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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十二話(大坂、野田・福島の合戦編)『奇妙丸道中記』第六部
396/404

396部:前線の後詰

8月28日。摂津福島城、三好籠城軍。


福島城の大将格には和泉細川家の細川右馬守、三好日向守長逸、岩成左道、松山新介、香西越後守、三好為三、斎藤龍興、長井隼人道利らが立て籠もる。その人数八千。


更にその最前線で織田軍を食い止めているのは、負傷兵を含む浪人衆達で、堀城の千人、浦江城の千人、榎並城の千人だ。

その内訳は織田軍に追われた旧勢力、今川家家臣の朝比奈や、吉良家家臣の荒川・石川、三河一向一揆の石川、本多、内藤の一族。伊勢北畠家臣の本田・大宮。国衆の細野、美濃斎藤家家臣の日根野・日比野・長井・大沢・多治見、森の一族、南近江の川那辺、建部・永田・三井・三上の一族。畿内では岩成・粟屋・多羅尾ら、自分の拠点や故郷を失った陣借り浪人衆が立て籠もる。


陣借り武将の多くは先祖伝来の領地や家屋・財産を織田軍との戦いで失った者達だ。

足利義昭・織田信長の新政権が“憎し”の思いの中で、家門一党の離散に絶望し、心の拠り所として神仏への信仰に走った者もいて、

「例え現世で悪事の強盗殺人を行い、病気や貧困で苦しみ死んでも、往生際に“南無阿弥陀仏”を一心不乱に唱え、熱心に信心し、御仏の心に適うことに尽くせば、赤子のように仏を慕い清らかとなった魂は極楽浄土に辿り着き、来世は御仏の功徳を受けて“富と徳”のある家に生まれることが出来る」

石山本願寺に、魂の来世での救済を求め、魂と手持ちの全財産を捧げた信心深い門徒者達もいる。


彼らの残された家族・親族の老人や女・子供は、戦火を逃れて石山本願寺の領地内に避難し、一向宗組織の自警団(似たような境遇の人達からなる)に保護されている。

本願寺のおかげで、大切な家族を安全な場所に残し、恨みつのる幕府・織田軍とのいくさに集中できるので、三好軍前線の将兵たちの中には本願寺に感謝の気持ちがあった。


**************

同日、福島城内。

本丸陣所において戦評定が行われていた。


「古橋城に続いて、堀城も、浦江城も見捨てるのか!?」

斎藤龍興が陣借り浪人衆を代表して、三好日向守に詰め寄る。

「後詰めに出て織田軍の先陣を撃破し、活路を見出すべきではないのか?」

龍興の叔父:長井通利が、三好衆を睨む。

「堀・浦江を見捨てて、この軍に“義”があると言えるのか!」

一門の負傷兵を三城に残した武将達から、籠城戦への反発の声が上がる。


諸将は、味方を平気で見捨てる阿波の三好日向守の説得は駄目だと思い、昔、榎並城を拠点としていた摂津三好家の代表・三好為三に嘆願する。

「為三殿、お願いします、一刻も早く救援のご出陣を!」

榎並の土地に思い入れのある為三ならば、ここで織田軍に故郷を好き勝手されることに怒りを覚えるだろうと皆は期待した。

「ううむ」

腕組し悩む為三。


「今軽々しく出て行けば、大軍の前に敗戦は免れない。全員切腹の憂き目に合うぞ!!」

歴戦の老将で三好の侍大将:松山新介は出陣に反対する。彼は方面軍司令官として松永兄弟と比較されるほどの軍略家だ。

三好軍の中では、四国を長年抑えてきた篠原長房についで重みのある言葉だ。

重苦しい空気の中、

「見殺しにする訳にはゆかぬ。やはり、我らは救援に向かう」

今まで黙って両者のやり取りを聞いていた香西越後守が立ち上がる。香西は細川京兆の重臣として第三者的な立場だ。

「おおっ」

龍興ら諸国浪人衆が反応する。

「ならば儂も向かおう」

香西の言葉が後押しとなって、為三も心を決めた。


「ならば、勝手にせよ」

日向守長逸は彼等の説得を諦める。

「我らはお主達が危機となっても後詰には行かぬぞ」

松山新介が捨て台詞を浴びせる。


(薄情な奴等よ)

