11話 『戸惑い』
権が学校から家に帰ると、なにやら家の中からにぎやかな声が聞こえてきた。
「ねー、見てくださいよこれー!」
「おお! こりゃいいな!」
楽しそうに会話する女性と暁の声。
今まで暁と親しい女性が家に来たことはあっただろうか、相手に全く見当はなかったが、権はその声だけは聞き覚えがあった。
居間への扉を開けると、沢山の写真を並べたテーブルを囲んで暁と花が楽しそうに会話をしてた。
「なんでお前がここにいるんだよ」
権はしかめっ面になる。
「よぉ、おかえり! 花ちゃん遊びに来てるぞ!」
「おかえり権! 見てこの三太郎の寝相! 溶けたチーズみたいになってるの!」
花は、老人から預かった猫の写真を見せびらかす。
「こりゃいいとこ撮ったねえ! あの時よりさらに太ったんじゃねえか? ほら権、お前もこっちに来て混ざれよ!」
暁が手招きをする。
「いいよ、俺はこれから見回りに行くから」
「かーっ! つれないねえ。いつも忙しいな」
「暁さんも同じ仕事だろ!」
「いってらっしゃ~い」
暁は苦笑いでごまかす。
権はため息をついて肩を落とす。
「あ、私も行くよ」
花は顔を輝かせて椅子から立ち上がる。
「はぁ?」
「いいじゃねえか、そうそう名無しなんて出るもんじゃないし、デートでもして来いよ」
暁はテーブルに顎肘をついてにやにやとしてる
権はこめかみに血管を浮かべると、ぷいっと背を向けて部屋を出る。
花もその後ろについていくと、バッと花を睨む
「部屋で着替えるんだよ!」
「いやん!」
花は恥ずかしそうなふりをする。
見回りをしながら、権はずっとあの時のことを考えてた。
『人でなし!』
あの子供の父親に言われたその言葉がずっと頭の中をグルグルと巡る。
どうにかできなかったのか、そんなことを考えても永遠に答えは出ず、また、やり直すこともできないはずなのに。
「ねえ、聞いてる!? 権ってば!」
横から花の声が聞こえてきた。
「ん、なんだよ」
「もー、ちゃんと聞いてよー! これがね、私の一番好きな写真!」
花が権の前に1枚の写真を出す。
幻想的な森林の中に、日の光を浴びてポツンと佇む木造の一軒家の写真。
「なんだこれは?」
「私が4歳のころにね、家族で旅行に行ったの。その時初めてお父さんにカメラを貰ったんだ。もう嬉しくて嬉しくて、いっぱい写真を撮るために家族と離れて一人で色んなところ歩き回ってたんだ。そしたら、どこかわからない森の中で迷子になっちゃって」
花は懐かしみながら語る。
「泣きながら森を歩いてたら、この家を見つけたの。暗い森でその家のある所だけが光輝いているのが、なんか神秘的で、泣くのも忘れちゃって自然と写真を撮ってたんだ。それがこの写真。そのあとその家に住んでる夫婦に助けて貰ったの」
「ふーん」
写真に興味もない権でも、なぜかその写真に暖かい気持ちになる。
「私の夢はね、大物写真家になってもう一度この写真の家に行って、その夫婦にあなたたちのおかげだって感謝するんだ」
「なんか……いいな」
ふと花と目が合い、花は権に微笑み返すと、恥ずかしくなり目をそらす。
「ふふふ、ねえ、権の夢は?」
「俺は……」
急な質問に権の頭の中は漠然とする。
(俺は、何がしたいんだ……?)
怖い、何も考えたくない、真っ白になった権の頭の仲、そこに、一つの予感がよぎった。
「名無しが近くにいる……!」
権は走り出す。
「俺は名無しと戦う! お前は逃げろ!」
「え、ちょっと!」
業火の鎧の姿で権は名無しと戦っていた。
権の方が優勢だ。
相手に攻撃をさせる暇も与えないように、次々と斬撃を浴びせる。
名無しは押され、後ずさりながら刀を受ける。
うまく、相手の腕を刀で弾くと、懐に素早く踏み込み、刀で切り上げると、相手の腕は宙に吹き飛んだ。
「やれる!」
高ぶりを表すように、鎧の炎が燃え上がる。
もう一度、気を整えて刀を構えると、名無しは恐れをなして逃げ出した。
「待ちやがれ!」
急いで権も追いかける。
「キャアッ!!」
名無しの逃げた先で、女の叫び声が聞こえた。
そこには、尻餅をついてカメラを抱いている花が、名無しに今にも襲われそうになっていた。
「花!? クソッ!」
間に合わない。
「間に合え! 『炎空刃』!!」
権が刀を力任せに振ると、炎の刃が高速で飛んでいき名無しの首をはねた。
権は体制を崩し、地べたに転がり込む。
名無しが消え安心し、花は切らしていた呼吸を整えた。
「よかった……ありがと、権」
花は権のもとへ行き、地べたに座る権に手を差し伸べた。
パシッ!
その差し伸べられた手を権は弾く。
急に立ち上がると、花の肩を突き飛ばし、民家の塀に背を付けた。
そして、花の顔の横の塀に拳を当てると、刀を花の喉元に突きつける。
「俺は、逃げろって言ったよな」
花を睨みつける。
花は急な出来事に驚いていた。
「ご、ごめんって、ちょっと気になっちゃって」
「これ以上俺に付きまとうんじゃねえ」
権は一切表情を変えずに花を見つめる。
花はグッと歯を噛み締める。
「……いやって言ったら?」
「邪魔だ、この場で斬る」
刃は喉と紙一重の距離まで近づく。
「私は権の名前を見つけるって約束した、そもそも人を守るための霊斬りのあんたが人を斬れるわけないじゃない!」
花は権を睨み返す。
無言の時が過ぎる。
「クソッ!」
権は荒々しく刀を下す。
花は息をつく。
刀をしまうと、頭をかきむしる。
「なんなんだよ……どうすりゃいいんだよ……俺は……」
権はフラフラと歩き出した。
「ねえ、どこ行くの!」
「もう……ついてこないでくれ……」




