第5話 目覚めた私と出会い
憎い・・許せない!私から、お父様を奪った人間が!仲間を奪った!住む場所を奪った人間どもを八つ裂きに・・・
「そうだ・・・決して、許してはならない我が愛しき娘よ・・・もっとだ!もっと我に人間どもの生き血を・・・」
・・・・・・・
(はっ!!はぁ…はぁ、ゆ、夢・・・お父様と、これは・・牛若姫としての心?・・・)
汗をびっしょりかいて目覚めた私は、どうやら天幕のようなものの中で眠っていたようだ。
「ここは・・・私は・・一体? あれ?身動きが・・とれない」
私の身体は、変な模様がついた縄で後ろ手にガッチリ拘束されていた。
(え! どうして私、縛られてるの?しかもこれって亀甲縛りってやつ?なんでこんな格好に、それに、なんだか力が入らないんだけど・・・。)
縄を解こうと必死にもがいていると、一つの人影がこちらに近づいてきた。
「やぁ、お目覚めのようだね、気分はどうだい?」
そういって天幕の入り口から姿を現したのは黒髪の長髪に透き通った蒼い瞳をした爽やかな美青年が私の目の前にやってきた。
彼を見た瞬間に、どういう訳か今までに感じたことがないほどに私の鼓動が激しく高まった。
(な、なんだろう・・この感じ?息が辛い・・胸が苦しいし・・顔が熱い。もしかしてこれが恋?・・・いや、まさかね・・・)
転生する前からこのかた、恋などというものをしたことが無かった私は、この胸の苦しさを不整脈と決めつけ心の中で完結させる。
「あの・・・あなたは・・・誰なんですか?それに私は、どうして縛られているのでしょうか?」
「? 覚えていないのかい。君は襲ってきた山賊を返り討ちにし、最後の一人に止めを刺そうとしたところを私たちに止められたんだよ。」
「・・・すみません、記憶が」
うつらうつらとしか覚えてなくいが初めて人間を斬ったという事実に少しだけ動揺する。
「おそらく君は、山賊の返り血で酔ったんだろう。妖憑きならよくありがちな暴走だから、あまり気にしなくていいよ。 あ、安心して、君に危害を加えようなんて思ってないし、もちろん仲間にもそんな事させない・・・とは言え すまないが君の存在が安全とわかるまでは、その拘束を解く事ができないんだ、すまない。」
私に何も手を出していないと必死に弁解するこの人がとてもかわいいと思いつつ、真面目な話の時は真剣なまなざしで説明してくれて、場合を考えず、ときめく私がいた。
「い、いえ、当然の事かと・・・」
赤くなる顔を横を向いて隠して返事すると自分の置かれている状況にショックを受けてしまったと思われたのか話を変えてくれた。
「・・・そうだ!お腹が空いたでしょ?今、食事を用意しているところなんだ、ちょっと待っててね。」
男はそう言い残して天幕から出て行った。
(・・・密告者、現状確認)
《回答します・・・山賊の血に酔い狂乱状態になり、山賊の二人を惨殺、最後の一人を殺そうとしたところ、それを止めるべく先程の男と仲間たちにより
気絶状態にされました。その後、拘束され、牛頭は回収され現在に至ります。》
密告者は、牛若姫が暴走してから捕まるまでの簡単な説明をする。
(そう・・・ちなみに私を縛っているこの縄に関しては何か解る?さっきから妖力が湧いててこないんだけど?)
《姫様を拘束している縄には妖封じの呪が刻まれています。よって力は軽減、妖術は使用できません。》
「角は引っ込んでるみたいだし、足は二本だから人化は解けていないみたいでよかったよ。」
《人化は固有能力の為、一度人化すると妖力を消費しません。しかし、もとの姿に戻るには妖力が必要なので現在は妖怪化は不可能です。》
(今は、いいよ。あの人達と争いたくないし、縄で拘束されているという事を除けば今のところ危険は無さそうだしね。)
《懸命な判断かと・・》
人化は継続すると決めたところで、気になっていたことを聞いてみた。
(ねぇ、密告者・・・私が暴走したのって本当に血に酔ったからっていう理由だけなの?本当は・・・)
「食事の準備ができたから、こちらに来てくれるかい?改めて仲間たちを紹介しよう。」
「は、はい!」
急に天幕の入り口の布が開き先程の男性に話しかけられた事に驚きつつ、密告者との会話を終えた。
(今、私がするべきことは妖怪であるという事実を誤魔化しつつ解放または保護してもらえるように交渉する事、バレると間違いなくやばい・・・)
討伐ルートを回避したい私は、そう心に決めつつ、彼らの待つ食事の場へと向かった。
応援ありがとうございます。面白い、続きが気になると思っていただければ、画面下部から
評価していただけると、とても嬉しく、励みになります。コメントも随時募集していますので
「ここをもっとこうしたほうがいい」や「ここが良かった」など書き込んで頂けると嬉しいです