為三が、四国の三好とはやはり考えが合わぬと内心思う。香西越後守は別の思惑があって浪人衆や為三と行動を共にしようと決めていたのだった。

「夜襲をかける。身内を救いたいものは我に続け!」

「「おう!!」」

為三の激に応じて、三好日向守に反感を抱く浪人衆一同が立ち上がった。


京兆家の重臣である三好為三・香西越後守が己の手兵と浪人衆を集めて搦め手の水門広場に集まる。

水門前では、和泉の海賊衆を率いる沼間越後守清成が、船団を纏めて、為三や龍興の軍兵を迎える。香西軍には四国からの軍船もある。

彼等は両水軍の船に乗って三城の後詰に討って出たのであった。


****************


野田城には細川聡明丸六郎、三好山城守康長(笑岩)、十河在保、東条紀伊守、奈良但馬守、篠原右京長房、一門の篠原玄番允が詰めている。

その人数八千。


野田城では、聡明丸の下で評定が開催され、福島城から日向守長逸が来て、三好為三・香西達が後詰に出たことを聡明丸に報告する。

更に伊丹から、遊軍の総大将:安宅信康が伊丹城攻めの進捗状況と、これからの防衛戦の打ち合わせのため最後の軍議に合流してきていた。


「福島・野田は籠城の路線で変わらぬ」

聡明丸の方針に揺るぎはない。重臣の香西には、四国からの出陣前に言い含めたことがあるので、彼の動きにも期待している。

「「ははっ」」

日向守は最初から聡明丸に作戦を求めてはいない。

盛り上がらぬ形式的な軍議が進んだ。


*************


戦評定の後、三好笑岩入道康長と篠原右京長房は、二ノ丸の楼閣から自軍の戦況を見る。

浪人衆が三城に詰めているが、前線で織田軍と対峙する彼らが窮地に陥れば、石山本願寺保護下の親族の要請によって顕如が重い腰を上げて、京兆・三好方へと救済の手を差し伸べるのではないかとも踏んでいた。

「顕如殿は動くかの?」

「まずは、幕府の奴等の出方をみましょう。本願寺一向一揆が動けば兵力も逆転します。顕如殿へは“我らが四国へ追われれば、次は本願寺が危ない”と毎日使者を立てていますから」

篠原長房は、法主:本願寺顕如の説得に自信ありだった。


三好家の長老:康長は、父から託された三好家一族の行く末を唯々案じている。

“奢れる平家も久しからず“の故事もある。三好家がかつての平家のようにならないためには、と日々”次の一手“を模索するのだった。

康長が心配するまでもなく、軍師:長房の思惑と違うところで、本願寺顕如達は既に織田家に対しての軍事蜂起を決めていた・・。


**********

同日、石山本願寺。


その奥院では、坊官筆頭の下間法眼頼総が、宗主:顕如と二人で籠り昨晩から作戦会議を行っている。

逢坂御坊の大金堂。

今朝は準法主の教如を中心に、坊官達がそれに従って読経を行った。

早朝の祈りを終えた教如と、坊官:下間頼廉を待つ門徒集団。平時の厳かな静まりとは違い、和泉からは細川、摂津からは定専坊了顕といった名士が、檀家門徒を引き連れて非難してきているので、寺内は大金堂前の回廊石畳も大燈籠列の周辺も避難民で大混雑だ。


「教如様、お願いです。福島城の父を救ってください」

「頼廉様、祖父が福島城に立てこもっているようなのです」

老若男女の門徒達に取り囲まれる二人。


「身内を救いたいかぁー!?」

頼廉が門徒の皆に問う。

「「はいぃーーーー」」

「仏の前に、自分の身を犠牲にできるかぁー!?」

続いて教如が、皆に問う。

村の長者風の門徒が立ち上がり、皆を代表し答える。身なりから彼は武家ではなく農家の富者のようだ。

「仏さまへの信仰を守れるなら、死も本望です!」

「「そうだー!!」」

夜通し焚かれた松明が焦げ付く匂いの中で、盛り上がる民衆。


「お主達が御仏の心に従い、戦って戦死すれば、極楽浄土に辿り着くことは決まっているぞ!」

頼廉が皆に聞こえるように答える。

「「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」」“極楽浄土確定”の頼廉の言葉に有難味を覚える信者。


「お主達が仏敵の暴君と戦うというのであれば、教団から鉄砲を与えよう。鉄砲を手に取り、頼廉の指示に従うのだ」

金堂から、長き会談を終えてやっと出てきた筆頭坊官:下間頼総が、門徒達に法主:顕如の意思を伝える。


「「教如様、法眼(頼総)様、分りました! 宜しくお願いします、頼廉様!」」


兵隊となることを志願する門徒達により、下間頼廉の下に武士・町人・農民・性別・子供の身分差を超越して、鉄砲庶民隊、鉄砲婦人隊、鉄砲少年隊が編成された。

規模が膨らむにつれやがて下間家が、鉄砲衆の育成係(兼)統率者となり、鉄砲衆の人数は爆発的に膨れ上がっていくのだった。


更に半武家商人や豪農出身者から分隊長が決められ、河内国の西川・亀井・近江鯰江の森左近、三井、国友出身の野村一角斎。紀伊の田辺、内崎、志摩(島本)。三河からの岡崎・藤井といった頭目が決まる。


別動隊として和泉岸和田町衆の長:卜半斎了珍。紀伊の雑賀衆で鈴木一族の中でも熱烈な門徒の鈴木佐太夫と

孫一などが忠節する旨の誓紙を提出してきていた。


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