15話 『野外イベント』
大口を叩いただけあって、確かにハリーは強かった。
この管轄区域の通常勤務に参加したハリーは、参加してからわずか数週間足らずで、いくつもの戦果を挙げていた。
しかし、何も問題がないということではなかった。
管轄内では組ごとに警備する区域も分かれているのだが、ハリーはそれを無視し、ほかの組の警備区域にて名無しと戦闘するなどの勝手な行動なども少なくなかった。
その行動は権達の警備区域にも及び、最初の内は、まだ霊導寺のルールをわかってなかったり、慣れてないのかと大目に見ていたが、次第に数が増えるにつれ流石に注意をしたが、その度にハリーは素っ気なくまるで当然のことをしたかのような態度をとり、全く反省の色を見せなかった。
そんな問題も解決する間も無く、例の名無し討伐の目処が立ったらしく、ハリー等と権たちは、再び霊導寺に集められた。
「今回の作戦は、少々危険が伴います。それはあなた方だけではなく、民間人にまで及ぶ可能性もあります。というのも、名無しの特性により今回最も名無しの出現しやすい場所は、3日後この町で開かれる、少々規模の大きい野外イベントになります。そこで皆さんで協力して名無しを見つけ、倒してください」
「そりゃ相当危険じゃねえか! 確実に他人の目に触れますよ。何か策はあるんですか?」
焦りながら暁が和尚に聞く。
和尚もバツの悪そうな顔をする。
「一応イベント運営側にも話は通しておきました。名無しを見つけ次第、イベントを即中止し、一般客の避難誘導に努めて貰う事にはなってますが、極秘任務の為運営側でも事が起きるまでは上層部以外には秘密という事になってますので、すぐさま綺麗に避難できるとは限りません」
「って事は単純に一般客の囮作戦ってことか、フンッ日本もなかなか面白い事をするね」
「お兄様言い方ってものがありますよ!」
ハリーが皮肉めいてボソッと呟き、エイミーが注意した。
「悪く言えばそうなりますね、全くその通りです。その為、今回の作戦は絶対失敗できません。しかも今回の敵は相当強く、もし失敗した場合は甚大な被害が及ぶ可能があります。だからこそすぐさま発見し、素早く倒していただく為、皆さんの連携が必要不可欠なのです」
「連携って、ただでさえ現状ロクに規則も守れない奴がいるのに、どうやってやるってんだよ、なぁ!?」
権は誰もいない方を向いて発言するも、言葉を向けている相手は当然決まっている。
「ああ、確かに普段から人に獲物を横取りされるくらいの腕の奴らと良い連携が組めるとは思えないねぇ」
「なんだと!?」
権とハリーは近づき、まさに喧嘩が始まろうとしていた。
「いい加減にしなさい! 今回は大勢の命がかかってます。なんとしてでも成功しなくてはいけないのです!」
和尚の声が響いた。
暁が2人の間に割って入る。
「和尚の言う通りだ。今回は2人の間の問題じゃ済まねえ。こんな状況じゃ一般人どころじゃなく俺たちも死ぬ。そこんところよく考えて行動するんだな、いいか?」
暁が睨み合う2人に言い聞かせる。
「足手まといにはならないで欲しいね」
「ハッ、どっちがだ」
捨て台詞を吐いて立ち去るハリーに、権は最後まで噛み付いた。
3日後、予定通り野外イベントは開催された。
会場内は多くの屋台や売店などで賑わっている。
大勢の来場者の中、権たちは、広い会場内を一人一人分かれて、名無しの捜索をしていた。
「ちっ、中々見つかんねえなぁ。こう広く、人もいっぱいいると、俺の探知能力でも厳しいな」
中々見つける事に難儀し、権は焦っていた。
「ねえ、ちょっと君ー!」
今日はもう何回目だろうか、急に横から声をかけられた。
また、売り子の宣伝だろう。
「俺は今忙しいから何も買わない!」
「やっぱりそうだ!」
売り子に向かって叫んだと思ったら、なんとその声の主は花だった。
「久しぶりだね〜、へぇー権もこうゆう所に来るんだ」
花はなんだか嬉しそうに笑顔で話しかける。
「は、花か! どうしてこんなところにいるんだ!?」
「なーにそんなに焦っちゃって? バイトよバイト」
なんてことだ、とことん運の悪い女だと、権は頭を抱える。
「ったくこんな時に限って、バイトなんかすんなよ」
「何? 私がバイトしてちゃ悪いわけ? 私だってしたくてしてる訳じゃないのよ! ただお金が無いのよ! 貧乏学生で悪かったわね!」
「そうゆう事を言ってんじゃねーよ。いいか、今すぐここから……!?」
ぞわぞわぞわ……
権は突然背中の方から嫌な気配を大きく感じた。
直後後ろの方で悲鳴が聞こえた。
権はすぐさま走り出した。
「あそこか!」
「ちょ、ちょっと! 何……まさか!?」
花も権を追った。
逃げ惑う人々をかき分けて、悲鳴と気配のあった場所に着くと、そこには不気味な気配をした男性と、5、6人かの人が倒れていた。
「な、なにこれ……!?」
花が見た光景は驚くべき、異様なものであった。
そこには不気味に立っている男性だけでなく、倒れている人と、全く同じ人数で、顔も姿も同じ人が立っていた。
正確にはただ立っているだけではなく、その姿は薄く透けていた。
まさに幽霊というような状態だった。
「名無しにされたか、でも身体と離れたばかりだろうからまだ助かる! 奴が元凶だな!」
権は、ただ1人その中に立つ不気味な男に、刀を抜いて斬りかかった。
男は権に気づくと攻撃をひらりと避けた。
「君の〜、名前は?」
男の問いに答えず、権はまた斬りかかる。
人間とは思えないふらりとした動きで、男は権の攻撃次々と避ける。
すると男は急に権に顔を近づけた。
「なんだ〜、教えてくれないのかい?」
吐息混じりの声で、権の耳元でそう呟いた。
近くではっきりと見ると男の瞳孔は完全に開いたままで歯を見せて口元は笑っている。
権は異様な恐怖に包まれ、心の中でなにか気が抜けて、戦いの中で呆然としてしまった。
「権!」
花の叫びに気を取り戻すも、もう遅く、権は顔を男に強く掴まれて投げ飛ばされた。
大きく飛ばされた権は、野外食事用の長テーブルをぶつかりって折り、パイプイスの群れに流れ込んだ。
花が近づいてくるも、その後ろに男が追って来る。
「来……るなぁ!」
権が痛みに堪えながら叫ぶも、男はすぐにでも花に襲いかかろうとしてる。
「そこかぁ!」
叫び声と同時に何者かが男に飛びかかった。
男はひらりと避けると距離をとった。
権と花の前には、ハリーが堂々と剣を構えていた。




