険な妖刀になっていたことにショックを隠し切れなかった
「すまないが、この刀は、こちらで預からせてもらうよ。かまわないね?」
「はい・・・」
ショックが大きかった瑞季は、そう答えるので精いっぱいだった
少し間をおいてから、頼光は、話をきりだした
「・・・・それで瑞季、君の今後の事なんだが・・・すまないが、このまま私たちとともに都に来てもらうよ」
「都・・・ですか?」
「刀を失った今の君を無害と決めつけて解放することはできないんだ。だから、都できっちり調べてからの解放、あるいは保護となるね」
「貴様が、害あるものとわかった瞬間に即座に切り捨てるがな・・・」
碓井貞光は刀を抜こうとしながらこちらを睨み付けてくる
(ひぃ~目がガチなんですけど、貞光さん・・・)
私は、ちょっと貞光から距離をとりながら座りなおした
「貞光、やめなさい・・・すまない、脅すつもりはないんだが、でも拒否権がないのも事実なんだ」
(・・・・っていうか、牛頭を取り上げられ、拘束され、しかも妖力封印の特典付きのこの状況で断れるわけないじゃん!!まぁ、すぐに殺されるような事は無さそうだし、ここは、大人しく彼らに従うのが正解かな・・・)
《賢明な判断だと思われます・・・しかし、妖怪とバレれば、すぐさま討伐されるでしょうからご用心願います・・・今のあなたでは、簡単に殺されてしまう程の戦力差ですので・・≫
(言われなくても・・もちろんよ、こんなところで死にたくないしね・・・)
今後の方針を密告者と決めたその時だった。
ぐきゅるるるるるるう――― 私のお腹がなったのは・・・夜の静かな山に響くほどに
「・・・・・・・・」
「「「・・・・・・・・」」」
赤面しながら固まっている私を見ながら
「・・・ご…ごめんね、遅くなってしまったけども食事にしよう」
頼光は、ちょっと気まずそうにしつつ瑞季のためにたき火の上に用意された鍋から雑炊をよそって渡してくれた
「ありがうございます・・・あ・・」
瑞季は自分が後ろ手に縛られている為、お椀を受け取ることができない事をうっかり忘れていた
「あ・・・ごめんごめん、その状況だと食べられないよね」
縄を解いてくれるのかと思いきや、頼光は、匙ですくった雑炊を少し冷ましてから、私の口の前まで持ってきた
「あ、あの、頼・・光様・・・?一体何を?」
「なにって、君に食事をとってもらうにはこの方法しかないからね、 ほら口を開けて・・・」
(え、えぇぇぇ 何!?この嬉恥ずかしなこの状況 私が愛してやまない頼光様にまさか、”あ~~ん”してもらえる日がくるなんて)
頼光の蒼い瞳と優しい声で私の口に雑炊を運んでくれることに胸の動悸と熱くなり赤くなる顔を抑えることに必死で
私は、この日食べた雑炊の味は正直わからなかった・・・
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