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7話 『探索』


 男は両手を強く握り祈るようにして、頭につける。

 瞼を大きく見開くが、その目はどこを見てるのか。

 女は長椅子に座り時折甲高い声やうめき声を出しながら、ただただ泣くばかり。

 両者とも、ひどく絶望した様で、ただ一つの言葉を、目の前の何もない空間に向かって何度も何度も呼びかけ続けた。


大翔(ひろと)……! 大翔(ひろと)……! 大翔(ひろと)……!」


 手術室の扉が開くと、中から医者が出てきた。





「ただい……」


 最後まで言わずに口を閉じる


「……ええ……はい、換場町(かんばまち)付近ですね?……」


 高校から帰ってきた権が居間に入ると、暁が携帯電話を耳と肩に挟み、メモを取りながら通話をしていた。

 権はこっそりと音をたてないように、バッグをソファに置く。

 台所へ行き、冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぎ、飲みながら居間へ戻る。

 暁は、権に気づくと手で招き、通話をしながらにメモ帳を見せた。


『名無しが出た 準備しとけ』


 メモを見ると、麦茶を飲み干して権は速やかに支度を始めた。

 自室に行き、着替えをして、刀掛けから業火刀を取り、刀袋に入れて背負う。

 そしてまた居間へ戻ると通話を終えた暁がいた。


「おかえりぃ、ちょうど霊導寺から指令がきててな。早速だがすぐ出掛けるぜ」


「わかった、準備はできてるよ」


「ここ半年、換場町(かんばまち)周辺で人が突然意識失うって事例が多々あってな。その全員の意識不明者は名前を呼びかけると意識を取り戻したようで、どうやら名無しの仕業だろうということで連絡がきた。霊導寺によると、まだ名無しを特定するまでには至ってないらしい。ただ時間帯が、夜の時間6時以降は全くなく夕方の時間帯が一番多かったらしい」


「へえ、珍しいな、日中に活動してるたぁ、死人らしくねえな」


「とりあえず行って調べてみよう。先行っててくれ、俺も準備したら向かうから」


「わかった」





 小走りで走っては目を閉じ気配を探る、権はそれを何度も繰り返していた。

 名無し探索は、なにも手掛かりのない場合、事が起こるまではこれしか探索の方法はない。

 名無しの気配を察知することは普通の人間にはできず、霊感が強い人でも数メートル程度までしか察知はできない。

 しかし霊斬り達は、それぞれに斬り名(きりな)と呼ばれる、仮名を持っている。

 本来の名を伏せ仮名を持つことで、名無しと近い状態になり、察知能力が得ることができるのだ。

 ただし、この能力は個人差があり、普通の霊斬りも数十メートル程で、長くて50メートル程。

 しかし、本名を知らない権はこの能力に秀でていた。

 調子にムラはあれど、100メートルは優に超える程である。

 だが、今回の曖昧な場所指定に捜索は困難をしていた。

 

 一方暁も権と分かれて連絡を取りながら、名無しを探していた。

 暁は、権ほど察知能力も高くない、そのため権とは違うアプローチで名無しを探す。

 暁は歩道の先を歩く一人の買い物帰りの主婦を見つけると、迷わず近づいて行った。


「すみません、ちょっとお話聞かせてもらってもいいですか?」


 突然の声掛けに主婦は驚く。

 

「私、役所の治安維持の者でして、最近ここら辺で人が突然意識を失うっていう事案がありまして、なにか心当たりにあることはございませんでしょうか?」


 全くもって怪しい話だが、少し暁を怖そうに感じていた主婦も、暁の顔を見て目を変えた。

 堀が深く整った顔、低く落ち着いた声、鍛え抜かれた身体、まさにマダムキラー。

 暁は主婦への聞き込みを避けられたことは一度もない。


「ああ、聞いたことありますよ。私の聞いた話だと……そう、そこの公園の方じゃなかったかしら」


「公園の方か……ご協力ありがとうございます!」

   

 主婦に軽くお辞儀をすると、暁は公園の方へむかってまた走り出す。

 道を走っていると、道路の向かい側にある公園が見えてきた。

 ブランコと滑り台と砂場という小規模の公園だ。

 すると、公園の入り口からコロコロとボールが道路の方に飛び出してくると、それを追いかけて5歳くらいの子供が出てきた。


「まさか……!?」


 すでに、近づいてくるその音は聞こえていた。

 暁は振り向く間もなく子供に向かって走る。


「坊主! あぶねえ!」


 暁の横を通り過ぎ、今にも子供に車にぶつかりそうになったその時、暁の前を一つの影が横切る。

 その影は暁のよく知る人物、権だった。

 権は、道路をまたぎ、車と子供がぶつかるギリギリのところで子供を抱えると、そのまま前方に転がるようにして、車から避けた。


大翔(ひろと)! 大丈夫か!?」


 公園の中から一人の男性がひどく心配した様子で出てきた。

 おそらく、この子供の父親なのだろう。


 子供はキョトンとした様子で権の手のもとから離れると、父親に抱きかかえられた。

 権はというと、割と落ち着いた様子で起き上がる。


「ああ、大翔……本当によかったぁ……またお前を失うかと思ってひやひやしたよ……」


 父親は、子供を強く抱きながら、しみじみと心を安心させる。


「君、本当にありがとう!」


 父親はまさに、心から感謝を述べた。 


「権! 怪我はねえか!?」


 暁もボールを抱えて道路を渡り権に近づいてくる。


暁鬼(あかつき)さんも来てたのか、俺は……」


 権は立ち上がると、足の方に少し痛みを感じる。

 腰をねじり下を見てみると、右のももに擦り傷ができており血が流れていた。


「ちょっと、地面と擦れちゃったか。まあ、子供は無事だし……!?」


 権はなにか違和感を感じた。

 その様子を見ると暁もまた、『それ』を感じとる。

 権と暁がおなじところに集まった理由。


「ここに……いる……!」


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