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オトナだけの町  作者: 佐原凍理
1/2

前編:オシマイと完成

そんなに怖くないです。狂気を感じていただけると幸いです。

 あるところに、何もかもを否定する少女がいました。少女は肯定せず、その否定の対象は少女自身にまで及んでいました。

 あるところに、健全で模範的なまでに平凡な少年がいました。少年は絵に描いたようなありきたりの少年でした。

 二人はとても仲が良く、よく一緒に話していました。何か軽い口論になったとき、少年はいつも少女に言い負かされて、困ったような表情を浮かべていました。

 ある日、少年がおつかいを頼まれました。ちょうど切らしていたタバスコを買うためです。そこで、少年は少女を誘うことにしました。一人で行くより、二人で行った方が楽しいと思ったからです。勿論、少女はそれを否定し、拒否しました。

「嫌よ、私は行きたくないわ。一人で行けばいいじゃない」

しかし、そう簡単に諦める少年ではありません。

「お願い、一緒に行こうよ。お姉ちゃん」

と押してきます。

 すると、珍しいことに少女は拒否することを否定しました。

「仕方ないわね………そろそろ頃合いだろうし、良いわよ。本当はもう少しだけ残っていたかったけど、その想いも否定するわ」

普段なら詭弁や虚言を用いてでも拒否するであろう雑用を、少女は何故か比較的簡単に許容してしまいました。その気になれば簡単に拒否できるだろうに、少女はそれをしませんでした。

 少年と少女の住む町は住民達が親切で挨拶の声が絶えない町なので、スーパーへ向かう途中でも声をかけられました。

「やぁ、こんばんは。早くお家に帰りなよ」

「宿題がおわらないと、おやつ抜きだからね!」

「早く僕の包丁返してよ、おじさん」

少年はどれにも元気よく挨拶を返し、少女を沈黙したままその様子を悲しげに見るだけでした。

 二人がスーパーに着くと、不思議なことに店員さんが誰もいませんでした。しかし、少年が声をかけると奥から一人のおばさんが出てきました。おばさんの手に強く縄の痕がついていたので、疑問に思った少年が尋ねると、おばさんは答えました。

「天気が悪くなりそうだったからね、店長でてるてる坊主を作っていたのよ」

そう答えるおばさんの頭に、外からの眩しい日射しを受けて光る髪留めを見た少年は、それもどうしたのか尋ねました。あまりに綺麗だったので、気になったのです。少年ときたらもうすっかりおばさんに夢中で、おつかいのことを忘れています。そんなおばさんと少年の微笑ましいやり取りを見ても、少女はただため息を洩らすだけです。おばさんが言うには、たまたま新しい髪留めを持ってきていた日に、店長がうっかり転んだ拍子に壊してしまったので、新しいものに変えたそうです。だからあんなに綺麗だったのですね。

 結局、少年は何も買わないままスーパーを後にしました。少女もそれに着いて行きました。帰り道の途中、少女は突然

「スーパーに忘れ物をしてしまったかもしれないわ。先に帰っていて頂戴」

と言いました。少年は特に疑うこともせず、

「じゃあ僕は先に帰るね、お姉ちゃん」

とだけ言い残して、帰っていきました。ですが、実は少女は嘘をついていました。本当は忘れ物などなかったのです。

 少年と別れた少女がスーパーに着き、中におばさんの姿を認めると、開口一番

「私もてるてる坊主にして」

と言い放ちました。

 そんな少女におばさんは驚きもせず、

「そうねえ。まだ天気は悪いし、それもいいかしら」

と相変わらず眩しい日射しを浴びながら言いました。その頭には先程と同じ、綺麗な髪留めが光っていました。それを見た少女は、近くにあった買い物カゴをおばさんの頭めがけて勢いよく振り下ろしました。幸いおばさんは無事でしたが、おばさんの髪留めは真っ二つに割れてしまっていました。そんなことをされたにも関わらず、おばさんは怒りませんでした。ただ、おばさんは淡々と

「じゃあお前もからからにしてやるよ、クソガキ!」

とだけ言い、素早い動きで少女を殴って気絶させると、奥の部屋に連れていきました。


 その日の夜、スーパーの裏口には二つの大きな逆さのてるてる坊主が吊るされていました。てるてる坊主はもう何も話しません。少女が間際に目覚めて呟いた

「ごめんね、お兄ちゃん。救えなくて」

という言葉も、今となっては虚しいだけです。かくして、この町にいらないものがいなくなったのでした。めでたしめでたし。

読了ありがとうございました。よろしければ感想をお願いします。

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