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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十五話(清洲城編)
85/404

85部:尾張長光寺

一宮城から街道を南下する奇妙丸一行。

陽射しの中の移動で、冬姫の侍女衆に疲れが見えたので、下津おりず城郊外にて休息を取る事にした。

「この先に長光寺があるからそこで休息しよう」奇妙丸が寺に使者を派遣し、寺からの許可を得たので一行は長光寺に向かった。

「ご住職、少し世話になる」於八が先導して境内に入り住職に挨拶する。境内は広く居心地が良さそうだ。本堂前では白髭を蓄えた住職が十人の弟子を従えて到着を待っていた。

「織田家の御嫡男に着て頂き光栄に御座いまする」恭しくお辞儀をする住職達。

「お出迎え有難うございます。少し休息を取らせて下さい」

それでは中でお茶でもと、奇妙丸と冬姫達は本堂に通された。傍衆達は講堂や、数か所のお堂に分散し各自休息する。

「この寺では、埴原はいばら右衛門尉殿が信長様に仕官された時の話が伝わっております」茶飲み話として住職が語り始めた。

「どのようなお話でしょう?」仕官の経緯を知らない冬姫が問い返した。

「それでは」

住職がゆっくりと昔話を語り始めた。


ある日、鷹狩に出かけた信長が、昼寝をしようと寺の小堂に入ってきた。そこには既に巡礼の埴原次郎(のち任官して右衛門尉)が横になっていたが、それに気付かず、信長は彼を蹴飛ばしてしまった。

「後から来た人間が、先客を追いだすとはおかしいではないか!」次郎が飛び起きて信長に抗議する。

「これは失礼。私は信長と申す」

「おう。私は法華宗信者で、六十六部廻国巡礼をする諸国巡礼者、埴原はいばら次郎だ。神聖な身分の我に手を出すと祟られるぞ」

「尾張の者か?」

「信濃の国の出身だ。官牧埴原牧の領主にて埴原城の埴原氏(一門に小笠原家家臣の村井城の村井氏がいる)に繋がるものだ」

「なるほど。ならば問う。尾張の様な川国かわぐにでも、信濃の様な牧が作れるか」

「良い牧主がいれば馬はどこでも名馬になる!」

「面白い!」

「私に土地と資金があれば、日本一の名馬を育てて見せる」と次郎は言い切った。

「その言葉に嘘は無いか?」

「おう」と応じる次郎。

「決めた!」

「?」信長のいう事に訳が分からぬ次郎。

「日本一を育てて見せよ」

その後、信長の下に逗留して守役の平手政秀の下で客人として遇された。平手家で馬を育て、その手並みを信長に認められた埴原次郎は、このまま巡礼にしておくには惜しい人物だと、信長に請われて出仕する事となり、右衛門尉恒康(*1)と名乗る。

のちに平手家では、埴原右衛門尉の育てた馬を巡って信長と政秀の長男との対立が起きる事になるのだが、そこまでは住職は触れなかった。

住職の話が終わり、人それぞれに歴史があるのだと織田家家臣団を構成する人物のことを詳しく知りたいものだと思う奇妙丸達。

埴原恒康は、奉行衆として上洛し京都台所奉行・村井貞勝の補佐をしている。最近では、幕府の奏上により正式に任官して埴原加賀守と呼ばれている。


*****


*1 正式には常安。ここでは信長との親しさという点で池田恒興に倣って恒を、徳川家康に倣って康の字を用いた。


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