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8話 『叫び』

「交通事故ですか!」


 暁が驚く。


「ええ、2年ほど前にですね」


 暁は、子供の父親と公園のベンチに座り談話をしていた。

 

「私が目を離した隙に、あの子が道路に飛び出しちゃいまして。あの時はもうダメかと思いましたよ。手術をしてくださった先生でさえ、あの状態からの回復は奇跡としか言いようがないと」


「そんな、大変なことがあったんですね……それでも、今はあんなに元気で遊んで、立派に育っているようで」


「本当に、愛しい子ですよ。むしろ、あの事故以降からですね、前より明るく元気な子になったようで。一瞬のことでしたから、事故もほとんど覚えてないみたいで、トラウマにもならなくてよかったと思ってます」


 暁は顎に手を当てて少し考え込む。



 権は、水飲み場の水道で、足の傷口を洗っていた。

 そこへ先程の子供がやってきた。

 しかしこの子供、権には普通の人間じゃないという確信をすでに持っていた。

 

「お兄ちゃん、怪我痛い?」


 子供は、心配しているような、好奇心からかのような不思議そうな様子で聞いてくる。


「いや、慣れてるから大丈夫だ」


 とはいえ、特になにも子供としておかしいところはない、年相応の態度。

 むしろ普通の子供といった様子。

 

「お兄ちゃん、名前はなんていうの?」


「火狩権だ」


 名無しが名前を聞くのは本能からによるものだ。

 しかし、権にとってはそれは全くの意味のないこと、相手を試すかのように堂々と答える。

 その答えに対し子供は、何か不自然な様子になる。

 

「火狩権……あれ? 違う……そっかお兄ちゃんも大翔と同じなんだね!」


「お、同じ……? 俺が……」


 なにか、物凄い嫌悪感を感じた。

 それと同時に不安が権の胸の内をぐるぐると巡る。

 「この子供と同じ」、その言葉が強く引っかかった。

 追い出そうと拒否するが、そのもやもやは剥がれない。



「さあて! 大翔、帰るぞー!」


 父親が子供を呼ぶ。


「お兄ちゃんまたね!」


 子供は笑顔で権に手を振る。

 その表情は曇った思惑も何もない、ただ純粋な子供の笑顔だった。



「子供の方、どうだった?」


 暁が権によって来る。


「……」


 権はうつむいたままだ


「……おいどうした、権?」


「……え? ああ、なんでもない、名無しだったよ」


 権は、ハッと我に返る。


「そうか、親の方は名無しではないみたいだ、となると複数の名無しが手を組んでいるわけではなく、単独でその家族に溶け込んでいるみたいだな。親の話によると、2年前に事故にあったみたいで、それから人が変わったようになったそうだ。多分そこで憑かれたんだろう。恐らく大翔君本人も、もう消滅しているだろう。人を襲っているし、討伐対象には確定だ、明日家を訪ねてそこで倒そう」


 淡々と暁は話す。

 権はぼんやりと聞いていた。




 次の日

 暁たちは、その子供の家に来ていた。

 今回はいつものように二人だけではなく、数人の警察も同行していた。

 その日はちょうど土曜日、休日だったようで、家のインターホンを鳴らすと昨日の父親が出てくる。

 警察をふまえた大所帯に父親は動揺をする。


「昨日の火狩さん……ですよね? どうしたんですか突然」


「ええ、ちょっとお話がありまして、中に入れさせてもらってもいいでしょうか?」


「えっと……いいですけど、そちらの方たちは?」


「すみません、こうゆうものです」


 後ろから警察が一人出てきて警察手帳を見せる。

 父親は、驚きからかなぜか口角が引きあがる。


「どうぞ」


 家に案内されると暁はソファに座る。

 権や警察たちも勧められるが、遠慮して後ろに立った。

 そして低いテーブルを隔てて向かいのソファに父親が座る。

 母親が急いでお茶を出す。

 暁はお茶を飲んで一息つくと、眉一つ動かさず淡々と話し始める。


「突然お邪魔してすみません、私共は霊斬り申しまして、簡単に言いますと公にはなっていませんが国営の霊媒師でございます。今回訪問させていただいた件はお宅のお子さんについてになります、単刀直入に言わせてもらいますが、大翔君は悪霊です。正確に言いますと、大翔君の肉体に他の人の魂が入り込んでいる状態になります。実は2年前の交通事故の際に大翔君は既にお亡くなりになられたようで、そこで悪霊と入れ替わった形になります。つまり、この以降の2年の間、大翔君の中には悪霊が入って生活をしてい……」


「ちょ、ちょっと待ってください! どうゆうことなんですか、いきなり家に来て悪霊だとかなんだとか、宗教の勧誘ですか?」


 父親は前のめりで、話を遮る。

 後ろの食卓の方では大翔と一緒に母親が不安そうにその様子を見つめていた。


「いえいえ、宗教とかは関係なくこの世に霊は存在しますよ」


 暁は少し、こわばった表情を緩めた。


「そうゆうことじゃなくて、非現実な訳の分からないことを言わないでくださいよ! 昨日のお子さんを怪我させてしまった件は本当に申し訳ありません、心より謝罪させてもらいますから!」


