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000 こんにちは(プロローグ)

――こんにちは、みなさん。メンヘラ系女子、夏野恭子というものです。


――突然ですが、私は死にました。確実です。


――最初はここだって、時折あった自分でない時間のときと、とてもとてもそっくりなのでそれかな、と思ってましたけど、俯瞰視点でみえているはずのものも見えないし、ああそういえば、首を吊ったなと思い出しましたので、死んでいるのだと思う次第です。


――っと、そんな主観はさておき、ついさっきまで私は製菓が得意なヘンリーおばさんからパンを預かって自宅へ帰る途中でした。いや、そうらしいです。多少は覚えています。それは、何度か思ったことです。


――異世界にでも行きたい、と。できることなら平和平和に生きるだけのモブに、精神を病ませてくるようなマウント大好き都合が悪いことは忘れるマン達のいないそんな世界を夢見たものです。実際この村にはいませんでした。


「オォーイ、お嬢ちゃン? 死ぬかラって、呆けテルのかァ?」


――それは嬉しい、嬉しいことです。たまに叱られたり、褒められたり、夢に見たような闇の落ちない世界。


――ああでも、今死ぬ理由に足りないかな。もう少しだけ褒められていたい。


 犬のような口、恭子よりも高い背。その爪は長くて鋭く、振り上げられている。

 先程まで転んで反転、そちらを見据えるようにしながら後ずさった姿勢のままの恭子。少々じと目の、淡い水色の瞳、ゆるくウェーブのかかった、長い藤色の髪。地味子なんて言われた前世の夏野恭子のそれではない。心なしか、胸も大きい気がする。


「なァ、さっきマでの悲鳴ハどうシたァ? つまラネェじゃねェか」

「だって、死んでもいいかなって思うし、死んだら褒めてもらえないし、困ってる」

「ほォ、デもそれハ無理だゼ。村人ナんてもうお前イがい生きてネェよ」

「あー、そっか。でも、もし私がここですっごい力なんて使えたらさ、褒めてくれる人はいそうじゃない? だってこの世界はやさしいけれど、何の理由もなしに褒めてくれるひとはまだあってないもの。子供だから、女だから、はこの世界多いものね。それはどうやっても選んで手に入れるものじゃないし――」

「アー、御託娘ニなっちまッタ。狂っタやつァつまらないネェ――ッ」


 淡い水色から――黒壇の色をした、目が光もせず黒く。



――こんにちは、皆さん。この世界での私の名前はユアと言います。お花の名前らしいです。日本で見る藤の花にちょっとにてました。田舎の方は姓をもたないので、名前しかありませんが。


――突然ですが、生きてます。


――たしかにここは天国と見紛うような白く輝く水晶と、鍾乳石のブロックでできたお城の中ですが、目の前の髭をたっぷり蓄えたおじいさんは王様ですし、私の斜め前には黒と銀の思ったほどゴツくない鎧をきた男性、勇者さんがおられます。


――っと、また主観的でしたね。あの黒い魔物はあのまま死んでしまいました。靴に画鋲、といっていたのが気がかりではありますが、自害です。そもそもあの魔物さん、靴履けるんですかね?


「で、その娘が報告にあった、黒魔法で魔物を倒した娘かの?」

「ええ、そうです。目の色が光も通さない黒になっているのを見ました。おそらく精神に関わる魔法を得意とするのでしょう、魔物は不可解な言葉と同時に死を選びました」


――あれ、そうなの? 靴に画鋲ってそんなに世の中辛いのかな、豆腐では? あっ、黙ってるようにいわれたので、黙ってるだけです。ちゃんと膝をついて、頭を垂れてますよ。


「黒、黒魔法か……。本当に、大丈夫か」

「ええ、報告書に記載しました提案の通り、意思は変わっておりません」


――はて?


「このユアを、我々勇者の一団に迎え入れます」


――……ん?




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