12話 『名無しの霊斬り』
どうすればいいんだ、俺はなんなんだ。
フラフラと歩いていると、公園を見つけた。
なんだかどっと疲れた。
ブランコを見つけ、なんとなく座るも、揺らさずに膝に腕を置く。
ふと顔を上げると、まだあの女がいた。
もう、ついてくるなと突っぱねる気持ちにもならない。
特に話しかけるわけでもなく、心配そうにこちらを見ている。
そりゃ、そうだよな。
こんな訳の分からない奴が何を悩んでいるかすらも理解できてないだろう。
当人の俺すら理解できてないんだから。
いや、こいつならどう思うんだろう。
「なあ、俺は何者なんだ、どうしたらいい?」
「なに? 突然……」
花は焦りながら苦笑いをする。
急で、わけのわからない問いに戸惑っているようだ。
そうだな……話してみるか。
『アタシを見ろ!』
刹那の最期の時を思い出す。
「霊斬りになった最初の時からだ、俺のせいで人を殺した。助けられなかった」
下を見ながら話す。
花がどんな表情で聞いているのかはわからない。
『この人でなし!』
先日の、父親の叫びを思い出す。
「この間は、一つの家族を滅茶苦茶にした。俺が幸せを奪ったんだ」
『邪魔だ、この場で斬る』
「……しかも、さっきはお前に手をかけようとした。霊斬り失格だな」
顔を上げられない、花の顔を見れない。
どう答えたらいいのかわからないのだろう、二人の間で沈黙が続いた。
すると突然、ポッケから携帯の音が鳴る。
「でないの……?」
ぎこちなく花が聞いてきた。
「あ、あぁ」
言われるがままに、電話に出る。
「もしもし! 権、今どこにいる!?」
携帯から花に聞こえるほどの大きい暁さんの声が聞こえ、思わず耳から遠ざける。
「名無しが出た! 今は近くにいた『紫電』君が一人で応戦している、至急応援してくれとのことだ」
また、名無しか……正直、今の俺には戦える気がしない。
「どうした、権!?」
かといって、そんなことを言えるわけでもなく、黙ってしまう。
「ごめん……暁さん……」
苦しい、罪悪感が胸を蝕む。
「そうか……わかった、応援は俺だけでいく。そう、気に病むんじゃねえよ! お前は気をつけて帰れよ」
暁さんは察してくれたんだ。
その優しさもまた、俺には辛い。
電話はプツッと切れた。
「ハハッ、ほんと腑抜けちまったな。霊斬りとして、人も守れないし、ましてや、手をかけようとした。一番最初にお前が言ったみたいに俺は人じゃなく『名無し』かもしれないな……」
目頭が熱くなる。
「さっき権の家に行った本当の理由はね、私、暁さんに聞いたんだ。権の写真は無いかって、アルバムは無いかって」
そのために、花は家に来ていたのか。
そんなものはあるわけがない。
俺は普通の人間じゃないんだ、写真には写らない。
「そしたら、本当に無くてね。私、信じられなかった。だって私はずっと写真と一緒に生きてきたんだから、そんなこと、考えられなかったんだ」
それは、そうだろうな。
短い付き合いだが、それはだけはわかる
危険を冒してまでも写真を撮るほどだ、こいつは本当に写真が好きなんだろう。
「私、霊斬りがどんなものなのかとか、権の本当の名前を探すとかより、何よりもただ純粋に知りたかったんだ。権が今までどんな風に生きてきたのか。小さかった頃の権はどんなこだったのか。でも、楽しかった思い出も、成長や、人生も、何一つ写すことができなかったなんて、私……」
花の声が震えている。
なぜ、花が悲しそうにするんだ。
なぜ、花が泣くんだ。
「でもね」
いきなり、花が俺に抱き着く。
「関係ない! 権が何者かなんて関係ない、ちゃんとここにいるんだ!」
グッと、抱きしめられ、その声は耳の後ろに聞こえた。
権の胸が騒ぐ。
「権の胸の音が聞こえる。ちゃんとここに生きている。権は聞こえる? 私の胸の音」
静かに目を閉じる。
花の温かい温もりの奥に、ドクドクと、鼓動は聞こえた。
「さっきだって、私は何度も権に助けられた。だから私はここにいるの。失敗とか、後悔とかあったかもしれない、だけど」
花は、手を掴んで、俺の目を見つめる。
「権のおかげで生きることができている人もいるんだ。だから……ありがとう、権!」
花が、微笑む。
あぁ……そうか……
今まで俺は何の為に戦っているか、わかっているようで、わかっていなかったんだ。
なんとなく戦っていた、だから覚悟が鈍っていたんだ。
「感謝をするのは、俺の方だったな。ありがとう、花」
久しぶりに心から笑えた気がする。
「このっ!」
槍を持ち、戦国時代の足軽のような恰好をして、鉢巻を付けた背の高い男は、名無しに苦戦をしていた。
彼は、『紫電』
25歳で、権と同じ管轄区域の霊斬りだ。
「『紫電』さん! 待たせた!」
そこへ、権が駆け寄ってきた。
「権君来てくれたんだ! 一人じゃ大変だったんだ」
紫電は、槍を大きく払い名無しと距離を取る。
権は刀を持ち上げると、強く握りしめ、目を閉じた。
「そうだ、名無しか人間かなんて関係ないんだ。俺は……人を守るために、『霊斬り』として戦う!!」
目を大きく見開き、刀を構える。
「「 我が名は『業火』!! 」」
刀を鞘から引き抜き、権は業火の鎧を纏った。
その鎧から、噴き出る炎はいつも以上に燃え滾っていた。
「紫電さん、俺がやる!」
「わかった!」
紫電が、槍で徐々に左から攻めると、やがて後ろに回り込み、権と紫電で名無しを挟む形になった。
「退路は断った! 権君、後は任せた!」
「ハアァッ!!」
雄たけびを上げながら権は名無しへ突っ込む。
その声に反応するように、刀から炎が轟轟と放たれる。
名無しは紫電から、権の方に向きを変えるも、その一撃には耐えきれるはずもなかった。
「権君、なんか大人になったねえ」
戦闘を終えた紫電が権のもとに寄ってきた。
「そう……ですかね? 確かに(覚悟は決まったかな)」
「うん、身長伸びたでしょ?」
「そっちかい!」