 父親は異様な状況からか少し興奮気味に話す。


「全くふざけてませんよ、それなら警察なんて呼びませんよ」


 暁は父親を睨みつけると、父親は気圧された。


「権の怪我は大したものじゃありませんよ、あんなのつばつけときゃ治ります。それより、お子さんの状態の方がもっと危険です。まあいきなり幽霊とか言われても信じられないのは当然ですよね」


 そう言うと、暁は後ろを見る。


「権」


 暁にそう呼ばれると、権は刀を取り出すと親指で(つば)を上げ、鞘の隙間から刃がのぞいた。



「我が右腕は業火なり」



 すると、権の右腕は業火の鎧を纏う。

 手のひらからは少しの炎がゆらゆらと漏れ浮かぶ。


「えぇ!?」


 権と暁を除き、そこにいる人ら全員がその異様な光景に驚く。

 それを気にせず暁はお茶を飲み終えた。


「これで、理解できましたか? そうゆうものも確かに現実にあるということを、なんなら私からも見せられますけどね」


 暁が父親に腕を見せつけると、その腕にも鎧が纏われていた。

 その鎧からは普通の鎧とは思えないほどの輝きが広がる。

 その非現実的な光景に、一つの言葉もでないが父親の口は大きく開いていた。


「大翔君の中の悪霊は退治させてもらいますが、当の大翔君は既にこの世にいないと思われます。過去の資料を調査したところ2年前の事故後、その現場周辺で一体の小型の名無しが霊斬りによって消滅されていました。おそらくそれが本当の大翔君だろうと思います。そのことに関しては、私たち霊斬りの責任です申し訳ありません。大翔君は事故死扱いになり補償金も出ます」


「全く、訳が分かりませんよ! 悪霊だの本当の大翔だのと、大翔に本物も偽物もないですよ! 金も何も要らない! 帰ってください!」


 父親は立ち上がり、暁たちを外に出そうとする。

 父親は理解しようとする気はない、しかしそれは我が子を思えば当然の行為である。

 だが、名無しは倒さなければならない、次の被害者を出す前に。


「しかたない、強行させてもらいます」


 権が刀を出す。


「逃げるぞ! 大翔!!」


 母親が大翔を抱きかかえ家を出ようとする。

 そこへ警察が肩を取り押さえようとする。


「どいてくれ!」


 父親が警察を押し飛ばすが、母親は転んでしまう。


「逃げて!」


 警察に取り押さえられた母親は叫ぶ。 

 父親は迷いを捨て去ると、大翔を抱えて家を出た。

 

「権、行くぞ」


 暁は立ち上がると、権と共に家を出て追いかける。



「この子は渡さない! もう絶対に失いたくない!」



 父親は泣きながら走る。

 抱きかかえられた大翔は、腕の中で不思議そうに父親を眺めていた。

 すると目の前に権が現れる。


「なんで、君がここに……!?」


「もう、逃げられませんよ」


 父親の後ろにはすでに暁がいた。


「2年前の事故で大翔くんはすでに死んでいます、今大翔くんとして生きているのは、本当の大翔くんじゃないんです!」

 

「そんなわけないだろ! 俺たちはずっと隣で大翔の成長を見てきたんだ! 大翔は俺の子だ! そうだよなぁ!? 大翔!」


 父親は大翔に問いかける。

 大翔は不思議そうに父親の問いに首をかしげる


「大翔はね、ほんとは大翔じゃないんだよ?」


 子供らしい純粋に本心から言ったような言葉。

 

「へっ……?」


 父親の頬に汗が伝う。


「やるしかない……」


 暁は父親に近寄る。

 ハッと我に返った父親は寄るな寄るなと腕を振り回すがその腕を掴まれて暁に取り押さえられ大翔は父親の腕から離れた。

 

「ひ、大翔ぉ! 逃げろ!」


「権! やれ!」


 二人の叫び声が轟く。

 なにもわかってない大翔に対して権は刀を構える。

 権は父親の顔を覗くと、鼓動が高まった。


「やめてくれぇええ!!」


 耳に響くその声を胸から追い出し、固く刀を握る。


「うわぁああ!!」


 権は叫び無理やり鼓舞して大翔の体を刀で突き刺した。

 音が聞こえなくなる。

 刀を引き抜くと、そこから黒い煙が出てき、それをまた切り伏せた。


「あああああああああああ!!!!」


 暁が手を離すと、父親は頭を抱えて泣き叫んだ。

 権はただそれを力が抜けた体で呆然と見ていた。


「どうしてこんなことができるんだ! この『()()()()』!!」


 父親は真っ赤に晴れたその瞳で、権を睨みつける。


「あ……あぁ……」


 権は体中が震え刀を手から落とす。

 今にも飛び出しそうになる胸を手で抑える。


(この感覚……また、俺は……)

 



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